『パルプ・フィクション』の衝撃から9年。自身の監督映画製作は5年間の沈黙を守ってきたタランティーノの新作『キル・ビル』がついにこの秋公開される。LA、沖縄、東京、北京、メキシコを舞台に、ユマ・サーマンが黄色いトラックスーツで刀を振りかざし、ルーシー・リューが梶芽衣子の『修羅雪姫』ばりの衣装で登場し、タランティーノが愛してやまない故・深作欣次の『バトル・ロワイヤル』で見初めた栗山千明の女子高生殺し屋などなど…。触りだけでも彼のオタク趣味爆発!といった感じの作品だ。結婚式の最中に夫や身ごもっていた子供を元・上司のビルに皆殺しにされた闇の女エージェント、ヒロインのザ・ブライド(ユマ・サーマン)が昏睡状態から目覚め、ビルとその一味への復讐を決意し世界を股にかけた仇討ちの旅に出るというストーリー。仇の一人であるルーシー・リュー演じるオーレン石井の少女時代から殺し屋になるまでを追った部分は、アニメーションで表現され「攻殻機動隊」などで国内外から高い評価を受けているプロダクションIGによる製作である。どうしてもプロダクションIGと仕事がしたかったタランティーノ本人が、なんと直接国分寺のオフィスに現れ仕事を発注したという。IGの「ブラッド・ザ・ラストバンパイア」のイメージで、と頼まれたそうだが…。中沢一登監督に製作について、そしてタランティーノとの仕事について伺ってきた。






−−−アニメの部分の製作はタランティーノとどういう風に行われたんですか?
中沢監督「2001年の2月3月ごろにあちらから決定稿をいただきました。子と細かくカメラワークからアングルまですべて指定してある状態でした。制作中も逐一タランティーノさんにチェックしていただいていましたね。ただ、あまりにこだわりが強すぎてアニメでは表現できないようなカメラアングルを要求されたこともありました。ですから必然的に作業は楽ではない方向に進んでいってしまいました。タランティーノさんは、絶対あきらめてくれないんですよ。」

−−−中沢監督のこだわった部分というのはどこですか?
中沢「僕は自分は表現者ではないと思っているんです。どれだけ発注に合わせられるか、どれだけタランティーノさんの頭の中の映像をアニメーション化できるかを専らの課題にしていましたので、自分のこだわりどうこうはないです。ただ、”線”は日本のアニメの文化の一つだと思っています。世界中どこをみても日本の劇画タッチはどこにもないと思います。立体を意識していない絵、ですね。それがタランティーノさんの世界でどうなっていくのか楽しみです。」

−−−じゃあタランティーノの一番こだわってたのはどういうところですか?
中沢「やっぱりカメラワークですね。縦横無尽にカメラを動かしていく絵を求められたのでそれをどうやってアニメでやろうか頭を悩ませました。結構こちらからみてワルふざけで言ったんだろう、と思っていたことがタランティーノさんは大真面目で言っていたことだったりして。例えば口から文字を出すってところだったり。なにかにつけて、僕らアニメーターとは全く違う視点でした。でもタランティーノさんの考え方ってすごくシンプルなんです。シンプルすぎて誰もやらなかったことだったりするんですよ。ベットを下から見たら上に人間がすわったらそのままの形が残るはずだ、とか。目に炎が燃えているとか。」

−−−血が噴出すシーンなんですが、あれすごい勢いよくピュ−ッて出てるんですけど、やはりそれはタランティーノさんの指示だったりするんですか?
中沢「まぁ、指示はあったんですが、実際チェックの段階で「やりすぎ」っていわれてるんですよ(笑)。」

−−−オーレン石井は実写ではルーシー・リュ−さんが演じますが、そのことを意識しながらキャラクターを動かしたりしているんですか?
中沢「いえ、全く意識していないです。キャラクターを似顔絵にはしたくないんです。ストーリー上ではアニメのキャラクターと実際のルーシーさんが演じるオーレン石井は同一人物ですが、制作しているときは、全く意識せず独立した考えでやっていました。キャラクター設定は、石井克人さんと田島昭宇さんの2人が別々に担当されているんですが、二つのキャラが全く似ても似つかない絵だったんです。2人の作画を上手くミックスさせてひとつのキャラクターに仕上げるのは苦労しました。」

−−−お話をうかがっていて、なんだかそうとうタランティーノにおされ気味だったような印象を受けましたが一緒にお仕事されてどうでしたか?
中沢「はじめ依頼があった時、全然こんなオオゴトだと思ってなかったので、全米公開とか言われて終わってみてビックリ!という感じです(笑)。タランティーノさんはいい意味でオーラがない人ですね。人間関係に策略を持たないんです。でもすごく気を使ってくださってはっきり物は言うんですが、誉めるところはすごくよく誉めてくださって、それがけっこう励みになったりしていました。すごくテンションが高くて、自分で自分のギャグに大爆笑したりしているんですよ(笑)。この仕事はすごく大変でしたが、またタランティーノさんとやってみたいかと言われれば、是非やりたい!というのが正直な気持ちです。」

執筆者

綿野かおり

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