まさに体を張っての超絶アクションで、観客の度肝を抜き続ける香港映画。その影の立役者として、香港映画界を支えてきた特技の帝王がブルース・ロウだ。『ポリス・ストーリー 香港国際警察』(85)のスタントで映画界入り後、様々な作品で妙技を魅せ続け、88年には自身のスタント工房“猛龍特技”も設立。現時点で参加した作品はなんと200本以上を数え、男泣かせのアクション快作『ホーク/B計画』(98)では、劇場用監督デビューも果たすなど、多才な活躍を続けている。
 そんな彼の活動の足跡を、貴重なビハインド・シーンと、人気スター達の証言で綴り、特別上映された東京ファンタ2000でも大好評を博したドキュメンタリー作品が『ブルース・ロウ 猛龍特技 香港スタント伝説』で、満を持しての国内版ソフトも7月25日よりリリースが決定した。国境を越えたプロジェクトとなる待望の監督第2作の準備も始まるなど、次なるステップへの躍進を始めたブルース・ロウのインタビューをお届けする。

$navy ☆『ブルース・ロウ 猛龍特技 香港スタント伝説』は、2003年7月25日よりDVD&ビデオリリース!$






Q.この世界に興味をもたれたきっかけは?
——小さな頃から映画を観ることは大好きだったけど、将来仕事にするとは考えてなかったかな。中国語も、映画で学んだような感じだけど。
映画界入りするきっかけは、ジャッキー・チェンの『ポリス・ストーリー』から。製作当時は香港中のスタントマンを集めても、なかなか人員が足りず、特にバイク・スタントで高い技術を持った人がなかなかみつからなかったんだ。そんな時に、たまたま知り合いから紹介され、参加することになったのがきっかけだね。撮影終了後、ジャッキーからも参加したバイク・スタントの中で2番目に上手いと言われたよ。
以後、様々な作品に参加するようになったのだけど、楽しみながら学んできた感じだね。バイクや車のスタントからはじめて、次第にワイヤーや火薬を使った爆破ものなどまで総合的に行うようになったんだ。

Q.観る方では、どういったジャンルの作品がお好きですか?
——子供の頃夢中になったのは、台湾の有名な監督によるもので、竹林でのワイヤー・アクションがあるような奴だったな。『グリーン・デスティニー』の先駆け的な作品だね。その次に、ブルース・リーの作品が好きになり、自分でもカン・フーを学ぶきっかけになったんだ。それから、スタローンの『ロッキー』やシュワちゃんのアクションとか。今は、特にジャンルに拘らず幅広くドラマ等も見るよ。チャン・イーモウの作品なんかも大好きだし、日本映画では『鉄道員(ぽっぽや)』とかね。

Q.このビデオのタイトルにもなっているロウさんのスタントチーム「猛龍特技」ですが、どのくらいの規模で運営されているのでしょうか?
——88年の設立当初からあまり変化は無く、スタッフは20数名だよ。ただ、最近は中国での需要が増えているので、今後は拡大していくと思うね。中国はちょっと事情が特殊で、テレビドラマなどでも軍艦が使えたり、警察の車両を数十台使えたりと、かなり大掛かりなことができるんだ。これから、バイク・アクションを1本撮る予定があって、戦争アクションも計画中なんだ。

Q.それはひょっとしたら、監督作品ですか?
——バイク・アクション作品は、中国=日本=韓国の共同製作で、日韓のキャストも出演し、私が監督する予定だよ。現在脚本が仕上がり、中国側でチェック中で、数週間後にはキャスティングも決まっていると思う。撮入は9月か10月の予定で、タイトルは『ダウンヒル・レーシング』と言うんだ。








Q.『ホーク/B計画』以来、ファンお待ちかねの新作ですね。今から楽しみです。『ホーク〜』と言えば、このビデオの中でも紹介されてますが、冒頭のチャン・チーラムとスー・チーが暴走するトラックを停めようとする場面がありましたが、市街地からも結構近そうでしたよね。ご苦労されたエピソードなどありますか?
——実際は片側が山で、片側が街って感じでね。それをカメラのポジショニングで、どちらも街に見えるようにしたんだ。それと、スー・チーは運転が出来ないので、彼女の運転場面を撮るのは大変だったね。さらに、あのシーンの撮影の最後のほうでは、車が完全に故障し、全く動かなくなっちゃってね。仕方が無いから、ロープで引っ張って…。予算がかけられる撮影では、車を二台用意して一台はスペアにするところだけど、あの作品にはそれほど予算が無かったからね(笑)。

Q.ホテルの前での大規模な爆破テロ場面も大迫力でしたが、あれも実際のホテルの前で撮影したものですよね?このビデオの中で、スー・チーが「私は警察が来る前に失礼したけど(笑)」とか言ってましたが、何かトラブルはあったのですか?
——撮影は実際の市街でだよ。まぁ撮影した時には、特にどうこういうことは無かったんだけど、しばらくしてから警察に連行されちゃってね(笑)。それまでは、香港での火薬を使用した撮影には特にライセンスは必要なかったんだけど、この作品がきっかけにライセンス制になったんだ。「貴方のおかげで、予定より3年早くライセンス制になったんだよ」っ言われてね(笑)。実際ライセンス制を施行するに当たって、私も法規定の作成に参加し、その最初のライセンスを取ったのも自分だったんだ。

Q.このビデオを観ていても、フィジカルなスタントの現場が大興奮ものでした。ところで、現在ハリウッドのアクション場面などではデジタルを大量に導入していますが、生のスタントを主体としているロウさんは、スタントとデジタルについてどのようにお考えですか?
——自分の経験から言えば、アナログがいいのかデジタルがいいのかは、その作品が作られた国や種類によって異なるよね。もし、それがアジア製の作品だったら、自分の場合はアナログで行い、CGはほとんど使用しない方向で考えているよ。縁があって、欧米作品に参加するとして、規模の大きな作品の場合はCGの導入も考えるかもしれないけど、予算にも直接絡んでくるからね。
正直、なんでもCGでという考え方には賛成できかねない。それは人間がギリギリでできなかったことの補佐として使うべきものだと考えているし、人間のやること全てに成り代われるほど万能でもないからね。だから自分が参加するアジア作品では、なるべく人間自身のアクションを主体に考えているんだ。もし、CGを使用するとすれば、それがCGであったことを観客に意識させないことが、最低の合格ラインじゃないかな。
勿論、CG自体は個人的にも大好きだけど、それは上手く使うべきだよね。あまり使いすぎると、映画ではなくアニメーションになってしまうと思うんだよ。『ジュラシックパーク』などはいい使い方をしてるなと思ったけど、香港アクションでも『風雲』とかは、映画よりはアニメーション的な感じを受けてしまうよね。





Q.このビデオの中で、これまで出演されてきたスターの方々が、コメントを寄せられてますが、ロウさんに対してすごく信頼されているのが伝わってきましたが、そうした信頼関係を作るために心がけている演出術はありますか?
——そういった部分は、その場での指導というよりも、長年にわたってやってきた、私のやり方を理解してくれた上でのものだと思うね。経験を積んだ俳優の方々とは、一緒に成長してきたわけなので、そうした中から安心感を持ってもらえているんだろうね。逆に新しい俳優さんは、この業界に入った段階で、この人に任せれば安心だといった類の私の噂は聞いているだろうし。

Q.200本以上の作品で、毎回アクションの見せ場を考えられるのは、大変なことだと思いますが、そのアイデアの源泉は?
——特に何をどうしようということでは無くて、常に考えているということかな。車を運転している時も、座っている時も、歩いている時も、どんな時でも、常に研究している状態なんだよ(笑)。

Q.最後に、これからこの作品を観る方に向けてメッセージをお願いします。
——このビデオは、様々な作品の秘密を観れるし、香港映画の発展の歴史も知ることができるんだ。しかもこれは、私のこれまで参加してきた作品の集大成でもあるので、是非とも皆さんに観ていただいて、作品を好きになってもらえればと思うね。最後に付け加えると、ハリウッドは西側だけではなく、東側にもあるんだよ。

本日は、お忙しいところどうもありがとうございました。

(2003年5月28日 マクザム本社にて)

執筆者

殿井君人

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作品紹介
Bruce Law Stunts Unlimited