実録大作ドラマに超絶アクション、ノスタルジックな青春映画に作家性の色濃いアート系作品と、今年も多彩な作品がエントリーされたゆうばりファンタのヤング・コンペだが、その中から見事今年のグランプリに輝いたのは、血と汗と涙が飛びかう超絶な野球を描いた『地獄甲子園』だ。漫☆画太郎の原作を、作品の肝というべきスピリットを抽出した上で、さらに物語を膨らませ、死んだ人間が生き返ってもあたりまえな無茶苦茶な世界を、真正面からエンターテイメントとして描ききった快作になっている。なんてったって、映画祭プロデューサーの小松沢氏までが、映画祭最終日の特別上映の際に、「他の映画祭だったら、コンペには入れません」と実に嬉しそうに語っていた姿からも、作品のパワフルさ、新しさは保証済みと言えるだろう。
 映画祭には本作が劇場用長篇デビュー作となった山口雄大監督、『VERSUS −ヴァーサス−』に続いてのゆうばり参加になった坂口拓、本編を観れば誰もがドギモをぬかされる本作の最終兵器、三城晃子の3名が参加。自主製作での山口監督と坂口のコラボレーション作品、『手鼻三吉と2(トゥワイス)志郎が往く』『名探偵・一日市肇』もフォーラムシアター部門で上映されるなど、ニューエンターテイメントの旗手が大きくクローズアップされたゆうばりで、受賞発表直前に敢行したインタビューをお届けしよう。

$navy ☆『地獄甲子園』は、2003年7月19日(土)よりシネクイントにてレイトロードショー、全国順次公開!$




Q.まずは、ゆうばり映画祭に参加してのご感想をお願いします。

坂口拓——僕は2年前、チーム”VERSUS”として参加したんですけど、2年経って来ても前と変わらず、「お帰りなさい、拓ちゃん」と迎えてくれるのが、雪国なのにとても温かみを感じましたね。
山口雄大——僕は『VERSUS −ヴァーサス−』の時は来れなかったのですけど、その前に一度自主映画を持ってきているんですよ。その時から坂口君と、ずっと作っていたんですけど、今回ヤング・コンペという形で出させていただいて。ほんと皆温かく迎えてくれるじゃないですか。すごくいい町だなって思って、今年来て、来年もし呼んでいただけることがあれば、拓ちゃんのように「お帰り」って言われたいな…というのはすごくあります。それと、夜のロケーションがすごく綺麗なんですよね。町を綺麗に照らすライティングがよく、昼間と夜の印象がすごく変わるロケーションのいい町だなと思いました。
三城晃子——私は初めてですが、皆さん本当に温かい方々ですよね。びっくりしました。

Q.山口監督は本作が劇場用長篇監督デビュー作ですが、漫☆画太郎氏の原作ものに取り組んだ経緯とポイントをお聞かせください。

山口——もともと『地獄甲子園』は仕事として以前にずっとやりたくて、『VERSUS』を作る前、 自主映画時代から、マンガを読んで絶対にやりたいよね、はじめに作るのはこれがいいよねって話しをずっとしていたんです。それで『VERSUS』と『ALIVE』をやって、山口雄大の作品を作ろうかという話しになった時、『地獄甲子園』しかないでしょうって。本来だったら、インパクトのあるマンガなんでああいうのって企画は通らないですけど、それをプロデューサーである北村龍平監督の力で強引に押し通し、製作ラインにのせ、僕が自由に作れる状況にしてもらったんです。北村監督からは、本当に自由にやらせてもらいましたよ。脚本の段階で、こうしたらいいんじゃないかみたいな話しはありましたが、製作に入ったら何もなかったですね。すごく楽しく作らせてもらったんですよ。
マンガがあまりにも好きだったんで、それをどう映像化しようかというのを考えながら、でも映像化しようがないよとも思ってたんですよ。最初から(笑)。どうしようか、どうしようかとずっと思っていて、原作を読まれたらわかると思うんですけど、すごいアバンギャルドな終わり方をしてるんですね。なので、映画で同じ事をやっても面白くない。だから、漫☆画太郎さんのスピリットだけを受け継いで映画化しようと思って。『地獄甲子園』というネタなのに、観終わったら結構爽やかな青春映画だったら面白いんじゃないかとはすごく思っていて、そういう点はすごく注意してやりましたね。それが漫☆画太郎さんのマンガの核心のところだと思うんです。やっぱり、絵もすっごいきついし、ゲロやウンコや裸とか無茶苦茶出てくるんですけど、でも根底はとっても爽やかなんです。やっぱり少年マンガとして描いていますから。そういう部分で、画太郎さん的な誇張をしてやりたいなと思ってましたね。






Q.坂口さんは『VERSUS』ではリアル・ファイトを見せてくれましたが、今回はマンガが原作ということもあり、特にマンガ的に誇張したアクションもされてますが、そのあたり演じるに当たって意識されたことはありますか

坂口——基本的に自分のアクションの軸になっているものからは、決して外れてはないです。まず、ぬるくはしないというのが僕の信念なんですけど、パンチしました、キックしましたみたいな、決まりきったアクションを見せたってしょうがないと思っていますから、いかにきわどく迫力があるようにやるかという点ではズレてないです。ただ、『VERSUS』と違って、リアルだけじゃなく観てて面白いようにと。だから『地獄甲子園』では、頭突き3回連続でやってたりするんですよね。ちょっと番長がやりそうな喧嘩。高校の時って、拳使うよりも頭つかったり、肘使ったりする喧嘩が多いじゃないですか。逆にそういうアクションをやりたいなと思って作りましたね。だから、マンガだからというのではなくて、十兵衛というキャラクターですよね。十兵衛だったら、どう喧嘩するのかってところでは拘りました。
山口——判りやすいところでは、『VERSUS』では闘っている時黙っているんですけど、今回はメッチャ声出してるんですよね。不良っぽい喧嘩をしてるんです。

Q.その拘りの喧嘩の相手として、三城さんのババァも登場してくるわけですが…

山口——原作ではあの役は無いんですけど、漫画太郎さんのマンガって必ずいいキャラのババァが出てくるんですよ。それで僕等の好きな画太郎さん作品を映画化するに当たって、これはババァを入れなければいけないだろうということからの発想なんです。
三城——もう、練習が本当に大変でした。全然わからなかったので。皆さんの足を引っ張るようで、本当に辛かったですけど。
山口——和歌山市で1ヶ月間合宿をして撮ったんですけど、実際には三城さんの出番って4・5日くらいでしたけど、ずっといてもらってアクションのトレーニングをしてもらったんです。
坂口——本当に三城さんは努力家で。最初に三城さんのアクションを観た時には、これで自分とやるのに変に手加減してぬるいのをやるのは嫌だなって思ったんです。お年を召された方だしどうしようかと思ってたんですけど、本当にみるみるうちに上達されて。本当に三城さんの頑張りがあって、一緒にやれたなっていうのはあります。だから、僕の中でもあのシーンは本当に好きなシーンで、感謝していますよ。







Q.三城さんはアクションにいたるまでの描写でも相当強烈なキャラクターを見せてますが、ああいったマンガ的なキャラはいかがでしたか?

三城——ただ、一生懸命やっただけです。でもこの映画のおかげで、自分の半分の年ですよね。娘・息子の年の皆さんと、仲良くさせていただいて、メル友も増えるしで本当に幸せです。

Q.役を演じられてる方が、例えば最初の番長が小西博之さんだったり、とても高校生に見えない当たりが、往年の不良映画みたいですよね。そのあたりは、意識されてのことですか?

山口——『不良番長』とか大好きなんですよ。特に何をということは無いのですが、石井輝男さんの映画とか…。今回石井輝男監督からも、脚本でちょっとアドバイスをいただいているんです。その頃同じ学校で講師をさせていただいていたので、こういう作品を撮るんですってシナリオをお見せしたら、これすごく面白いねって言ってくれて。ただ、構成上はこうした方がいいよとかアドバイスをいただいて、それですごくよくなったんですよね。実際、石井輝夫さんの映画とか『不良番長』とかばっかり観ていたから、そういうのが根底にあるんでしょう。だから、高校生に見えない人がっていうのも、僕の中では普通なんです。全然不思議に思わないんです。
坂口——自分もやっぱり雄大監督と一緒で、お互いに映画の趣味が似てるってこともあって、僕も石井監督の『忘八武士道』とかが大好きで。だから、お互いに作ろうとする映画のビジョンが似てるところがあるんで。
山口——ただ、昔の石井監督の映画とかは、あれはあれで出来ているものだから、今もう一度やってみてもしょうがない。そこに新たな描き方をしたいなと思って。きっと『地獄甲子園』って、百人が観て百人が好きになる映画だとは思わないですけど、好き嫌いはあるにせよ誰も見たことの無いようなものだと思うんです。何かに似てるねってのは、おそらくないんじゃないかと。そこはすごく自信を持っているところなんです。

Q.劇中、ドラマとは関係なく背後で電話をかけてる女子高生の描写が何度か出てきますが、あれも原作通りなんでしょうか。それとも、ああいう姿がとっても嫌いだとか…(笑)?

山口——そんなことは全然無いです(笑)。オリジナルですよ。ただ単にギャグを盛り込むのが好きなんで、拓ちゃんがトルネード投げる場面で携帯かけてたらおもろいんじゃないかと。ズッカー兄弟の作品とかで、後ろの方で何かやってる人がいたりするじゃないですか。最初観た時は、何かよくわからないけど後で見るとわかるみたいな。そういうのを入れたかったと言うのはありますね。
坂口——監督は欲張りなんでしょうね。いくつも、笑いの仕掛けを置いておきたいんですよ。だから、隅々まで小さな所で何かしてる人がいたりと、それが拘りなんだと思います。そう、雄大監督はズッカー兄弟が大好きなんですよ。でも、雄大監督は、日本のコメディの新しい分野を切り拓いているんじゃないですかね。

Q.そうしたギャグは、現場で演じられる皆さんからもアイデアを出されたりもしたんですか?
山口——前日とかに話をしてこうしようかとかはあるんですが、現場でアドリブが入ることはほとんどないです。コメディというか、笑いの映画を撮る時に一番注意しているのは、現場だけ面白いということが無いようにということです。大体アドリブって、その場では面白いんですが、後から冷静にみたりするとやりすぎてたりすることがあるので、そういうことは排除していくようにしています。あらかじめ用意したものとか、事前に考えたこと以外はやらないように気をつけています。コンテはきってますし、基本的にコンテ通りに撮って行く方ですね。やはり笑いは、積み上げていくものだと思ってます。突発的なものだとシーンが面白いだけで全体が面白くなるわけではない。そのあたりはすごく気を遣ってますね。

Q.では最後に、これから作品を観る方にメッセージをお願いします

山口——さっき、坂口君も言ってましたが、すごく新しい形のコメディになってますので、楽しみにしてください。劇場公開時には、『ラーメンバカ一代』という短編もくっついてます。それは、またちょっとタイプが違うように作ってますので楽しめると思います。よろしくお願いします。
坂口——本当に新世代ムービーです。新しい扉を雄大監督が開いてくれたと思うんで、色々な楽しみ方が出来ると思います。本当にバカなことを一生懸命やった映画なので、そういう楽しみ方をしてくれたらいいなと思います。
三城——私は初めてやった、カンフーババァを見ていただければと思います。自分だけのことで申し訳ないですけど。

本日は、どうもありがとうございました。

(2003年2月16日 ホテルシューパロにて)

執筆者

殿井君人

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