[コリアン・シネマ・ウィーク2002] 『フー・アー・ユー』チェ・ホ監督インタビュー〜21世紀型恋愛映画とは?
さまざまな題材を用いてさまざまなジャンルの映画を作り続け、華やぎを見せる現代韓国映画界。IT分野でも日本の先を行く華やかさを見せている。
そんな韓国ならではの1本が、このオンラインゲームを題材にした『フー・アー・ユー』だ。ネット恋愛ものということでは、先にハン・ソッキュ主演の『接続 ザ・コンタクト』がビデオリリースされているが、この『フー・アー・ユー』は、ネットの恋愛ゲームを題材に、ヴァーチャルと実社会でのふたりの関係のギャプを、ただのギャップからアイデンティティの問題にまでもっていきつつ、それを若々しい明るいタッチで描いているところに特徴がある。韓国では、21世紀型恋愛映画と言われたとか。
主人公は、ゲームデザイナー・ヒョンテ。彼は、彼のチームが手がけた恋愛ゲームのベータテストを誹謗する女性インジュに興味を持ち、取材名目で本人と会い、また、正体を隠してインジュのゲームパートナーになる。ゲーム上ではベストカップルになるふたりだが、相手がヒョンテと知らないインジュの目には、現実のヒョンテは利己的な男としか映らない。現実にインジュを愛し始めたヒョンテは、そんな現実に苦しみ、ゲーム上の自分に嫉妬すら感じるようになる。
ヒョンテを演じるのは『春香伝』のチョ・スンウ。『春香伝』や公開待機中の「クラシック(原題。『猟奇的な彼女』のクァク・ジェヨン監督最新作)」では端整な印象を残すチョ・スンウだが、本作では陽気で時に熱い現代青年を演じている。ヒロインの、イ・ナヨンは、出演作はまだ少ないが、本作の好演で脚光を浴びた。
監督は、かつては16ミリで社会問題を撮っていたというチェ・ホ。監督もたいへんなオンライン・ゲームのゲーマーで、自らをゲーム中毒と言っている。
チェ・ホ監督は、昨年10月にコリアン・シネマ・ウィーク2002で来日。その際、韓国のネット事情なども含めてお話をうかがった。では、監督インタビューをお届けしよう。
——まず、インターネットのゲームを素材にした発想から聞かせてください。
「韓国では、2001年末くらいからブロードバンドが爆発的に整備されてきて、若者がひじょうに安い価格でネットでゲームを楽しめるようになってきました。人気もとてもあります。ネット上の放送のなかでは、MTVという音楽放送がいちばん人気で、その次にゲームチャンネルがきて、ひじょうに高い視聴率を示しています。韓国の若い世代を語る上で、ネットとゲームは外せないものなのでテーマとして選んだのです。我々の映画会社は、『JSA』を作っていますが、『JSA』は幅広い層を対象に作ったものでしたので、今度はより若い世代にターゲットを絞ろうということになり、若い世代の喜怒哀楽を表現したこの映画を作ることになりました」
——何か具体的に実際のエピソードを取り入れたということはあったのですか?
「自分自身がゲーム中毒であるということですね。デビュー作が青春時代を描いたものだったので、そういう部分でも自分と重なるところがあったと思います」
——失礼ですが、監督は毎日何時間くらいゲームをされているんですか?
「……次のシナリオを書かなければいけないんですが……韓国では、日本とはゲーム環境が違っています。日本はハードを買いますね、セガサターンとかドリームキャストとかプレイステーションとか。韓国ではPCゲームですね、ウィンドウズならその環境のなかでゲームをするということが活発です。特に2000年ごろからゲームのオンライン化が進んでいて、それをひじょうに好む若い層があります。先日、ゲームをやっていて亡くなった人が出たというニュースがあったんですが、そのくらい中毒性があります」
——本国では、21世紀型恋愛映画と紹介されてきたと思うんですが、それは、インターネットという環境などの変化を指すのか、それとも恋愛そのものが違っているのか、どうなのでしょうか?
「前提としてあるのは、この映画はSF映画ではないということです。70年代のようなクラシックなこてこての恋愛よりは新しいスタイルになってはいます。インターネットとかゲームというものを使ったことにより新しいものだと受け取られていますが、やはり恋愛というものはいつも同じだと思います。インターネットやゲームは包装素材のようなものであって、若者たちがなじんでいるものであっても、核心の部分ではありません」
——インターネットのサイトを通じての恋愛というものはどうなのでしょうか?
「既存のコミュニティでは、たとえば小学校・中学校・高校とあがっていき直接人と人とが出会ってコミュニケーションを取り合っていました。インターネットでは同好会という言い方をするんですが、そういうコミュニティがあり、その同好会の人たちが外で会うということがよくあります。この映画のなかでもそういうシーンがありますが、人間同士が出会うと当然恋愛感情も生まれたりします。つまり、人と人が出会う新しい手段としてあるということですね。普通は出会って会話をすることで生まれてくる感情が、最近の韓国では、この映画でもそうなんですけど、出会う前にチャットとかネットのやりとりだけで恋愛感情が生まれてきます。それは、特に新しいことではないのです。
この映画での男女の出会いですが、男性は女性がどういう人か知っているわけです。実際にも見ている。女性のほうは知らない。陳腐なラブコメ的な展開ではあります。話が進んでいくと、女性は男性に悩みなどを告白していく。男性は、話を聞いてあげて、オンライン上で絵を送って勇気づけるのですけど、現実の生活ではまったく気持ちも通わないし、何もしてあげない。映画が後半にいくにしたがって、お互いに葛藤を感じていくわけです。現実の自分が本当なのか、オンライン上の自分が本当なのか。そういう葛藤が生まれてくるなか、それが解決できない方向に向かっていきます。韓国で上映されたときのサブコピーに“僕はいったい誰と遊んでいるんだ? 私はあなたの何なのか”というのがついたのですが、そういった内面の心情が出ていると思います」
——デビュー作、そしてこの作品と恋愛映画を撮ってこられましたが、次回作のご予定は?
「この映画のお陰で次回にも取り組めるようになりました。いくつか候補がありますが、いまお話しできるのは、ホラー映画だということです。吸血鬼をテーマにしようかと思っています」
執筆者
みくに杏子