「あれくらいの年の子供だとワイロは絶対必要なんだ(笑)。これやってくれたらテレビゲームやってもいいよ、とかね」(ピート・ジョーンズ監督)。マット・デイモン&ベン・アフレックが立ち上げたオンライン脚本コンテスト“プロジェクト・グリーンライト”。1万二千本の作品から選ばれた作品がピート・ジョーンズの「夏休みのレモネード」である。脚本を書いたピート自らがメガホンを撮り、(もちろんデビュー作なのだが)、映画撮影と同時、ドキュメンタリー番組の取材対象にもなり、さまざまなプレッシャーのなかで家族映画の秀作は完成。公開に先駆け、来日したピート・ジョーンズ監督は親しみやすいキューピーフェイス同様、気さくな人柄が印象に残った。知られざるベン・アフレックの贅沢な悩み(?)を始め、映画秘話をここに紹介する。

※「夏休みのレモネード」はシネスイッチ銀座にてロードショー公開中!!





——まず、1万2000本の脚本から選ばれた感想を。
ピート・ジョーンズ 嬉しいというより責任感を感じてしまったのが本当のところ。何故って審査員の前で自分を売り込もうとあらゆることを言っていたからね。「いかにこの脚本に価値があるか」、「自分はすごいものを撮れる人間なのか」って。いざ受賞が決まった主観に思ったのは「テキトーなこと言っちゃったけどどうしよう、僕にできるのだろうか」ってこと(笑)。そんなプレッシャーの方が大きかったね。

 ——プロデューサーのベン・アフレックやマット・デイモンは何かアドバイスを?
 一番素晴らしかったアドバイスはね、「これは君の作品だ。だからまず自分でやってみてくれ。どうしても、どうしてもわからなくなった時にだけ電話をくれよ」ってこと。彼らは僕のやり方を尊重してくれたんだ。

 ——逆に「どうしても、どうしてもわからなくなった時」はありましたか?
 キャスティングでね、3人の候補者が残ったんだけど僕には3人ともいいように見えた。そこで、俳優でもある彼らに聞いてみたらいいんじゃないかって電話した。でも、出てくれなかったよ、映画スターはお忙しいことで(笑)。・・・なんていうのはウソで、ベンもマットも自分の映画の撮影中だったのにも関わらず、心よく相談に乗ってくれたよ。

 ——彼らとは同世代ですよね。気の合う仲間という感じですか?
 ベンもマットもすごいと思うのは自分たちを本当に普通の、ボストンから出てきた普通の人なんだって、そう思ってるところなんだよ。あれだけ成功しても、たまたまブレイクした凡人に過ぎないって思ってる。だから、僕のような境遇にある人間の気持ちも理解してもらいやすい。彼らとの面白いエピソードはたくさんあったね。
一度、こんなことがあった。ベンと飲みに行ったんだけど瞬く間に女の子に囲まれてね。彼いわく「ほらね、大変なんだよ、映画スターは」って(笑)。ベンは結婚している僕のことをいつも羨ましがってた。名声もお金もあって、たくさんの女の子にも囲まれて、いったい何を言うんだい?って気にもなるんだけど、こんなことを言っててね。「確かに富も名声もある。だけど逆に、本当の僕を愛してくれる女性なんて一生現われないかもしれない。君の奥さんのように本当に愛してくれて自分を理解してくれる人なんて現われないかもしれない」。うーん、僕にとっては贅沢な悩みだと思うんだけど。






——さて、映画の内容についてお聞きします。子供たちの演技が自然で素晴らしかったです。何か留意した点は?
 秘訣はとくになかった。というのも、僕自身まったくわからなかったから(笑)。敢えていえばそれを正直に話したことかな。僕もわからないし、君たちもよくわからないはずだよね、でも、わからないなりに一緒にがんばってみようって。
 あと、ワイロだよね(笑)。これやってくれたらあとでテレビゲームをやっていいよ、とか(笑)。僕らは20歳くらい年が離れているけど最終的にいい友達になれたね。

 ——個人的にはピートの父親像に興味を持ちました。彼にはそれなりのインテリジェンスもある。けれど、どこかで自分はしがない消防士だと思っている。息子の一人が大学に行くことに過剰な反応を示しますが。
 この役柄はね、僕が知っているある人がモデルになっているんだよね。僕自身、ひとり息子の父親だけど、父親というのはもちろん、子供に幸せになってもらいたい。だけど、子供が自分より偉い人になってしまうことに脅威を覚えるものでもある。ピートの父親が、息子に教育が必要だと思う反面、ああした言動に出てしまうのもそうした葛藤からくるものなんだ。

 ——このお父さんはなかなかウィットに富んでますよね。3才くらいの娘が子供らしい可愛らしさで「今日すごいことが起こったのよ」と、大人にとっては全くすごくないことを告げます。彼女の兄は「ああ、面白い、すげえや」とげんなりした顔で言います。そこで間髪極めず、父親が娘に「話し方教室に行け!」。この毒舌、かなり気に入りました。監督には毒気のある作品も書けるのでは、と思ったのですが。
 ・・・・・・(笑)。気に入ってもらえて嬉しいよ。子供がわからないようなジョークを大人同士で言い合うっていうのが好きなんだ。映画でもブラックユーモアに富んだ作品を見るのは大好きだよ。でも、自分自身ではそうしたユーモアで作品を支えきれる自信はまだないな(笑)。

 ——少年ピートと白血病の男の子ダニーの物語が中心になりますが、ラスト近くの展開はハリウッド映画のようなお涙頂戴的な流れにあらず、意外に淡々としたものです。これは意図したことですか?
 うん、これは予め意図していたことだね。こういう終わり方のほうが感情面での影響が強いと思ったんだよ。謝りたかったのに謝れなかった、実際の人生にはこういうことの方がずっと多い。そして、そういう状況の方が人の記憶に残るものなんだよ。
 
 ——脚本家としての自分と、監督としての自分。この2つに違いはありますか?
 脚本の執筆は自分の内側へ向かっていく作業だよね。そこでは自分だけの世界を好きなように作り上げられる。逆に監督は外部の世界にそれを形作っていく作業。方向性としては全く反対のことだよね。今回、自分としてはその作業はうまく出来たと思う。自分の頭の中にあった世界をそのまま映像化することができたから。

 

執筆者

寺島万里子

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