高橋ツトム原作のコミックを、『VERSUS−ヴァーサス−』組の主要スタッフ・キャストが再集結して映画化したソリッド・サバイバル・アクション『ALIVE』の、満を持してのロードショー公開がいよいよスタートする。死刑囚八代天周が死と引き換えに参加させられた謎の実験。その果てに待つものは、死よりも過酷な運命だった。
心に闇を抱えた死刑囚・八代天周は、『VERSUS』では超然としたヒールを演じた榊英雄。北村龍平監督作品への連続出演はもとより、様々なクリエイターの話題作への出演が続き、また『新・刑事まつり 一発大逆転 軍団刑事っ!』では商業監督デビューを果たしている。
『ALIVE』の撮影は『VERSUS』が公開された2001年。ファンにとってもまさに公開が待望されていた作品だが、演じられたご本人に今の心境を訊ねたところ「撮影から丸2年が経って、今は客観的に観れますね。まずは若いよねって(笑)。内容的には不変ですし」と、その表情は実に晴れやかだった。撮影時のことから現在の仕事まで、大いに語ってくれたインタビューをお届けしよう。

$navy ★『ALIVE』は2003年6月21日(土)よりシネマスクエアとうきゅうにてロードショー!$




——『VERSUS』の時の超然とした悪のヒーローから、今回は心に傷を持った死刑囚という全く異なる役柄ですが、最初に話があった時の御感想は?

『VERSUS』は半分自主映画で、ノリじゃないですか。やりながらキャラクターを作れましたけど、『ALIVE』は脚本ありきで。凄いセットも作ってたし、お芝居をした、仕事をしたという意味では『ALIVE』ですよね。主演というのも久々でしたし、脚本を読んで明確にどうしようか、こうしようかというプレッシャーは高かったし…。『VERSUS』は良い意味でのお遊びでしたしね。
お話をいただいた時は、死刑囚じゃないですか。当然イマジネーション勝負で、確固たる原作もあるから、僕がどうしようかと言うよりは、監督とも話したんですけど、素晴らしいセットがあってそこに入っていくだけで芝居の準備が出来たし、集中し易かった。共演者もよかったから。
あまり複雑に考えてやる方でもないんです。特に『ALIVE』に関してはあの衣装を着てセットに入った時点で、八代天周できるよ、と自分に言い聞かせてしまいましたから。後はあのラストシーンで、空を見て僕の表情がどう変わるかに、監督の勝負がかかっていたので、それ以外はあまり考えなかったです。

——格別に、アクションより心理描写を意識したわけではなかったと…

ないですね。もともと僕は、アクションが得意で好きでという風にやってきたわけではないので。逆にアクションの無い方が、役者を問われるじゃないですか。台詞が無くて。今回そういう目線的なものも大事でしたし、ほぼ内面的な芝居でしたからね。

——前半は、専ら杉本哲太さん演じる権藤との二人芝居で展開していきますが、杉本さんがテンション高くにぎやかに演じているのを静かに受ける役といった感じで、そのあたりはいかがでしたか?

もう、脚本読みの段階から哲太さんそうきたし、じゃぁこちらは静かにいこうと思ったんです。もともと原作の八代もそれに近かったので、ああいう御芝居のテイストにつられずに両極にいるようにやろうかなと思いましたね。長回しの円形レーンのシーンがあったじゃないですか。あれは絶対哲太さん動くと思ってたんで、僕はできる限り立った位置から動かず、身体の向きだけでやることにして。途中、みさ子が出てきた所で、権藤に「そういう汚い言葉を言うな」と言って殴るところまでは、ひたすら押さえようぜという話を北村監督ともしていたので。巧くいったかどうかはわからないですが…

——実際その対比が効いていたと思いました。勿論、わーっと出してしまう方は出すほうで大変な部分があるとは思うのですが、それを受けると言うのもまた大変じゃないですか?

今気付いたんですけど、そういうのが役作りだったのかもしれませんね。天周は未だ動かない、ここは動く、暴れる、最後に解放した笑顔とシンプルに纏めてましたから。僕もあまり御芝居、御芝居すると、セットに負けてしまうかなと思っていたので。それが僕のテーマでもあったし。






——撮影期間は?

2ヶ月間。ほぼセットで、ずっとあの中ですよ。もう蒸し暑くて(笑)。実際、撮影前は72Kgだったのを、監督からの話もあって撮影開始時には65Kgくらいにしたんですが、兎に角セットも衣装も暑くて…。どんどん落ちて62Kgとかになって、結果的にいい感じになったなと。
天周も権藤もずっと抑圧されてるじゃないですか。自分の恋人の復讐で死刑囚になった男ですから、あまり現場で騒いでいても悪いのかなとか思って。そうなると現場でも一人でぽつんと、共演者ともあまり話さなかったんです。逆に暴れるところでは、ストレス発散でよかったなと。そこまで結構きつかったですよね。

——暴れるところというと、原作には無かったクライマックスですが、『VERSUS』に続いて坂口拓さん演じるゼロスと再びバトルを演じられてますね。もともとアクションの方からではないとおっしゃられてましたが、実際のファイター出身の坂口さんとのアクションはいかがですか?

ブルーバック撮影だったんですけど、役者ってああいう時に燃えないんですよ。暑いし、お互いワイヤーでつられて、レールも移動もあって、そんな中でアクションをやっていて。でも、『VERSUS』とは違ったアクションが要求され、今回できるだけコマは落とさない、顔以外はフルコンタクトであててくれという監督の設定で来ていたんです。坂口さんはもともとボクサーですから殴る術を知っていて、逆に痛いんですよ。でも痛い顔も出来ないし、テスト含めて何十回と殴り合って痣だらけになって…(笑)。
そういう大変さはありましたけど、アクションの相手としては最高ですよ。僕が少々ミスったって彼は受けてくれますし、『VERSUS』、『ALIVE』とやって安心ですよね。他の方とやると気を遣っちゃうけど、彼なら当りそうになっても交わしてくれるし、そういう信頼関係はあります。僕はアクションを学んでは無いから、騙し騙し練習しつつ、やってたんですけどね。

——続いて『地獄甲子園』の方でも戦われて。正直私は最初に観た時、榊さんがどこに出てたのかな?って判らなかったんですが(苦笑)、ああいう特殊メイクでの役柄はいかがでしたか?

あれはもう、楽しかったですよ。全然OK!っす。ほういちだったらやるって山口監督に言ったくらいですからね。コミカルで、自分の中にキャラを作って演るというのも面白いですしね。もっとやりたかったんですけど、日程的なこともあってあれくらいしかできなかったんですけど。
まぁ日常を描く話もやりたいね、なんて話はしてるんですけど。向田邦子だとか、寺内貫太郎一家とか、やりたくてしょうがないんです。で、僕の友達で山田純大が、ドロドロの昼ドラから一転しホームドラマをやるんですよ。そういうのいいなってね。だから、こういうアクションの芝居もあったけど、逆に今はそういうチョイスもできるし。






——ホラー映画ですけど、『もうひとりいる』ではナチュラルなカメラマンでしたしね。

そうなんですよ。『新 仁義なき戦い 謀殺』ではパンチ・パーマに剃り込み入れて、『あずみ』のつながりで監督に怒られるし。「せっかく役作ったのに、なんで剃り込みいれてるんだこの野郎!」ってね(笑)。でもなかなか無いキャラクターになったんですよ。リーゼントに剃り込みの忍者ってなかなかないでしょう。だから結果オーライとしてね。それで言うと逆に『ALIVE』は、髭が無くてストレートで、僕としても髭が無い映像が残っているのは嬉しいし。最近、髭あってやってくださいというのが多くて…で今日は仕事が終わったんで剃ってきたんですよ。

——北村監督とのコラボレーションも続いてますが、榊さんから見た監督の印象は?

北村さんはシンプルなんですよ。内面的なことは、当然役者が考えてきているだろう。それで、この台詞を言ったらちょっと右向いて斜めに…って、具体的なんですよ。だからもう、悩まないんです。監督、これどう思いますか?って聞くと、右がいいから1歩行って間を取って…とか、内面的な作業は僕なんかには言わないし、具体的で判りやすいですね。後、役者の耳元でぼそぼそって言ってくれるんで、暗示にかかるみたいで。『あずみ』の時なんかも、皆やりやすいって言ってましたしね。複雑なことは言わずに、リアルで具体的に来ますよ。細かくはないとは思うけど、具体的ですね。

——今回の撮影で印象に残っているエピソードは?

やはりラスト・シーンの屋上があるじゃないですか。あれが2年前の今日なんですよ。これが監督のバースデイで、何故か誕生日にラストを撮るということと、最後の主人公の顔が決まらないとこの映画は失敗だからとずっと言われてて、そして抑圧されてやっていたセットから、やっと解放されたロケなんですよ。だから、僕的にはよく判りませんが、監督はすごくいい表情だと。今日は榊が最高にやってくれたと原作者の方にメールをうってくれて、そんな日だったんです。誕生祝いで焼き肉食ったりもしたし、この日の撮影が最高に思い出深いですね。それまでは監督も悩みながらやっていたんですけど、ここはお前の勝負だ、カメラも正面から撮って、お前の表情でこの映画は終わる、頼むぜって肩を叩いて。だからいい感じに出来たとは思うんですが。
後はやはり、アクションはアクションで興味深くて楽しかったですけど、僕がりょうちゃん扮する彼女をみさ子と間違えて抱きしめるじゃないですか。初めて泣かなくてはならなかったんですよ。ウェットなところにしてねと。僕は「監督、泣けませんよ」って言ってるうちに本番になったんですけど、なかなか男性で涙を流すシチュエーションが要求されることって無いじゃないですか。それがあそこで初めて泣くという芝居になって、涙は出なかったんですけど、丁度汗が流れて、いい感じになったかなって。そこも印象深いですよね。







——確か原作の方の天周は、結構泣く場面が多かったですよね。

今回北村監督は、泣く場面は一切見せずに、初めからこのトーンでいこうと。僕もはじめはマンガの方でいくのかな?と思ったんですが、あれは原作であって映画版ではもう達観していて微動だにしないんだと。そこで死刑台からクールでいって、女々しいところはみさ子と逢うところでだけ出してくれって。

——監督作『新・刑事まつり 一発大逆転 軍団刑事っ!』も公開されましたよね。もともと榊さんが北村監督と出会われたのも、インディーズムービー・フェスティバルに榊さんが監督として参加されたときだったそうですが、今後も監督は続けられる方向ですか?

もう準備してますね。僕自身が、役者の事務所とは別にジェッツという製作事務所を立ち上げたんですよ。その一発目が『刑事まつり』だし、7月にはGAGAで短編を撮る予定なんですよ。撮影は、『スカイハイ』で知り合った縁で『Shall we ダンス?』の栢野直樹さんです。続いて8月にも東宝芸能で短編を撮る予定です。撮る方は、不思議とお話をいただいて続けるようになってきたし、もともと来年にむけて準備をしていたところなので、短編3っつくらい話がきたのを引き受けて名刺代わりにしようと思ってやってる段階なんです。いずれ長編も撮らなくちゃいけないし、撮るつもりでいるので、今年は無いにしても、来年、再来年とかに撮って、僕もゆうばりファンタとかいけたらなぁとかね。
僕の場合は、両立したいと思っていますね。撮る方は撮る方でいいタイミングにありますし、当然役者もやりますけど。僕はもともと日常の話が好きなんで、北村監督とは違ったテイストで…と思っていたんですけど、側にああいう彼がいるとなんだか胸騒ぎがしてしまって、でもそこで引っ張られたら俺は違うと(笑)。僕大好きな監督は小津安二郎ですしね。だからそういう方向になるんじゃないんですか。

——それでは役者として組んでいきたい監督は?

北村監督の作品に関しては、役名がなかったら電話して脅すんですよ。冷たいなって(笑)。彼とはライフ・ワークとして考えてますけど、他にもやってみたい監督はいっぱいいますよね。まずは崔洋一監督ですね。崔さんしかり、塚本晋也さんしかり。だから北村龍平以外でも、全員ですよね。好きな監督、きらいな監督はありますけれど、まずは一つの作品があって話があればどこでも参加するし、ワン・シーン、ツー・シーンでも選ばないですね。自分でプロデュース業もしていきたいですしね。『VERSUS』が名刺代わりとなって、組みたかった監督と、仕事がしていけるようになったのも嬉しいです。
やはり映画が好きなんですけど、今年は2Hシリーズと銘打って、TVの2時間ドラマもどんどんやってます。しんどいけれど、あれも訓練になりますから。僕は現場で学んできた男なんで。勿論映画の方もやってますし、10・11月頃にはタイロケで主役としての新作に入る予定です。

——今後も様々な姿が楽しめそうですね。期待してます。それでは、最後にこれから作品にふれる観客に向けてのメッセージをお願いします。

物語を言っちゃうと勿体無いので、一人の男の生きているけど死んでいる顔。でも最後は、生きている顔でエンドを迎える、それだけを観て欲しいなと思います。今回は男の顔の映画ですよね。題名が『ALIVE』ですから、どういう意味の“ALIVE”かを期待してみて欲しいですね。あとはチョイスじゃないですか、生きるか死ぬかもチョイスだし、今の僕らもチョイスされているし、そういう意味の映画だとも思うんで、一つズシンと持って帰ってもらえれば嬉しいかなと。

——今日は、お忙しいところをありがとうございました。

(2003年5月 クロックワークス本社にて)

執筆者

殿井君人

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