昨秋の東京国際映画祭協賛企画「コリアン・シネマ・ウィーク2002」では、韓国の新進監督の作品が多く紹介されたが、そのなかでもずば抜けて若かったのは『海賊、ディスコ王になる』のキム・ドンウォン監督だった。
 若干27歳のキム・ドンウォン監督は、本作が長編デビュー作。80年代初頭のノスタルジックな世界で、若さゆえに無茶もする通称・海賊、ソンギ、ボンパルの3人組の青春物語だ。ケンカは強いが恋には奥手の海賊が可憐な少女にひと目惚れした頃、ボンパルは事故で働けなくなった父親の代わりに汲み取り屋をすることになる。実は、海賊の恋の相手はボンパルの妹で、家計のために水商売の世界に入ったところだった。すべてを知った海賊は、恋と友情のためにディスコ大会に挑む——という、恋と友情をウェットなユーモアで包んだコメディである。
 まだ若い監督が、物心ついたばかりの時代を背景にこの作品を撮ったのはなぜなのか? 昨秋来日した際のインタビューをお届けする。(取材・斎藤泰介)

 なお、本作品は「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2003」のコンペティション“ヤング・ファンタスティック・グランプリ部門”でも上映される。




——まず、この“コリアン・シネマ・ウィーク2002”で上映されることについての感想から聞かせてください。
「とても嬉しく思っています。日本と韓国では様々な意味で密接な関係にありますから、そのような国で自分の作品が上映されることはひじょうに光栄で有難いことでもあります。日本の印象を言うと、この(上映会場のある)銀座界隈は住みたいくらい気に入っていますね。道も整備されていますし、建物もきれいですし、とても関心を持って来たのですが、いい所だと思います」
——この映画『海賊、ディスコ王になる』の発想はどういうところからきたのですか?
「簡単に言うと、自分には学校生活に面白い思い出がないんです。勉強が特にできたわけでもないし、何をやってもうまくできないし、よく殴られたし、友達と一生懸命遊んだという訳でもないし、運動場の隅っこで人を眺めたり、そんな残念な学生生活でした。それで、映画でちょっと面白いスリルに溢れた学生生活を描きたかったのです。主人公は自分だと思っています。かっこよくてケンカも強くて、自分の好きな女の子のために救出劇までやってのけるなんて、とてもかっこいいでしょう」
——映画の設定は地方ですか?
「ソウルと地方を特に区分して地方を設定したという認識はないです。ただ単にビルがたくさん立ち並ぶという所より、小さい単位でどこかの村みたいなところのほうが人間味もあるし、どこかしら暖かい雰囲気を感じることができたので、そういう設定にしただけです。自分の目指す映画の方向性は、温かみのあるものですから。具体的な場所を言うと、実はソウルです。今でもそういったところを探そうと思えば、けっこう探すことができます」




——たとえば、バイクなどで80年代をかなり意識した設定がありました。特に、他では使っていないような、80年代を表現するためにこだわったものがあれば教えてください。
「背景は確かに80年代ですが、僕は、今、80年代のものを使ってもいいじゃないかという考え方なのです。そういう人は、あまりいませんけれど。逆に言えば、なぜ今はそういったアナログ的ものが無くなったのだろうか、という意味の回帰が含まれているのです。僕は、そういった昔のものが好きなんです。たとえば、韓国の場合、昔は牛乳と言ったら紙パックが主流だった。瓶はなぜあまりなかったかというと、瓶は高いし、回収もなかなかうまくいかないし……といったことを考えると紙パックが経済的だということになります。ある意味、そういう発想というのは、純粋な発想じゃないですか? 象徴的な意味を込めて80年代の設定にしました。
 ディスコという素材を選んだのも、懐かしさを感じるということもありますが、ディスコで踊るというのはある意味で熱情がこもったものですし、お金がかからず踊るだけで楽しい。そういう意味でひじょうにいい素材ではないかなと思い選びました」
——韓国では80年代を懐かしむような傾向があるのでしょうか?
「個人的に、ノスタルジックな思いをさせてくれることに関して、映画はとてもいい道具だと思います。しかし、僕は、決して80年代を考証しようという目的で作ったのではなくて、80年代にあった情緒というものを表現したかったんです。なぜかというと、最近は、当時の情緒がまったく見られません。それは、ひじょうにもったいない。映画にも出てきましたが、純粋な愛、純粋な情熱、そういうものは最近の現代社会では見ることができないので、そういう思いでこの映画を作りました」




——主演の3人について、それぞれを起用した理由を教えてください。
「僕の配役の仕方は、特に主人公に重きをおくわけではありません。本来だったら、主人公に比重を大きくおいて、書き分けて物語を盛り上げなければならないのかもしれませんが、僕はあえてそういうところに比重を置きません。基本的に1億のギャラの俳優であろうと、100万の俳優であろうと、まったく同じに扱います。それが果たしていいかどうかわかりませんけれど、今回はそのような形でやりました。各俳優に関してですが、ヤン・ドングン(ソング役)さんは、ひじょうにエネルギーの溢れる青年だと思います。演技も上手いですし、ダンスも上手いですし、様々な面において潜在力のある俳優だと思います。イ・ジョンジン(海賊役)さんは、本当に嫉妬するくらいに演技が上手いし、歌手として活躍もしていますので、歌も上手い。ひじょうに優秀な方だと思います」
——最近の韓国では、コメディがかなり作られていますが、それらのコメディと差別化した点は? 韓国での評判はいかがでしたか?
「僕の映画は100パーセントコメディです。確かに韓国にはいろいろなコメディ映画があって、僕も見ましたが、どれも心から笑えないというか、あまり楽しさを感じない作品が多かったです。無理やり笑わせようとしたり、あまりにも過激なものに走ったり……。僕はそういうものではなく、あくまでも自然体で笑えるようなものを目指しました。かつてコメディ映画というのは、どちらかというと、ある一定の年齢層、主に20代から30代前半くらいまでを対象にしたものが多かったのです。それで、僕は、小学生から60代くらいまで誰でもが自然に楽しめる、家族で楽しめるものを作りました。評判は、はっきり言って両極端でした」
——では、韓国でのコメディやラブストーリーの増加と、サスペンス映画の減少についてはどう思いますか?
「自然な流れだと思います。特に最近のサスペンス映画は、ひじょうに残忍でひどい描写があったり、刺激が強すぎます。もともと人間には情緒のあるものを好む性質がありますし、基本的な感情によって素直に受け入れられる映画のほうが好かれるのは当然のことです」





——あなたは若くしてメジャーな映画でデビューされましたが、今までの経緯を。
「僕は、映画の勉強をするのが比較的遅かったんです。ソウル芸術大学の映画科を卒業しましたが、そもそも入学自体が24歳でした。それまで、自分が本当にやりたいことは何なのか、自分はどういった人生を歩んだらいいのか、いろいろと悩んで様々な思いをしたけれど、今、こうして映画でデビューできました。映画を撮ることについての知識は、年齢には関係ないと思います。別に年齢が関係ないからといって、自分は何でも知っているぞとか、そういう生意気なことではないですよ。誤解しないでください」
——これまでに影響を受けた映画、好きな映画は?
「好きなジャンルは、愛を題材にしたもの。イ・ミョンセ監督とペ・チャンホ監督といった監督の作品がひじょうに気に入っています」
——次回作の予定と、次回作でキャスティングしたい俳優はいますか?
「次回作は、国歌の一部から題名を取っています。『乾いてすりきってしまっても』という意味の部分なんです。スペインのマフィアが、韓国の国歌の著作権を奪いにやってくるという内容です。なぜ、韓国の国家の著作権をスペインがかというと、国歌の作曲家はアン・イクテさんというんですが、1965年にスペイン国籍を持って亡くなったという事実があるんです。で、その事実を逆手にとったスペイン・マフィアが「スペイン人が作った国歌だから、それはスペインのものではないか』と韓国に乗り込んでくる映画になるんです。だから、これは近代史をちょっとひねってみた感じの作品の企画ですね。本当は、アン・イクテさんは生前、国歌を国に寄贈しているから、現実的には著作権の問題はないのですけど、そこらへんは面白おかしくですね。それから、今から7年前くらいに橋がいきなり陥没した事件があるのですけど、マフィアのひとりがそれに巻き込まれて死んじゃったというエピソードも映画にはあって、マフィアたちは橋が落ちたのも韓国政府の陰謀でわざと落としたんだと思ってしまうんですよ」
——ドタバタした感じなんですか?
「軽快なコメディになります。もともと韓国では有名な演劇で、国立劇場50周年記念として上映されたものです。そういう有名な演劇を、こういった若いヤツが映画゛風にアレンジするということでかなりのプレッシャーを感じています」
——キャストは?
「シナリオは書いている途中で、クランクインも未定です。キャスティングも自分の思いつく人はいるんですけど、様々な問題があってどうなるかわかりません。韓国映画は主演にひじょうに比重を置きますから、やりにくいです。新人を使いたくても、新人を使うと言ったら投資してもらえないから使えないんですよ」

執筆者

みくに杏子