1963年1月1日に国産初のテレビアニメシリーズとして『鉄腕アトム』が、ブラウン管を越えお茶の間へと飛び出してから、今年で40周年を迎える。また2003年4月7日は、原作の中でアトムが誕生した記念すべき日であり、その前日の4月6日には世界展開が予定されている新作シリーズ『アストロボーイ・鉄腕アトム』の放映も始まるなど、アトムへの注目は最高潮に達しようとしている。
 この記念すべきオリジナル・シリーズをはじめ、様々な傑作アニメを作りつづけ、世代を越えた人々に夢と勇気をあたえ続けてきた虫プロの大同窓会が2月6日、故・手塚治虫夫人、虫プロ創立以来のスタッフはじめ総勢350名を越えるメンバーが集まってアットホームなムードの中、開催された。同窓会では、歴代の番組ごとにスタッフ、キャストが登壇し、当時の思い出や貴重なエピソードを披露したほか、4月6日からはじまる『アストロボーイ・鉄腕アトム』のプレミア上映も行われた。













同窓会に先立って、『鉄腕アトム』ゆかりのメンバーによる会見が行われ、当時のエピソードと共に、40年を越えても輝きつづけるアトムの魅力、先見性と、そのスピリットを語ってくれた。

杉井ギサブロー(アニメ監督、『どろろ』等)——今はアニメーションをアニメと呼ぶのがあたり前になっていますが、この言い方を始めて聞いたのは手塚先生の口からでした。これは言葉の省略語というだけではなくて、当時のアニメーションの常識というか、ディズニーを含めお伽話しであるとか、題材が限られていたのですが、鉄腕アトムがそれを幅広く広げたというのが一番大きい。ほとんど、実写との垣根が崩されたというか、動きも大事ですが物語性を中心に行こうと。だから、僕はアニメーションではなくアニメを作る監督だと思って仕事をしています。
アトムの精神は、機械そのものは人間が作り出したもので、人間が作り出したものに対してどれだけ愛情を深めることができるかという思いだと思います。

清水マリ(声優、モノクロ版からカラー版までアトムの声を担当)——私は1話からずっとやらせていただいて、先生のメッセージが全部自分を通して出て行ったような感慨を持っています。現在、先生が言いたかったことが、大体現実になってしまっている。先生にはもっと長生きして、21世紀はどうなっていくかということを、もっと描いて欲しかったなと思っています。今、人間に近い動きをするロボットが出来るようになってきて、人間はアトム君とのように共存共栄していけるのかしら?そんなことを考えたりもします。
アトムのスピリットには、地球という星を大事にしなくてはいけないというメッセージがこもっていると思います。

高井達雄(作曲家、『鉄腕アトム』主題歌等)——私も実はこんなに大ヒットするとは思ってなかったのですが、あの魅力的なキャラクターは強烈でしたし、僕は虫プロのキャラクターの顔がかわいらしくて、これはアメリカなんかよりずっといいものが出来ると思いました。
そのスピリットは、パイオニア精神です。お話も、作ることそれ自体もそうだったと思います。

高橋良輔(『どろろ』『リボンの騎士』演出、『装甲騎兵ボトムズ』監督等——アトムで描かれていた未来の夢のようなものが、どんどん実現していっています。でもアトムの中で一番問題にされている、人間に作られた生命ではないものについては、これから一番問題になっていくことだと思うのです。クローンも含めロボットという問題性という、あのマンガの中での根幹のテーマは全く古びていず、やはり僕等の先生なのだと思います。
手塚先生はあらゆる意味で人格が素晴らしいと感じさせていただきまして、やはり色々なマンガのキャラクターが出てますが、元気だけれどどれも品がいい。私のお手本そんな感じがします。

坂本雄作(『鉄腕アトム』第4話演出等、虫プロ設立時メンバー)——ロボット工学は日本が世界で先端を行っていると聞きましたが、若い科学者に何故だろうと尋ねたところ、「他の国には手塚治虫がいなかったから」という答えがあったそうです。いい話だと思います。
アトムは涙を流す装置があったり、案外じくじくしたもので、アメリカ人からはもう少しカラッととか言われたのですが、そういうところがあるロボットは当分できないのかな…と思います。

出崎統(『あしたのジョー』総監督等)——僕らはアニメのアトムに携わったわけですが、僕なんかは子供の頃から原作に影響されてまして、あんな風にロボットを作ったのはロボットを通して人種偏見やタブーのようなものを描きたかったのだと思っていて、それが僕等の永遠のテーマなんです。今はそういうことを描くマンガやアニメが少なくなっている中、アトムは未だに生き続けています。
スピリッツは、本当は不幸な生い立ちであるアトムの、それを乗り越えての優しさです。

野沢那智(声優・演出家、『どろろ』百鬼丸等)——僕は当時、まだ新劇の研究生でしたので、アトムは2・3回出させてもらったかなって感じですが、一番記憶に焼き付けておきたいのは、アニメーションという大変な作業を損得抜きでテレビで作らなければ駄目だと作られた鉄腕アトムが無ければ、現在のアニメーションは全く無かったのではと思っております。当時声の仕事をしていた者は50人、現在では声優及び声優志願は6万人いるそうです。
そのスピリッツは、挑戦、チャレンジそれに尽きます。





 故・手塚治虫氏のありし日の姿がプロジェクターに上映され始まった大同窓会。故・手塚治虫氏夫人の挨拶、脚本家・小説家の辻真先氏による乾杯の音頭に続き、各作品ごとのスタッフ、キャストが次々と壇上に上がった。先の会見に出席した方々以外で舞台に上がった方々をほんの一部紹介すると、演出家のりんたろう、富野由悠希、SF作家の豊田有恒、声優の矢島正明、和田文雄、白石冬美、小原乃梨子、太田淑子、俳優の渡辺文雄(順不同・敬称略)と現在ではアニメ界をはじめ各界の重鎮である錚々たる顔ぶれが揃い、青春時代に互いに切磋琢磨しつつも、アットホームに過ごした虫プロの日々と、手塚氏の思い出や当時の貴重なエピソードの数々を語り、また互いに旧交を温めあった。
 なお虫プロ作品は、新作『アストロボーイ・鉄腕アトム』の展開と同時に、これまでの虫プロ製作による手塚治虫名作群を最新のデジタル技術を駆使しリストアした、美しい映像のDVDとして順次リリースがスタートしている。40周年を迎えた『鉄腕アトム』のオリジナル・シリーズ全193話は、6枚組DVD−BOXとして現在VOL.1〜4が発売中。この後、3月21日にVOL.5が、また7月24日にVOL.6が発売予定だ(各税抜き28,200)。
 また、“アトムの誕生日”を記念して、全193話の中でも特に人気の高いエピソードを選りすぐって3話づつ収録した、“アトム入門編”とも言うべき「ベスト・セレクション」シリーズも3月21日に発売される。<誕生篇>は記念すべき第1話「アトム誕生の巻」、第37話「ウランちゃんの巻」、第93話「コバルトの巻」を収録したアトム・ファミリー紹介セレクション。<ロボット篇>は、第82話「ロボット競技会の巻」、第116、117話「史上最大のロボットの巻(前編・後篇)」の3話収録で、個性的で魅力溢れるロボット達の競演が堪能できる。<宇宙篇>は、第10話「イワンの馬鹿の巻」、唯一のカラー作品である第56話「地球防衛隊の巻」、第71話「地球最後の日の巻」の3話収録。価格は各巻税抜き1,980。
 その他タイトルも発売中or近日発売予定となっており、詳細は下記公式頁を参照のこと。

執筆者

宮田晴夫

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