一組の男女とその元恋人が辿った、一夜限りの取り返しようのない悲劇を、逆転させた時間軸の中で激しいヴァイオレンスと、美しくも悲しい詩情を綯交ぜに描いた究極のラブ・ストーリー『アレックス』。2002年のカンヌ国際映画祭、そしてスニーク・プレビューとしてクロージングを飾った東京国際ファンタスティック映画祭などで、賛否両論の渦を巻き起こした問題作が、いよいよ日本でもベールをぬぐ。
 2月からの全国ロードショー公開を目前に控えた1月27日、ギャスパー・ノエ監督と恋人をみまった悲劇への復讐のため、迷宮のような夜の街にのみこまれて行くマルキュスを演じたヴァンサン・カッセルが来日を果たし、クロスタワー・ホールにて開催された披露試写会の舞台に立った。なおヒロインを演じたモニカ・ベルッチは、新作撮影のため残念ながら今回来日できなかったが、ノエ監督とは親交を重ね、ヴァンサン、モニカご両人とも面識のある“日本のモニカ・ベルチ”?!叶美香が花束を持って駆けつけた。ご覧のとおり、いつもながらに挑発的な衣装は、モニカも持っている衣装の型違いだそうだが、そのキワドイ色香にノエ監督も「パリでは禁じられている(笑)。こんな格好してたら危険だよ」だって。

$navy ☆『アレックス』は、2003年2月8日(土)より渋谷東急3ほか全国拡大ロードショー公開!$









 ラフなスタイルに、フランクな笑顔を浮かべて舞台に登場した二人。ノエ監督のシャツの色は、『アレックス』は勿論のこと監督の諸作で印象深く使われている赤だ。「この場所に来れて満足です。皆さん今は笑ってられますが、見終わった時どのような状態かは私にはわかりません(笑)。でも、最後まで座っていらした方は、ハンカチを用意していただければと思います。とても泣けるはずです」(ノエ監督)、「この映画を観に来た皆さんにブラボー!といいたい。皆勇気があるよね。国によっては上映中に席を立ってしまった方もいましたが、日本の方はとても勇気があると聞いています」(ヴァンサン)とそれぞれ挨拶。
 「モニカとヴァンサンと3人で映画を作ろうと言う話になった時、何ができるかと考えた時に出てきたのが、この犯罪と復讐の物語だったんだ。前半は非情にハードだけど、後半はハッピーになれるはずだよ」。作品成立への経緯を語るノエ監督は、センセーショナルな作風とは裏腹に、いたって気さくな素顔を覗かせる。ヴァンサンたちとは、ナイト・クラブで朝方5時頃によくあう仲だそうだ。「でも次の日になると御互い何を話したかよく覚えてないんだ(苦笑)」なんて、実に楽しそうな関係だが、本作の構想もそんな会話の中から生まれたものだ。
 ヴァンサンは映画の中で苦い復讐に憑かれる役だが、万が一現実にそんな事態に直面したとしたらどうするだろう?「同じだろうね。誰でも映画の主人公みたいな行動を取ると思うし、取れないにしても同じことを考えるはずさ」。そう、これは良い悪いといったレベルでは無く、人間が否定しきることのできない復讐という感情への宿命なのだろう。だからこそ、この作品が胸に迫ってくるのだろう。
 最後にお二人から作品を見る方へのメッセージを紹介しよう。「中には途中で退席したくなる方もいるだろうし、それはそれで自然なことだと思う。でも最後まで見ていただければ、そうした気分はなくなると思います。後半は全く違ってくるんで見てください。そしてこの作品は、一番最初に殺人があり、最後には殺人を見ている誰かがいます。そのことを頭の隅において見てみてください」(ノエ監督)、「勇気を持ってください。これは単なる映画です。そしてモニカは素晴らしい」(ヴァンサン)。そう、確かに前半から中盤にかけての悲劇は、あまりにもハードで痛々しすぎるかもしれないけれど、その果てに待つ(原点として存在する)至上の愛をじっくりと味わって欲しい。

執筆者

宮田晴夫

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