東京では明け方の雪が雨に変わり、肌寒い一日となった23日に『ロード・オブ・ザ・リング/2つの塔』の来日記者会見が行われた。冷たい雨とは対照的に会見場は熱気に包まれ、アラゴルン役のヴィゴ・モーテンセンとエオメル役のカール・アーバンの到着をいまかいまかと待ちわびるマスコミであふれかえっていた。来場1分前の合図に緊張に包まれた会場。そこへ鎧を身に着けたオークに出迎えられ2人がにこやかに登場。ヴィゴは帽子にTシャッにジャケットを羽織り、カールはジャケットに腕章(?!)をつけている。ヴィゴの帽子とTシャツ、そしてカールの腕章と背中(?!)にはなにやら日本語の文字が。いったいそこにはなんて書かれていたのか?!気になるその言葉と共にじっくり語ってくれた2人の会見の模様をお伝えする。
なお『ロード・オブ・ザ・リング/2つの塔』は2月22日より丸の内ピカデリー1他全国松竹・東急系にてロードショー公開








ヴィゴ・モーテンセン(以下ヴィゴ):
今日はここにおいでいただいて、ありがとうございます。 今回はカールと2人だけですが、みんなの代わりにみなさんを満足させることができるようにたくさんの質問に答えたいと思います。 どうぞよろしくおねがいします。
カール・アーバン(以下カール):
キョウハミナサンニアエテコウエイデス。アリガトウ(日本語)。・・・。ここまでしか知りません。(会場笑)日本に来ることができ、皆さんにお会いすることが出来て大変名誉に思います。私は日本の文化・国にとても興味があります。もっと長く滞在できればいいのにって思っています。これまで多くのファンが 支えてくれたことに感謝しています。

質問:
原作からはどのような影響を受けましたか?
ヴィゴ:
はじめから最後まで原作は自分にとってのガイドであり、監督はジャクソンとトールキンの2人だった。 助監督は私自身の両親、とそんな感じで受け止めていたよ。
私が演じていたアラゴルンをはじめとした仲間全体が、あらゆる質問に対して簡単な答えを求めているわけではなくて、また簡単な答えを得られるわけでもなくて、戦いの中でまたどの道を選んでいくのか、意見の対立がある際にはどうやって進めばいいのかという迷いを持っていた。日々の生活の中でも同じだと思うのだが、一人の個人として、自分に忠実でありたいと思う。と同時にグループの一員として、仲間の一人として彼等にとっても忠実であり、その2つの間にどうやって折り合いをつけていくのかということが私の中で、トルーキンを読む中で、彼(アラゴルン)はどうだったんだろうと思って読んでいた。そしてピーター・ジャクソンが僕をアラゴルンにキャスティングしたのは、私にもそんな部分があることに気づいて選んでくれたのだと思うよ。
カール:
実は気づいたことが一つあるんだ。(撮影現場では)照明からケイタリングにいたるまで、みんながトルーキンの原作のコピーを持っていたんだ。そこには今自分達が何を撮っているのかわからなければならないという情熱と要求があった。原作はなにかあったとき、バイブル(聖書)に戻るというかたちで原作を参考にしていたんだ。文学を映画化しようとしてもそのまま映画化することはできない。つまり映画では(ストーリーが)濃縮される。(我々役者は)言葉で表現されていなくても、表情で表現することになる。でも原作には言葉の表現があるからそれを見ることで映画ではどうすればいいかがわかるんだ。 ある種自分にとってのサプリメントを飲んでいるのだ、とそんな感じだった。











質問:
帽子やTシャツ、背中に書かれた日本語は?
=ヴィゴの帽子とカールの背中に書かれているのは「平和」。ヴィゴのTシャツの表には「石油の為には血はいらない」。裏には英語で「No More Blood For Oil」。飛行機でスチュワーデスさんが書いた文字をまねして自分たちで書いた。=
ヴィゴ:
映画は映画であり、政治的なことを言わないのが自分の考えなのだけど、第一作、第ニ作とアメリカだけではなく、世界中のマスコミがあまりにも比較するんだ。 トールキンが原作を書いた時に、第二次世界大戦の影響を受けていない小説であると彼は言っている。峡谷での戦いの場面で様々な人種、種族が集まって助けに来てくれるその場面を今だとアメリカと悪の枢軸の対立に比較する。 みなさんがそう考えるのは仕方がない。でもそこで間違った解釈をされないように、今は日本にいるので日本語でTシャツにメッセージを書いたんだ。 アメリカの政府や国は対話なしでアフガニスタンやイラクに戦をしかけようとしている。 そんな状況において比較されるのであれば、私やロード・オブ・ザ・リングを作った仲間全員がどう思っているのか、(みなさんがいうようなこととは)違うんだということを表明したくてこのTシャツを着ているんだ。
カール:
ヴィゴがすべて伝えてくれたよ。 彼が言うような比較があるなら、ぜひ適確にとらえてほしい。対話なくして戦いに突入することは納得できない。でももちろんこの考えを押しつけるつもりはないよ。

質問:
ヴィゴさんは撮影中に歯を折られたそうですが・・・。また 映画が公開されたことに対する感想は?
ヴィゴ:
怪我はたくさんしたよ。戦争の準備をしているか、戦っているか、戦いが終わりホッとしているかの常に”戦いの状態”。それも3.5ヶ月夜の撮影で、かなり疲労していた。スタッフも俳優も筋肉が痛くなったり打ち身になったりとみんな一度はなんらかの経験をしている。あれほどののシーンを撮ったのだから、それだけの代償をはらったよ。歯も折ったしね。
カール:
この映画に参加して信じられないほど素晴らしい経験をすることができたよ。あともう一つ自分がニュージーランドを知らなかったことを実感した。今回改めてニュージーランドの素晴らしさを知ることができた。 原作は12歳ごろに読み、ジャクソンが映画化することを知り、もう一度読んだ。 ただ自分としては撮影ははじまっているし、出演するチャンスを逃しちゃったんだなとガッカリしていたんだ。ところが私が出演した『ミルクのお値段』という作品があるのだけど、この監督がジャクソンとは友人で自分のフィルムを彼にみせたんだ。でもこのことからすぐに結びついたわけじゃないんだけど、ある日連絡がきて「出てみるかい?」と言われたんだ。大喜びで参加したんだ。素晴らしい才能が集結したこの作品に出演したことで自分も成長できたし、公開されたら世界中でヒットして、幸せだよ。











質問:
息子さんの言葉がきっかけでアラゴルン役を受けたそうですが、息子さんの反応は?
ヴィゴ:
好評だったよ。(会場笑)
「お父さんちゃんと演じていたから、家族に恥をかかせないで済んだね。」って言われたよ。

質問:
戦のシーンは日本の合戦や黒澤映画の影響を受けたのですか?
ヴィゴ:
(原作を読んで)私の両親はスカンジナビア出身で、北方の神話や民話を思い出した。 彼等(原作の登場人物たち)はあまりしゃべらず、私が演じた役もそうだけど、表情やジェスチャーで伝える。でも神話や民謡は歌ったり、なぜ戦いをするのかを朗々と語る。そして戦いが終わればいかに勝ったかをまた朗々と歌い、語る。そんな違いがあるものの内容に関してはすごく似ているものがあったので自分はすぐにこのこと(北方の神話や民話)を思い出した。
表情やジェスチャーで伝えることはサムライのコミュニケーションに似ているよね。 そんな意味において私は稲垣浩の『宮本武蔵』や黒澤監督の作品の日本のサムライを思い出したよ。
カール:
僕の役は刀を使って戦ったのだけど、その刀の指導をしたのがボブ・アダーソンだった。 でも僕は彼の名を聞いても感動しなかった。 そうしたら「あのダース・ベイダーに入っていたボブ・アダーソンなんだよ!」って言われて、僕は一気に目が覚めた。彼に剣術を教わり、戦った男なんだよ、僕は!

質問:
今作の見所は?
カール:
アラゴルンという勇気ある戦士が様々な恐怖とか自分の中の葛藤と戦っていく中で、アルウェンとの美しい愛のシーンがある。とても心が休まる、美しいシーンだ。これが見所だと思うよ。

ヴィゴ:
特にこのシーンというのはないが、カールが言っていた愛とか、この作品の中で一番訴えようとしている、心の中の自己犠牲であるとか、一つの大儀のために皆で力をあわせるとかそこをぜひ見てもらいたい。 撮影中大事だと思ったのは愛と希望。 それは物語の中だけはなく、生きていく上でもこの2つが大切だ。 なにか体験することは学ぶことでもあるけれど、今回の撮影でも多くを学んだが、一番は愛と希望だね。

作品の中では共に過酷な戦いの中でたくましい戦士を演じたが、素顔はとてもキュート。日本で大ブレイク間違いなしのヴィゴ・モーテンセンとカール・アーバンであった。ちなみにヴィゴはこの日の夕方、渋谷のタワーレコードでもサイン会を行ったそうだ。

執筆者

Mika Saiga

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