吉田秋生の名作コミック「ラヴァーズ・キス」が映画になって戻ってきた。鎌倉を舞台にした本作は高校生6人のノスタルジックな恋物語。同じシチュエーションを数人の視点から見るという構成で、主演には平山綾、宮崎あおい、市川実日子ら次世代を担うフレッシュな面々が結集した。「撮影中は自分が小学生の男の子になったような感じ。そういう視点で彼女たちを見るとすごく大人に見えるんですね」。こう語る及川中監督(「富江」、「多摩川少女戦争」)は少女の端々しさを惹き出す手腕に定評がある。誰もが心奥深くに抱く高校時代への憧景やノスタルジア、切ない感情をスクリーンに再現してくれた。「見終わって高校時代のアルバムをめくりたくなるような、そんな作品を目指しました」(及川監督)。

※「ラヴァーズ・キス」は1月25日、日比谷スカラ座2ほかにてロードショー!!

 






ーー監督は吉田秋生さんのファンだったそうですが。
 好きでしたね。ただ、この「ラヴァーズ・キス」はプロデューサーから話があるまで読んだことがなかったんですよ。
 この話って構成が少し変わってますよね。登場人物の、それぞれの視点から見た話で…。時間軸にこだわった話って好きなんですよ。映画でも「レザボアドッグス」でしょう、「ミステリートレイン」でしょう、あとは何かな、思いだせませんけど(笑)、そういうのってやってみたかったんです。

 ーー脚本には苦労したそうですが。
 当初はね、少し書いてみてなんだかうまくいかない、こんなんじゃないんだよなっていうのが続きました。何年か前に「日本製少年」っていう映画を撮ったんですけど、その映画のシリアスなティストをはじめ、かつての映画の引用めいた部分が多くなってきちゃったんですよ。吉田さんには「好きにいじっていいです」って言われていたんですが、原作の持つ深い部分ーー女子高生の持つトラウマとかですねーーに引っ張られ過ぎて、なんだかまとまりがつかなくなってしまった。こんなトラウマを抱えた少女が気軽な会話を交わしていていいんだろうか、とかね。映画だから漫画と同じじゃいけないんじゃないかみたいな気負いもあって・・・。そんな思考錯誤を繰り返してた時、後藤さんが脚本執筆に加わってくれたんですが、彼女の書いたものに迷いがなくてね。そうそう、こういう感じだって思えたんです。

 ーー最初に決まったキャストは宮崎あおいさん。配役のポイントは?
 依里子って役柄に宮崎さんがスムーズにはまったんですよね。あとは少女3人のトライアングルを一番に考えた。顔立ちとか、雰囲気とかね、少づつ違う感じを求めたんです。
 里伽子役の平山綾さんは原作とはちょっと雰囲気が違いますね。テレビで見る限りは逆サイドにいる子だなと思ったんですけど、そういうのも面白いんじゃないかと。
 市川実日子さんは実年齢より少し下の役柄になったんですけど、ちょっとだけ老成した子というのが出ててよかったと思います。映画の場合、中学生、高校生を実年齢でやりますと幼くなりすぎちゃうってのもありますし。

 ーー及川監督は女の子を描くことに定評がありますが、意識していることは何でしょう。
 ロリコンなんじゃないかとか言われるわけですよ(笑)。でも、そういう年代の子に恋心を抱いたことはないわけで、個人的にはもっと上の年代、30歳前後の女性の方が好きなんですね(笑)。じゃあ、なんで10代の女の子を描くのかというと、僕にとっては得体の知れない存在だからでしょうね。逆に自分と同年代の等身大の男を描くとなるのは照れ臭いですよね。わからないからこそ、なんでもやらせることができてしまう(笑)。
 意識しているというか、自然にそうなってしまうんですけど、撮影中は小学校高学年くらいの気持ちで彼女たちを見ています。そうすると17、8歳の子が大人に見えるわけですね。ある意味、憧景のような、そんな気持ちで撮ってるんじゃないかな。

 #ーー演技について注文はつけましたか?
 特に男の俳優には、こいつと友達になりたいって思えるようにやってくれって言いましたね。あと、気にしたのはセリフ。マンガならではのキザさというのか、言ってみれば「この月の下で見る君の、なんと美しいことよ」、くらいのセリフが出てくるわけですよ(笑)。普通なら言わないし、音にしちゃうと恥ずかしいっていうの。でも、それはマンガだからこその武器でもある。シェイクスピアのセリフを言ってる気持ちで堂々と言ってくれって言いましたね。バズ・ラーマンの「ロミオ&ジュリエット」も、「ムーラン・ルージュ」もそれで全然OKでしたし。

 ーー劇中ではインディーズの音楽を多用しています。
 通常、ああいう空気感を持った映画だとあんなに音楽は使うべきではないんですよね。ジャンルもバラバラだし。原作通り、クラシックのピアノだけに頼るという方がノーマルなんですよ。
 でもそこはマンガ原作という面とあの世代特有の世界観に頼って、シーンごとに音楽をつけていったんです。たとえばキスシーンの音楽は作曲してもらったんですけど、「ハリウッド調で照れずにやってください」ってお願いしました。逆に悲しい場面でアップテンポの曲を使ったりと実験的な気持ちも強かったんですね。「最近、こういう映画音楽の使い方ってないよね」ということを初めから終わりまでやりました。

 ーーこの映画をどんな観客に、どんなふうに見て欲しいですか。
 まずは高校時代が既に過去になってしまった人たちに。映画館を出て、家に帰って昔のアルバムを開きたくなるような、懐かしい友達へついつい電話をしたくなるような、そんな映画であって欲しいです。
 そして全く逆になってしまうんですけど、主人公たちと同じ、若い観客にとっては見終わって、その後の人生をちょっとだけ想像してしまうような、そんな作品であって欲しいですね。

※「ラヴァーズ・キス」は1月25日、日比谷スカラ座2ほかにてロードショー!!

執筆者

寺島まりこ

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