都市と肉体をテーマにした鮮烈な作品群を発表し続ける塚本晋也監督。前作『バレット・バレエ』から3年ぶりとなる待望の新作『六月の蛇』は、既に2002年9月に開催されたヴェネチア国際映画祭のコントロコレンテ部門審査員特別大賞受賞を皮切りに、第34回シッチェス国際映画祭インターナショナルコンペティション部門の最優秀美術監督賞受賞と海外の国際映画祭で高い評判を得ている。去る10月24日、本作のマスコミ向け完成披露試写会がガス・ホールにて開催され、上映前に監督・出演者による舞台挨拶が行われた。

$navy ☆『六月の蛇』は、第3回東京フィルメックスの特別招待作品として12月7日に上映され、その後2003年春、渋谷シネアミューズ他にて全国ロードショー公開!。$









 「日本では未だ身内の人にしか見せてなくて、それがヴェネチアに行って、賞とかもらえるとか思っていなかったし、エロチックで過激な描写があるので、途中で出て行ってしまう人もいるかもと思っていたので、賞をいただけるというのは時の運だと思いますし、見てくれただけで嬉しいんです。だからといって、日本でも同じ反応が得られるとは限らないと思いますので、そこはどうかなと思ってますので、宜しくお願いします」神妙に受賞報告を兼ねた挨拶をする塚本監督。本作は、15年以上前から撮りたいと思い続けてきた、まさに念願の作品である。「『鉄男』の前からエロティシズムをテーマにした映画をやりたかった。多分それ以降に撮った作品もボクシングとか拳銃とか色々なデザインを借りていますが、追及してるのはエロティシズムだったと思います。今回はそうしたデザイン無しに、肉そのものでやるのは究極かなと思っていて、また最初に思ったことでもあったので、けじめのつもりで作った作品です」(塚本)。今回も、ヒロイン・りん子に執拗な脅迫をする道郎役として重要な役どころを自演するのみならず、製作、監督、脚本、撮影監督、美術監督、編集、と八面六臂の活躍だ。「すいません。いろんなスタッフの方から、そろそろ一緒にやろうやって言ってくださるんですが、そう言ってくださる顔が怖いんで…僕は人見知りなので、そういう大人の人たちとやるのは難しいというか、自分の映画の好きな人とまるで宗教団体のようにこそこそと作ってって感じです」。
 執拗な形態電話による脅迫そして恥辱のうちに、内なる“蛇”を目覚めさせる人妻・りん子を演じるのは、映画・TVで多数の作品に出演している黒沢あすか。本作が久々の映画主演作となる。「『六月の蛇』の台本をいただいた時、私自身「爆発したい!」と思っていた時期で、頁をめくる度に今回はこのりん子を借りて、私の中の何かをはじけさせてもらわなければ駄目だ!という勢いでアピールしました。描写が過激であるとかいろいろ言われておりますが、私はそのタイトルの中にりん子の中の蛇を見た気がしまして、映って来るりん子を見るたびに身体の中に蠢く蛇を皆さんに受けとめてもらえたらなと思います」と、作品への熱意と手応えを感じさせるコメントを。初めて組んだ塚本監督は、現場で役者の考え等を絶対否定せずに聞いてくれ、監督と役者の方向性が違った時も、穏やかな物言いで意見を言ってくれるタイプだそうだ。「だから返されても、自分が潰れないでいられるんです。逆にこの方がそう思ってくださるんだったら、しっかり演技で返さなくっちゃってそんな思いで現場にいました」(黒沢)。
 りん子とセックスレスな日常をおくる潔癖な夫・重彦は、コラムニストであり本作が映画出演2本目となる神足裕二。「僕はよくわからず、マネージャーの女の子から「こんな映画がありますけど、ちょっと辛そうなんで台本をよく読んで考えてください」と云われ、どうせ色んな仕事首になったしいいかと思ったら、こういうことになってしまいました(笑)。監督は先程すごく控えめにおっしゃってましたが、ヴェネチア映画祭では評判がものすごくよくて、会場がすごく沸きました。塚本ファンが相当数イタリアにはいるらしくて、そんな人たちから誘われるので、僕はグシャグシャになるまで呑んでました」と軽妙にコメント。今回は劇中で重要なポイントとなるからみの場面も演じているが、「黒沢さんは芸歴20年を越えるすごい女優さんで、すごく上手なんです。ハードなセックス・シーンの声を入れる時に、別々にやりたいという監督の要望がありまして、黒沢さんがまずやってその声に皆が聞き惚れたところで、神足さん次って云われ、どうしようかなって。やってるうちに、頭に酸素が行かなくなって倒れました(笑)」と感想を答えた。

 全篇にわたって降り続ける雨、その中で描かれる3人の男女の究極の愛の物語。青味がかったモノクロ映像の美しさも印象的な『六月の蛇』は、第3回東京フィルメックスの特別招待作品として12月7日に上映され、その後2003年春、渋谷シネアミューズ他にて全国ロードショー公開!。

執筆者

宮田晴夫

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