作家性と市場性の融合をテーマに掲げた今年の東京国際映画祭コンペ部門だが、それを証明するが如く異彩を放ったのが『新 仁義なき戦い−謀殺』だ。プログラム・ピクチャーと目されてきた東映任侠映画が、堂々の初参加。若返りを図ろうと組長交替劇が動き出した尾田組の内部抗争を端緒に、東西2大組織の流血の抗争が拡大していく本作だが、監督をつとめたのは、TVドラマなどで活躍し東映久々の社員監督デビューとなる橋本一監督だ。組織に新しい血を注ぎ込もうと男をかける二人の若手ヤクザの物語を、老舗東映内部出身の若手監督が描くというのも、なんとも象徴的ではないか。
 10月29日、シネフロントでの公式上映を前に、橋本監督をはじめ、熱き戦いを繰り広げる男達に扮した高橋克典、渡辺謙、小林稔侍が出席し、記者会見が開催された。以下その質疑の模様をお届けしよう。

$navy ☆『新 仁義なき戦い−謀殺』は、2003年2月14日(土)より池袋シネマサンシャインほか全国洋画系にてロードショー公開!$











Q.ご挨拶と映画祭の感想をお願いします
橋本一監督——もう本当についこの前、23日に初号試写を行いまして、本当に出来たてのものです。1本の作品として完成しましたので、僕がから申し上げることは何もありませんが、作品を観て色々なことを思っていただければと思います。
東京国際映画祭は、第1回の頃は僕はまだ大学生で、授業をサボって通い詰めた思い出があります。そんな映画祭に、監督として参加できることには、感慨深いものがあります。
兎に角、今年の夏の暑さを僕なりに消化し、ぶち込んだ映画ですので、その熱さを感じていただければと思います。
高橋克典(尾田組若頭補佐・矢萩役)——僕にとっては初の仁侠映画で、根がチョロイものですからはじめはどうなるかと思いましたが、今年の夏は素晴らしい先輩方、東映京都撮影所でものすごく熱い役者さんと監督に囲まれ、熱い夏を過ごしてまいりました。京都は暑いと言われてましたが、その暑さは全く感じず、映画一本で走ってきた気がします。是非熱い思いを感じてください。
僕自身大きな映画祭は初めてなので、突然こういう運びになっているので、頭が真っ白で状況が把握できていません。でもとても嬉しく光栄に思います。
渡辺謙(尾田組若頭補佐・藤巻役)——今年は例年になく映画をやらさせていただいた年ですが、なかでも傑出した暴れまくる役をいただいて、わりと短い撮影期間でしたが、スタッフに迷惑をかけながらやることができました。ヤクザ映画自体が意気消沈しかかっている中で、どういう映画になるのかという思いが半分あったのですが、監督の冷静に時代を見据える目が残っていて、虫けらは虫けらなりに必至で生きてきたが、それがさらに虫けらのように扱われてしまうみたいな、熱いんだけどクールな映画に仕上がったと思いますので、今の時代を映したものになったと思います。
国際映画祭にヤクザ映画なんて…という趣もあるかもしれませんが、そういう思いや描き方は、ある社会の1面をきちんと描いていると思いますし、コンペティションに入った意義もあると思いますので、参加させていただき光栄だと思っています。
小林稔侍(組長・尾田役)——映画の大きなお祭り、特に監督のお祭りだと思いますので、監督が1作目でこの花道に立てたということはとてもラッキーなことだと思いますし、今日の感激を忘れないでこれから頑張ってもらいたいと思います。また東映の伝統の映画の1種ですが、アクションものというのは大体3日で人様の記憶から忘れ去られるものだと思っています。その中で、人間をしっかりとらえてもらって、3日以上人の心に残るようなアクションもので、勢いと若さがある映画を、橋本さんに中心になってもらって、作っていただきたいと思っています。僭越ですが、素敵な第1歩を踏み出した橋本監督を、宜しくお願いします。

Q.高橋さんに、『仁義なき戦い』シリーズというと、叔父様の梅宮辰夫さんが出られていて、「つまらないものを作ったら許さないぞ」と激励されたとのことでしたが、いかがでしたか?
高橋——「あれは俺達の世代が一生懸命話し、ぶつかり合いながら作った映画でさ、頼むよ、お前」って、かなり威圧的に激励されましたね(笑)。











Q.橋本監督に、もしリュック・ベッソン監督に気に入られ、ヨーロッパ・コープで撮れと言われたら、東映を辞めちゃいますか?また、渡辺さんは今月二つ目の会見ですが、現在のお気持ちは?
橋本監督——僕は社員ですので、気持ち的には東映に死ぬまでついていこうと思ってますが、万一ベッソン監督に誘われたらわかんないですね。山にこもって1週間くらい考えたいと思います。
渡辺——きっと出向で出してくれますよね(笑)。完成している映画の会見は、すごく気が樂ですね。この前の新しい映画(『ラスト・サムライ』)の会見は、撮る前だったのでこっちも不安半分、自分の中でまだ固まっていなかったので、出来上がった作品で皆さんの前に出るほうが、いかに気が楽かということですね(笑)。

Q.小林さんに東映の伝統であるヤクザ映画が映画祭に出品される感想と、この作品がグランプリを取れると思うかどうかをお聞かせください
小林——グランプリは取れないほうが幸せだと思います。取ればそれで終りですし、賞をとろうと映画を撮るということがおかしな話しで、僕達が子供の頃に大人の中に混じって見た映画は、そんな思いで作られたものではなかったはずです。それが潜在意識に宿って、芝居も出来ないのに芝居をしているわけですから、僕達は下を向いてお客さんが喜んでくださる映画をとればいいだけのことです。
僕も30年近くヤクザ映画をやってきましたが、ただヤクザという姿を借りてペーソスを醸し出しているとずっと思っていましたので、そういう意味では映画祭に出品されてもおかしくはないと思います。ただ、世間一般ではそうとは思ってないかとも思いますので、こうして呼んでいただいたということは、映画祭の懐の大きさを感じとても嬉しく思います。

Q.小林さんに、今回息子さん(小林健)がスクリーンデビューし共演されましたが、やりにくかった部分などありましたか?
小林——特別やりにくかったことはありませんが、こういう激しい男達の間に挟まれて、自分の子供が戦っている姿が見れて、芝居の上手・下手は別に、親として安心しましたし、嬉しく思いました。登場にご尽力くださった皆さんに、ありがたく思ってます。

Q.渡辺さんに、高橋さん・小林さんと共演され感じたことをお願いします。
渡辺——克典とは事務所が同じなので、撮影中やその前後を含めどういう風にしていこうかと、よく話をしました。勿論兄弟分という間柄なので、お互いにとっていい時間を過ごせたと思いますし、今までは一緒に仕事をしたことがなくちょっと距離があったりしたのですが、こいつとこれからやっていこうぜというコミュニケーションがとれました。稔侍さんは、僕の目の上のたんこぶの役だったので、現場では稔侍さんがどんな手をうってくるかということを、逐一楽しみながら楽しませていただきました。
先程も言いましたけれど、今年は映画を数多くやらさせてもらい、サポーティング・アクターの役が多かったものですから、非常に様々な俳優さんと出会う機会が多くて、そんな中でも、男同士が裸一貫ぶつかりあう現場は清々しかったですね。
実は僕は全然暴力的じゃない男なので、監督から非常に暴力的なことを要求されまして、自分の中にあるヴァイオレンスの感覚を百倍くらいにしてやった感覚ですね。

執筆者

宮田晴夫

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作品紹介
東京国際映画祭公式頁