台湾から飛びきりフレッシュな才能が現れた。
 東京国際映画祭「アジアの風」部門で上映された60分の中編「シーディンの風」は、若干24歳の大学生監督チェン・ユーチェーによるものだった。
 不況のあおりをうけ、海外遊学で夏休みを過ごす計画が潰れてしまった大学生シャオチーが、田舎で雑貨屋を営む祖母と下宿人のカナダ人女性エリザと過ごす夏の日々を描いた珠玉作。エリザにときめきを感じ惹かれていくシャオチー、エリザに慕われ若々しくなっていく祖母……登場人物たちだけでなく、彼らの交流する様がどこか懐かしい風景とともに観客の心も癒していく。
 ティーチインには、チェン監督と主演のホワン・チェンウェイ、そして、音楽を担当した高野寛が参加した。チェン監督は、日本語が実に流暢で通訳も担当。「この前渋谷に来たのは、ちょうど1年前。この映画祭の看板を見て、いつか自分の映画も上映されたらいいなと思っていたら、こんなに早く実現してうれしい」という喜びの言葉からティーチインは始まった。







 台湾の中編映画に高野寛の音楽……質問は、まずこの部分から始まった。
「僕の事務所の社長が台湾に行ったとき、監督が通訳のアルバイトをしたことがきっかけ。監督の映画を見た社長が、僕の音楽に合うのではないかと。できあがっていた音楽だったが、CDをかけてみたらとても合って、それが1曲目。ふしぎな繋がりを感じた」と高野。チェン監督は、エンディングに使った曲を聴いたとき閃き、
「高野さんのことは前から知っているような感じがして、打ち合わせもほとんと言葉がいらなかった」というほどだったという。
 キャスティングについては、なんと「ビリヤードで僕が監督を負かしたから、役をもらえた」という発言がホワンから出て場内爆笑。チェン監督が詳しく語ったところでは
「台湾の俳優でダイ・リーレン(本作にカメオ出演)という方がいらして、『実力があってすばらしい俳優がいるよ』って彼を紹介してくれたんです。それで、オーディションの変わりにビリヤードをやっているうちに彼の人間性を……実を言うと、負けたところで気が合ったんです。それで、任せたいなと」ということだそうだ。
 そんなチェン監督をホワンは「彼はいい監督」と言い、通訳のチェン監督も大テレで「彼がそう言ったんです!」と思わず言い訳をして、またもや会場の笑いを誘う。そんなふうにして出来上がったなごやかなムードの中で、演技の方法はホワンに任せたこと、時として予測と違った演技もあったことなどを語った。
 ちなみにシーディン(石碇)は台北から車で20分ほどの所にある近い小さな町で、作中印象的に使われる天灯(小さな気球のようなものに願いを書いて飛ばす)はシーディンではなくピンシーという町のお盆と旧暦の1月15日に行われる風習だということだった。
 なお、本作は、2001年台湾金馬奨最優秀短編映画賞を受賞している。

執筆者

みくに杏子

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