$ROYALBLUE 不倫や同性愛をごく普通の恋愛として描きたかった$

’82年に、史上最年少16才で“ぴあフィルムフェスティバル”に入選した風間志織監督。’94年には、『冬の河童』がロッテルダム国際映画祭でグランプリを受賞。そして今回、『火星のカノン』を作り上げた。“どうしようもない、ちょっとハズれた人たち”を暖かいまなざしで撮り続けている風間監督は、この『火星のカノン』で、不倫や同性愛に生きる人たちの想いを優しく描いた。

『火星のカノン』は、2002年9月28日りシアターイメージフォーラムにてロードショー




−−『火星のカノン』が生まれた経緯を教えてください。
「7年くらい前、Vシネマでヤクザ物ばかり書いていた脚本家の小川知子さんと“もっと自分たちが撮りたいものを脚本にしたいね”という話を飲みながらしまして。“知り合いになったVシネマのプロデューサーに持っていく企画立てよう。Vシネマだからちょっとイロモノを入れないとね”“じゃあ不倫やろう”“同性愛も入れちゃう?”って。それがホントの最初。そんな下世話なところから入ったんです(笑)」
−−その企画、7年間、暖めていたわけですよね。
「放っておいたって感じかな。結局Vシネマも下火になって“ワケのわからないものに金は出せない”ってことに。それで“Vシネマを意識せず、この題材をもっと好きな方向で撮るとしたら”と脚本を書き直した。その直しがうまくいかなくて、とりあえず寝かせちゃおうと。それが5年くらい前です。
 一昨年の夏“ラブシネマ”というビデオ映画のプロジェクトで撮れることになったけれど、それもポシャッてしまいました。そしたら、文化庁が予算が余ったので撮らせてくれるということになり、うれしかったですね。予算も増えてグレイドアップして帰ってきましたという感じ」
−−紆余曲折を経て出来上がった映画なんですね。不倫と同性愛は、最初描こうとしたものとどう変わったんですか?
「7年前のことは、はっきりとは思い出せないけれど…。最初は不倫であるとか同性愛であることをアピールするものだったはずなんです。今回は、そういう見方をいっさい突破らって“不倫も同性愛もごく普通の恋愛として描こう”という風に変わったのかな」



−−では、撮影するにあたっての一番のこだわりは?
「やっぱり“お芝居”ですね。“どうしようもない人たち”を私は映画でいつも描いてきているんですが、そういう“どうしようもなさ”を、ちょっとユーモアも含め、シリアスも含め、“どうしようもないけれど可愛いじゃん”みたいに見せたい。そのための芝居にこだわりました」
−−どうしようもない人たちを描くのが、監督の一貫したテーマなんですね。
「一貫してますね。ちょっとハズれちゃう、情けない人たちを描くこと…」
−−『火星のカノン』は、登場人物の気持ちが、ちょっとした表情の変化からすごく伝わってきます。たとえば、主人公の絹子が不倫相手の公平にもたれて、公園ですごく幸せそうな顔している。その顔が、公平が“帰ろうか”と言ったとたんにサッと陰る…。
「そうですね。この映画は、撮り方として、ワンシーン内で必ず人物の感情が変わるんです。そういう構成になっていまして…。だから撮る時には“シーンの中で感情の落差がわかりやすい”というのは、ひとつのポイントでしたね」
−−監督は何度もリテイクを出したとか。
「そうそう。一番多いのが20テイクだったの。それは卓球のシーンですね。温泉で公平と絹子が延々卓球をやるところ。最後まで失敗しないでふたりが延々卓球をするのを、私は見てみたかったんです・・・。結局、使っているのは15、16テイク目なんですけれど・・・いやー、ごめんなさいっ!!」



−−登場人物の部屋のインテリアなども、監督のこまやかなこだわりが感じられました。
「うれしいですね。インテリアで特に重きを置いたのは、絹子の部屋です。絹子を演じた久野真紀子さんは絹子と同じでお酒が好きで、美味しかった瓶とか可愛い瓶のコレクションをしているんです。だから映画の中で飾ってあるのは、ほとんど彼女の私物なんですね。そういうのが、ちょっとしたリアリティに繋がるんじゃないかと思います」
−−一方で、絹子に恋をする女の子・聖ちゃんは、引っ越しの時に梅酒とか、いろいろ瓶につまった食物を持ってきていて。これも性格がリアルに伝わってきました。ファッションも可愛らしい。
「聖ちゃんの装いは、スタイリストさん的にはダサイと思っているんじゃないかな。実は、スタイリストさんが最初用意した服が、あまりにもお洒落すぎたんですね。今風にオヘソを出すようなお洒落な服。でも“聖ちゃんはどちらかというと無骨なほうがいいだろう”という感じが私にはありまして。じゃあどういうのがいいんだろうと、夜、渋谷の町に助監督と一緒に女の子観察に行きました。助監督が、カメラを持っていき“聖ちゃんは、あんな感じ”って思う人たちの写真を撮らせてもらって。それで聖ちゃんのファッションができたんです(笑)」




−−この作品はキャストの方々、それぞれに魅力的ですね。監督からご覧になった絹子役の久野さんの魅力は?
「彼女は綺麗な女優さんで、綺麗な役ばかりしてきたんですけれど。今回はある意味、ちょっと汚れた役。そういう役を身体をはって、裸一貫たたきあげみたいな感じでやってくれました(笑)。綺麗な女優さんとしてはNGになるような芝居をやってくれてるんです。風邪をひいて寝ているシーンは、ボーッとした顔で、メイクも全然してないんじゃないかな。本人が“ここはメイクしたくない”って言って。“あんな顔見せていいんですかね、女優なのに”ってある人が映画を見て言ったんです。それで“そういえばそうかなあ。久野さんはどう思っているんだろう”と、久野さんに“どのシーンが好き?”って聞いたら“風邪のシーンが一番いい。私的にはああいう顔が撮れて良かった”って…。久野さんてスゴいなあって思いますね」
−−では、公平役の小日向文世さんはいかがですか?
「小日向さんは、今回のような役は初めてなんだそうです。小日向さんてすごくうまい役者さんじゃないですか。だから、割り切ってパッパとできるのかなあと思っていたら、実はそうじゃなくて…。ヌードのシーンとかね、俳優生活30年は軽くたっていると思うんだけれど、初めてのベッドシーンなんですって。異常にテレるんですよ、可愛いくらいに。そして前バリとかでずっと盛り上がってるしね、子供みたいな人(笑)。そういう風な小日向さんを見て、公平っていう人物像がだんだんできてきたように思います。今回、小日向さんとは一番やりあったんですよ。半分ケンカもしたし。小日向さんは公平を作り込んできていて、私は自然にやってほしくて…」
−−聖役の中村麻美さんは?
「聖ちゃんていう役は、ふつうに考えるとストーカー。ちょっと危ない役なのだけれど、彼女が演じることによって本当にチャーミングな聖ちゃんになったと思います」





−−撮影のときに、監督がキラリと涙を見せたということですが。
「久野さんが最初に作ってきた絹子というのが、まるで違う方向だったんです。ロボットみたいな絹子だった。それで、撮影前に久野さんだけリハーサルをしたんですよ。何回も何回もやって、こっちの方向なんだよという絹子がだんだん作れてきて。でも、突破口が見えてきたかな、くらいで、もう撮影に入らなきゃいけなかったんです。だから最初は、ときどきロボット絹子に戻っちゃってたのね。ようやく、撮影3、4日目に“これは絹子、完全にできたなあ”というお芝居が見られた。“ああ、よかったなあ”と思わず泣けてしまったんですよ・・・」
−−“ロボットのような絹子”とは、感情を抑圧しているような?
「そう。無表情でかなりロボット的でした。それで“恋をしている気持ちを思い出してくれ”というようなことを言ったの。“そこまで固くちゃいけない。久野さんの考えている絹子は、公平ともう10年くらいつきあっているのね。そうじゃなくて、まだ1年くらい。まだ可愛い気持ちもお互いに持っているんだよ”って」
−−この映画は、世間的には不倫とか同性愛とか言われる恋愛を普通の恋愛として描き、“不倫”とか“同性愛”という名前をつけないところが、いいなと思います。答えを出さないところもステキだなあ…。
「恋は人生の一部の話じゃないですか。そんなものに結論はつかないと私は思うんですよね。結論をつけたって“それはウソじゃん”と思うんですよ。名前をつけないのは…名前つけなくてもいいかなあと」
−−監督は今後も“どうしようもない人たち”を撮っていかれるんですか。
「撮ろうと思います。次はね、若い男の子と女の子が、どうしようもない、“恋愛しているのかしてないのかどっちだ?”っていうようなのを作ろうかなと思っています。次は7年もかからずにすぐ撮りたいなあ」
−−最後に、これから『火星のカノン』を見る人たちにメッセージを!
「自由に見てね」

取材・構成/かきあげこ(書上久美)

執筆者

かきあげこ(書上久美)

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