『うる星やつら』劇場版シリーズ中、最高の評価・人気を博しながらも、DVD化されていなかった傑作、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』待望のDVD化が決定。この18年ぶりの復活の報に、「眩暈にも似た感動を禁じえない」ファンは、数知れないことだろう。そんなファン感涙のDVD化決定記念イベントが、8月28日に銀座ヤマハホールで開催された。


この日のイベントでは、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』が久々にニュー・プリント・ハイビジョンテレシネ版で上映されたのをはじめ、上映前にはラム役の平野文、あたる役古川登志夫、サクラ役の鷲尾真知子、そして押井守監督というオリジナル版を支えた主要メンバーを迎えてのスペシャル・トークショーも開催された。

この面子が一堂に会するのはかなり久しぶりとのことで、再会を懐かしむゲスト陣はしばし、テレビシリーズや劇場版に関しての、貴重な思い出話しに花をさかせ、会場に集まったリアル・タイムに作品を見た層から、最近ソフト等で魅力にはまった新しい層まで幅広いファンを魅了した。

今回のソフトは、押井守監督監修によるニュープリント版。完成したソフトを見た押井監督は「思ったよりもネガの保存状態が良くて、前に出たビデオやLDよりも画が格段に綺麗。音声も、現在望める最高のものが再現できたので、それもお薦めです」とコメントした。


■スペシャル・トークショー コメント
−−『うる星やつら』全体を振り返っての想い出などをお聞かせください。
平野文(ラム 役)
私は、『うる星』が声優デビューだったんです。あの豪華キャストの中で私が一番新人で、皆さんに引き上げていただいたっていう感じですね。皆さんのキャラクターを、それぞれ声優さんが作り上げていくというのが素晴らしくて。千葉(繁)さんなんて、最初は生徒Aだったのがメガネですからね。スタッフの連帯感もあり、製作側とキャストとで毎週レベルの高い競争があったことが、強く印象に残ってます。でも、収録が土曜の朝10時からで、あのテンション…大変でしたね(笑)。

古川登志夫(あたる 役)
共演者の声優さんが変な人ばっか(笑)、普通じゃないんですよ。だから負けないようにテンションを保つのが大変でしたね。僕は非常にノーマルな人間なので(笑)、もうすごいです。(平野さんは)私は初めてなんて言ってますけど、全然そんな感じじゃなく、最初から破れてましたから。

鷲尾真知子(サクラ 役)
ぶっつけ本番の時があったり、そういう意味で即興性と言うか、一発勝負、やっちゃおうかここでみたいなテンションが皆ありましたよね。いい意味で皆、面白がってました。

−−『ビューティフル・ドリーマー(以下BD)』に関しての想い出は?
鷲尾
私も文ちゃんと同じで、サクラさんが最初だったし最後なんですよ。撮ってる時は大変で、スタジオ入ったら必死でした。特にこの映画は長台詞が沢山あって、終わって勿論見たんですけど正直言って忘れちゃってたんです。

ただ、ほかの現場に行くと『BD』面白かったって話をたくさんいただき、つい最近見直したんです。私はもう大人を通り過ぎちゃった年齢になりましたが、面白いんですよね。脚本の段階で当時は考えなかった不条理…ってだけではないと思うんだけど、押井さんってなんだこの人は!みたいなのを思いましたね。何回も見るうちに、色々な部分が判って来る映画。私たち、声を入れてる人間も、押井さんも皆変で(笑)。とってもいい具合に、その変と変とがいい具合に絡み合ってできた変な作品だと思います。


古川
僕も色々なアニメをやりましたけど、アニメ界全体を見ても金字塔だと思うし、自分でもそれまでの顎の尖った二枚目から「お嬢さ〜ん」ですからね。すごいですよ。押井さん、高橋留美子先生の頭の中ってどうなっているのか(笑)。しかしこれがきっかけで、こういう仕事もするようになった、それくらいの作品なんだという気がします。

平野
あの映画で、ゲスト・キャラ藤岡琢也さんが変なメンバーの中に入っても、すごく馴染んでられてましたね。藤岡さんは一流の俳優さんですが、アニメの経験はそれほど無い方だったんですが、『うる星』が一流は一流を知るというレベルで、普通に素直に入ってこられて、かつ夢邪鬼のキャラクターをご自分の中に引き寄せて関西弁で消化していいキャラクターになってましたね。それがとても印象に残ってるんです。

−−(ここで押井監督登場)鷲尾さんからも、変な人と言われてましたが。
押井守監督
本当は鷲尾さんが変な人なんですけどね。でも、このメンバーは本当に久しぶりですね。鷲尾さんは、引っ張り出すのが大変で。これは原作ものには必ずある話なんですが、『うる星』のシリーズがスタートした当初、鷲尾さんのサクラは大変だったですね。

鷲尾
知らなかった…、降ろされるところだったの?

押井
本当は大変だったんですよ。あの美しいサクラさん、なんでガラガラなオバサンなんだって(笑)。斯波(重治・音響監督)さんも相当頭を抱えていていたんだけど、斯波さんも僕も言ったけど、確かにサクラは、美人だし、グラマーだし、艶っぽいけど神道のパワーがある方だから、鷲尾さんくらいパワーがないと出来ないです。『うる星』のキャラは必ず裏表があってテンションが高いので、普通の声優さんじゃできないんですよ。テンションを上から下までみせなきゃならないんで、演技力があって気合が入った人じゃないと出来ないんですよ。


押井
『うる星』は4年半のうち最初の2年くらいをやりましたが、天国と地獄色々なものを見てきましたね。2シーズン目から視聴率も安定してきて、そこからですね。楽になったと言うか、やりたいように出きるようになったのは。今思うと、よくあれだけ喧嘩しながらやれたと思うんですけど、やはり若かったんですよね。

それと『BD』までやりおおせたと言うことは、斯波さん無しには考えられないです。『BD』という作品は、最初から斯波さんが気に入ってくれて、かなり気合が入ってましたね。ゲストは夢邪鬼だけ、後はレギュラーで高校生達の世界でやったので、遣り甲斐があったんですよ。ほとんど絵も入っていて、映画らしく仕事ができて。アフレコもほぼレギュラーが揃っていて、感じるものがある現場でしたね。これで、心残りなくこのシリーズを辞められると思いました。

僕は作品をあまり見返すほうじゃないので、この作品も18年ほどの間に2、3回くらいしか見直してないのですが、今見ても勢いがある…と言うか、完成度とかは別にして、今こういう思いではできないと思います。

−−押井監督にとって、やはりここから…という思いが強いのですか?
押井
アニメという世界から少し広がって映画と言う世界の中で、見てもらえるようになったと。当時はうれしかったんですけど、やはり良いことも悪いこともあるわけで、悪い面で言うと「映画は何をやってもいいんだ!」という思いを持ってしまったことかな。致命的だったのは、皆さんにも出てもらった『赤い眼鏡』で…(一同爆笑)。確かに何をやってもいいんですよ。でも、一方で冷静な計算も必要なんだと。

#−−今回のDVDではコメンタリーが収録されているそうですが?
押井
東宝さんからお話をいただいてやることにしたんですが、当時の作監だったやまざき(かずお)くんがつかまらなくて当時を語れる人間がいないと、演出の西村(純二)くんと千葉くんと3人でやったんですけど、何をしゃべっていいか判らぬままカット1から喋りだしたら、ほとんど西村君と二人で喋っちゃって、ほとんど千葉君はしゃべってなかったですね。あの時は、とか今ならこうするとか、後はうらみつらみとかね(笑)。

大体こういうのって、自慢話になるらしいですけど、僕は当時としてはこれが精一杯ですよ。やはり昔のものは、見るもんじゃない(苦笑)。色々思うところもあるのだけれど、やっぱり勢いがあって、声優さんのお芝居と音響の力が本当にすごいです。随分助けられましたね。

−−声優の皆さんから見た押井監督は?
平野
私たち声優は、まず絵があって音が何も無いところで演じるので、絵が間に合わないと本当はすごく難しく、ボイコットしなくちゃいけないくらいの筈なのに、『うる星』に関しては作品に対して出演者の熱さがとても高かったので、絵が無くともできるみたいな安心感はありました。

それは恐らく、押井さんたちのこういう風に仕上げたいと言うことが判るような雰囲気と、斯波さんへの信頼感があったからこそ、我々も出来ていたんじゃないかな。ですから、押井さん斯波さんコンビの落ち着くまでのこと、落ち着いたら何をやってもいいんだというあたりは、我々もすごく楽しかった思い出があります。あのスタジオの雰囲気には、土曜の朝から通わなくてはいけない気持ちになる強力な磁力があったと思います。

古川
斯波さんは的確な駄目だしをされるし、押井さんは現場では僕らにあまり直接には言わないけど、ブースの向こうで笑ってたりね。

#−−新作の予定は?
押井
ここにいる方はほとんどご存知かもしれませんけど、某アニメ作品のパート2をやっていますが、タイトルは言えません。多分、皆さんが、そうだろうと思ってる作品です。来年いっぱいかかるんで、公開は再来年の春か夏ですね。

それと『BD』と同じ東宝さんの作品で、『KILLERS』という実写オムニバス・ガンアクションの1本の撮影が終り編集中です。多分、来年早々くらいに、どこかの劇場でかかるんじゃないかと。僕がやってるのは、久々にやりたい放題やった変なものです。だけど、鉄砲だけは本気でやっていますので。

−−今回発売されるソフトについてお願いします?
押井
思ったよりもネガの保存状態が良くて、前に出たビデオやLDよりも画が格段に綺麗。音声も、現在望める最高のものが再現できたので、それもお薦めです。

執筆者

HARUO MIYATA