$ROYALBLUE ガウディの建築も人間も
見かけと本質とが違うんです。$

 放浪の女性翻訳家、見かけと中身が逆転した性同一性障害の男女など…ユニークで非日常的な人々の生き方を“家族”という視点から描いた映画『ガウディ アフタヌーン』。その監督のスーザン・シーデルマン女史に、Eメールでインタビューを試みた。監督は、遠い土地から心のこもった返事をかえしてくださった。

$navy ☆『ガウディ アフタヌーン』は、新宿テアトルタイムズスクエアにてロードショー公開中!$



–原作であるバーバラ・ウィルソンの小説『ガウディ アフタヌーン』のどこに魅力を感じましたか?
「一番最初から“いいなあ”と思ったのは登場人物たちでした。私は以前から、小説にしろ、映画にしろ、個性的で非日常的な女性が描かれているものが好きでした。バーバラ・ウィルソンの小説にはそのような登場人物がたくさん出てきたのです。
 独身で独立している40代の女性。そして世界中を旅した経験を持ちながらも、本や数点の私物だけでたった一人で生きてきたカサンドラ・ライリーに、私は特に惹かれました。私はこのような女性が現実に存在することは知っていたけれど、映画の中でカサンドラのようなキャラクターが取り上げられたのは、今だかつて見たことがありません。
 また、原作に惹きつけられたもう一つの要素は、ガウディの建築物と、バルセロナで撮影をできるという可能性でした」
–原作を映画化する際に、特にむずかしかった点、気をつけた点はどんなことですか?
「ある原作本を映画化する時には、いつも映画にとって一番しっくりと来るだろうと思うシーンを選びます。たとえば、原作本にはもう何名かの登場人物がおり、ドタバタを含め、もうひとひねりもふたひねりもきいてました。2時間の映画でそれほどの登場人物をまとめる事は至難の業なので、ふたりの登場人物をひとりにしたりして、作品の焦点をはっきりさせました。しかし、その際にも原作の“精神”や登場人物のエッセンスはそのままにするように努力しました」


–人間関係をうまく育むことができなくて、放浪生活をしている主人公のカサンドラ。女性の心を持った男性フランキーと、男性の心を持った女性ベン……家族について、自分らしい生き方について考えさせられます。監督はこの映画のテーマについて、どうお考えですか。
「この映画はコメディや探偵ものと言われがちですが(“探偵”であるカサンドラが謎の女性の夫を探すという設定なので)、私にとって一番興味深い要素は、ジェンダー及び家族というテーマでした。この十年間で伝統的な家族生活が大きく変わりました。“現代の家族”とはなんでしょうか? 母親とは? 両親とは? 女性的であるということは? 男性的であるということは? 
 これらの質問をこの映画でみなさんに投げかけられたらいいな、と思っております。探偵ものというストーリー設定でこういったテーマを探索することは、私にとってとても興味深かったですね。
 フランキーとベンは、どちらとも自分達の子供を愛しておりながら、たいへん珍しい家族をつくっている。その一方で、自らの母親との問題を抱えつつも(それが理由で若い頃に家を出て、世界中を旅している)、母子についてのラテンアメリカ文学を翻訳しているカサンドラがいる。カサンドラは彼女自身の母親との問題を解決する前に、ベンとフランキーの問題の解決に手を貸さなければならない。私は自らが母となった今、この複雑な母と子の問題にとても興味があります」
–舞台となったバルセロナの街をどう思いますか?
「私はバルセロナは魔法の街のようだと思います。色とりどりで生き生きとしていて。また、夜になると神秘的な街になります。特に古くからある町並みのくねった道や路地裏などは……。バルセロナの街の人達はいつまでたっても寝ないようなイメージで、たくさんのエネルギーを持っていて、私はこの映画にそのエネルギーと神秘性を取り込みたかったのです」


–ガウディの建築の魅力はなんですか。また実際にガウディの建築の近くや中で撮影をしてのご感想は?
「この映画は建築についての映画ではないけれど、ガウディの建築物が私にインスピレーションを与えたことは確かです。私は、ガウディの遊び心をこの映画に取り入れようとしました。ガウディの世界は、色とりどりに飾り付けられています。そしてこの映画の中の登場人物も色とりどりに飾り付けられています。
 ガウディの建築物においては、見えているものとその本質は違う、見えているものは真実ではないんです。たとえば、かの有名な地下聖堂は、砂のお城がドリップしているみたい、ぽたぽたと落ちている感じです。かのグエル公園のベンチは蛇の様にみえます。『ガウディ アフタヌーン』の映画の中でも、登場人物は見かけと本質とが違っているんです。
 ガウディの歴史的な建物の中で撮影を許され、私は興奮したし、とても興味深い体験をしました。バルセロナ市の公館は撮影に必要な許可証を発行するのに協力的でした。彼らはきっと、ガウディの建築物が、インターナショナルな映画でこんなにわかりやすく取り上げられることが、嬉しかったのだと思います。
 撮影を何週もかけて少しずつ行ったことで、私たちは様々なガウディの建築物の要素を複合することができました。たとえば、“カサ・ミラ”の外観は本物のカサ・ミラの外観です。しかし、その室内を撮影する際には、ガウディの有名な建築物の一つである“カサ・バトリョ”の内装・インテリアを利用しました(“カサ・ミラ”の室内は個人のアパートだったり、事務所だったりで、撮影するのに適してませんでした)。屋上のシーンは、もう一つのガウディの建築物で煙突に特徴がある“グエル邸”で撮影しました」

–カサンドラ役のジュディ・デイヴィスとは『アイリスの秋』に続いて、お仕事で組んだのは二度めだそうですね。ジュディの役者としての魅力はなんですか? ジュディのことも含め、キャスティングについて教えてください。
「この映画のキャスティングは非常に興味深いものでした。
ジュディ・デイヴィスは、最初から私の頭の中にカサンドラ役として存在してました。彼女は大変インテリジェントな(知的な)女優であり、とても面白い押さえの効いたドライな演技ができるからです。
 それよりもフランキー役をキャスティングする方がたいへんでした。女優にすべきか男優にすべきか? 私は前から女優としてのマーシャ・ゲイ・ハーデンが好きでした。そして彼女に会った時、彼女が偏見にとらわれない冒険心のある女性だと気づきました。そしてマーシャ自身、女装した男性を演じるというチャレンジに意欲的だったんです。マーシャは役作りのために、トランスジェンダーの人たちに実際に会って、インタビューをしたりするなどの工夫をしていました。
 ジュリエット・ルイスは、ちょっとへんちくりんでオフビートのニューエイジのエイプリル役にぴったりだと思いました。実際にジュリエットと仕事をしてみて、彼女が飾らない、仕事に対して真剣でプロフェッショナルな女優だと知ることができ、とても良かったと思います。
 デライラ役の女優を探すためには、ニューヨークのたくさんの子供達をオーディションしなければいけませんでした。コートニー・ジンズに会った時、彼女の頭の良さと自分自身をもっているところにとても惹かれました(彼女はたった8歳だったんですけれど)。彼女は今まで小さな学生映画や台詞なしのテレビドラマにしか出演したことが無かったのです。つまり、これが彼女にとっての初の本格的な映画出演だったわけですが、彼女は、バルセロナに完璧に近いくらいの準備をして現れました。そして、緊張もせず、カメラの前で恥ずかしがるということもなかったんです」

–完成した映画をご覧になって、どんな感想をお持ちになりましたか?
「完成した『ガウディ アフタヌーン』を初めて大きなスクリーンで見た時、私はバルセロナの街の美しさに衝撃を受けました。また、小さな編集モニターでは気づかなかった繊細なジュディ・デイヴィスの表情を見て感心しました。本当にさりげなくて微妙な、彼女の目や口の動きが、大きなスクリーンではより強調されて現れてましたから…」
–これからこの映画を見る日本の人々に、メッセージをお願いします。
「日本の『ガウディ アフタヌーン』観客が、制作した我々が楽しんだのと同じくらいこの映画を楽しんでくださったら、と願っております。とても素敵な役者さんたちと本当に美しい街で一緒に働けたことは、私にとってかけがえのない素晴らしい経験でした」

翻訳/小木曽育子  構成/かきあげこ   

執筆者

かきあげこ(書上久美)

関連記事&リンク

作品紹介