抜群な映像センスで超個性的な作品を撮り続ける堤幸彦監督と、『VERSUS』で一躍その名を轟かせた破天荒な新鋭北村龍平監督が、同じテーマの作品でガチンコ勝負を繰り広げるプロジェクトが、2003年の劇場公開を目指し現在進行中だ。
 プロジェクトのタイトルは、そのものズバリ『DUEL〜対決〜』。スピルバーグの『激突』の原題でもある“対決、決闘”をテーマに『2LDK』、『荒神』という2作品・2監督のバトルは言うに及ばす、さらに女優対決(『2LDK』)、男優対決(『荒神』)と幾重にも繰り広げられる戦いからは、邦画エンターテイメントの新たな地平を切り開こうとという熱気が感じられる。
 5月28日、スパイラルホールにて同作の製作発表会が開催された。今回の発表会には、真っ向からの勝負を行うニ監督、ニ男優、ニ女優と河井信哉プロデューサーが出席し、通常の記者会見とは一風変わった3ラウンドの“バトル”トーク・ショー形式で行われた。その模様をレポートする。

$navy ☆『DUEL』は、2003年初春、全国ロードショー公開予定!$









ROUND1『DUEL』
監督対決・堤幸彦 VS 北村龍平

 まず第1ラウンドは、要とも言うべきニ監督&河井信哉プロデューサーにより、本作の企画・内容についてが語られた。総合プロデュースを担当する河井氏は、昨年より7監督競作による短編コンピレーション作品『jam Films(ジャムフィルムズ)』を同じく製作中であり、両監督はそちらのメンバーでもあった。「その中で、北村監督より堤さんからこういうルールでコラボレーションをしたいという話がありました。ショートも面白いが、二人それぞれのノリと戦いの中から生まれて来るものも面白いかと思いました」(河井P)。
 というわけでそもそもの言い出しっぺは堤監督だ。「北村監督は『ヒート・アフター・ダーク』って作品が凄くカッコよくて、本人もカッコいいでしょ。仲間になんなくちゃそんだと(笑)。ドイツで行われていた映画祭で一緒になったことがあって、その時軍団と盛り上がっていた北村さんが一緒にに飲みませんかって。実は僕も北村さんもお酒は飲めなくって、飲んで盛り上がってる連中の中でボソボソと話したのがきっかけですね。僕は本作の原型ともいえる1セット、ほとんど2人の登場人物だけの『チャイニーズ・ディナー』という作品を撮っていたので、日常生活から出発して互いに殺しあうみたいなのがいいかなと。しばりがキッチリある中での、ギリギリ勝負が面白いのでは?と思ったんです」(堤監督)。
 北村監督も堤監督を尊敬しているということで、それは好きな作品として『!〔ai−ou〕』なんて通好みのタイトルが出てくることでも明らかだ。「飲んでる連中ほっといて二人で話してる時に、「『チャイニーズ〜』の2・3みたいな作品やりませんか」って話になって、逢ったばかりで何言ってるのかな…と思ってた(笑)。それから3・4ヶ月したら携帯に電話が掛かって来て「本当にやるから」と。その後、また2ヶ月くらいほっとかれて、昨年末に実際にはようやく二度目に逢う機会があったら、「俺も撮るから、1週間位で脚本書いて。俺は女の子二人の巨乳対決やるから、そっちは爺二人が『マトリックス』するのを」って。「自分は巨乳で俺は爺かよ」って言うと(笑)「じゃあ交代しようか」ってそのフットワークの軽さがなんて素敵なんだろう、じゃあ俺考えますからって」(北村監督)。
 ということで、ワンセット、主演2人の対決を基本など“純決の10条”(作品紹介頁を参照のこと)に基づく競作が動き出した。堤監督の『2LDK』は「日常の中で殺意を感じるときを増殖させたワン・ナイト・ストーリー」(堤監督)ということで、二女優の対決を描く作品となる。また、北村監督の『荒神』は『VERSUS』で海外を回ったときに、『子連れ狼』以来初めて見たチャンバラだという反応に、時代劇をやりたい、やらねばと思い続けてきた、北村監督待望の時代劇。と言っても、「時代考証とか気にする人は観なくてもいい」(北村監督)との言葉からも伺えるように、全く新しい時代劇エンターテイメントになることは間違いなさそう。お二人は、「僕が最初の45分を撮るから、後半45分を堤さんが…みたいな無茶苦茶なこともやりたいな」(北村監督)と、その後に向けてのさらにチャレンジングな企画も考えているようでその動向に興味はつきないが、まずは本作の完成を楽しみにしようではないか。








ROUND2『荒神』
男優対決・大沢たかお VS 加藤雅也

 続いて第2ラウンドは、『荒神』編ということで、男優対決を展開する大沢たかおさん&加藤雅也さんと、北村監督、河井Pという布陣だ。前半は言葉で、そしてクライマックスでは本格剣戟アクション&素手でのバトルを展開する時代劇である本作、クランク・インはこの会見の翌日からとのことだったが、主演のお二人は役作りなどどうされるのだろうか。
 「昨日セットを見せていただき、衣裳あわせをしたんですが、もう凄い。役作りなんてしなくても、それを着てセットに出ただけでそう見える素晴らしいもの。監督とは、サムライ・アクションとでもいうべき新しい時代劇、ニュー・ジャンルを作ろうと話しています」(加藤さん)、「北村監督と是非一度やりたいと思っていた矢先に、袴を着たりというこれまで演ったことのない役で興味を持ちました。いい経験をさせてもらえればと思っています」(大沢さん)と、それぞれ強い意欲を感じさせる。
 そんな二人に対する北村監督の思いは?リクエストなどあるのだろうか?「特にないですよ。明日からクランク・インなんですが、最初に書いたものを読んで大沢さん、加藤さんが興味を持ってくれたと聞いた段階で、「これは行ける!」と思いました。そこから、二人に宛書して書き直していったんですが、昨日初めて脚本読みをしたらイメージどおりで。楽しく撮っていけたら、今までの自分の作品で一番いい作品になる確信があります」と、対照的なものをを持ちながらそれが見事にはまった二人に早くも期待に応えてくれるものとしての確信を持っている様子だ。
 そして本作のテーマもまた、北村監督作品ファンには堪らない、その個性が全開でありながら全く新しいエンターテイメントを指向した作品となっているようだ。「戦いを避けて通れない二人がいて、最後には「お前、やるじゃん!」と自分より強い奴が出てきた時に喜ぶ二人がすごくカッコいい気がするんです。二人が前半は会話で、後半刀で戦って「俺より強ぇ〜じゃん!」て時に、どれだけいい顔を見せるかというのが凄く楽しくてね。シリアスじゃないけど、ムードはすごく重厚な中での二人のやりとりが面白いんです。最後には勿論アクションも用意してますが、これまでに無いジャンルの映画となっていると思うんで観て欲しいですね」と不敵な笑みを浮かべる北村監督、作品は現在熱い撮影が進行中で8月の完成を目指すそうだ。










ROUND3『2LDK』
女優対決・野波麻帆 VS 小池栄子

 発表会の最終ラウンドは、野波麻帆さん&小池栄子さんの女優対決篇、『2LDK』だ。両手に華状態で舞台に登場し、「アジアン・バーの支配人みたいだ(笑)」と満足気な堤監督による『2LDK』は撮影は終了し現在ポスト・プロダクション作業中。その撮影現場は色気よりも殺気!でスケジュール的にもハードなものだったようだ。
 「撮影期間は延べ1週間くらいの間、同じセットにこもって朝から晩までって感じでしたね。さらに、途中で最初に小池さんが風邪を引き、それが続いて野波さんにうつって、段々と憑かれ、やつれていく様が表現されていて、ありがとうございますって感じでしたね(笑)。最初はよそよそしかった二人が、ちょっとずつ本音が出てきて言い合いになり、それが一度収まったかに見えても実はマグマのように燃え滾っていて噴出す…。演技指導をしないのではなく、二人を追い込んで行ってどう起こるか見させてもらったって感じですね。ドンドン面白くなってきました」と、風邪がうつらないようにセットに入らないようにした(笑)という堤監督。
 一方、「風邪のせいか撮影についてあんまり覚えていない」と口を揃えるニ女優だが、それぞれが演じたキャラクターには、自分と通じるリアルなものがあっようだ。「街で見かけた女の子みたいな小さなグラビアに載ったことを大事にし、これから大成するんだって言うB級グラビア・アイドルの役ですが、結構心底の部分では私も役に近い部分を持ってますので、演りやすかったですね。我慢するけど、キレルと怖いとか…」(小池さん)、「私もすごく演りやすかったですね。自称映画女優という役ですが、女の子って顔で笑いながらそんなこと思ってねぇだろみたいな(笑)、心の声というか腹黒い部分が出てますんで凄く面白いと思いますよ。」(野波さん)…と言う事で、女性は「私も実は…」と共感し、女性に勝手な幻想を抱いている野郎どもには心底怖い作品になっているらしい。
 勿論、映画と実際のお二人を同一視したら罰が当たるというもので、それぞれ実際と評価は違えども映画と同じ別々の分野で活躍してきた二人だが、カメラが回っていないところでは仲のよい現場だったようだ。「アカデミー賞の人なんだから恥じかかないようにって回りからプレッシャーをかけられましたが、私を受け入れてくれて演りやすい場を作ってくれたと思います」(小池さん)、「栄子ちゃんみたいな感じがタイプなんですごく楽しみだったんですが、一緒に演ってみて変な言い方かもしれませんが、すごく女優さんじゃないか…と思いました」(野波さん)と、互いを尊重しあう二人の丁々発止が堤監督の演出でどのような緊張感を生み出したか、こちらも完成が楽しみだ(6月完成予定)。

執筆者

宮田晴夫

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