「ランは、いろいろなものを代償にしながら一生懸命生きているの」ジョイ・ウォン『華の愛−遊園驚夢−』インタビュー
80年代末から90年代前半、どこか儚げな憂いを秘めた美貌で一世を風靡したジョイ・ウォンが、『華の愛−遊園驚夢−』で久々に日本のスクリーンに登場することになった。ここで、ジョイは『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』などでのイメージから一転、1930年代という時代に社会に進出した進歩的な女性・ランを演じた。
裕福な旧家の一族であるランは、従兄の第5夫人であるジェイドと親しくなる。やがて旧家は落ちぶれ、家を追われたジェイドは幼い娘とともにランの元へ身を寄せる。国民学校で英語教師をするランは、ジェイドとの生活を続けるなか、学校に派遣された役人・シンとの恋に溺れていく。
もうひとりのヒロイン・ジェイドを演じるのは宮沢りえ。宮沢とのコントラストも鮮やかなじつに美しい映画で、モスクワ映画祭での国際批評家連盟賞もうなづけよう。
実を言えば、ジョイは、ここ何年もの間、出演作を絞り絞っており休業状態にあった。そんなジョイを口説き落としたのはヨン・ファン監督だった。何が彼女に出演を決意させたのか? 短い時間だったが単独取材の時間を得ることができたので、この役柄をどう理解して取り組んできたのか聞いてみた。
$blue 『華の愛−遊園驚夢−』は2002年5月11日、テアトル新宿にて公開$
——まず最初に、ヨン・ファン監督から出演依頼を受けたときのお気持ちから聞かせてください。
「一番最初はやはり驚きました。こういう役での依頼は、なかなかきませんし。監督とは、ずっと前からとてもいいお友達なんですけど、こういうお話だったのでびっくりしました」
——この映画のために髪を切られたのですよね?
「はい」
——それは監督からの要望ですか? あれだけ長かった髪を切ることに抵抗はなかったのですか?
「はい、監督からの要望です。切ることに抵抗はありませんでした。この役に全身全霊で当たりたいと思っていましたので」
——このランという役は、あなたが演じる役にしては、進歩的でボーイッシュだったと思います。どういう女性と捉えて演じられたのでしょうか?
「ランは、すごく複雑な感情をもった人だと思います。彼女の言動のひとつひとつは、全て“いい人”と言われるためにやっているという部分があるのではないでしょうか。自分が生きている時代と世界の中で、いろいろなものを代償にしながら一生懸命生きている人でもあります」
——男装についてはどう解釈されましたか?
「性格がもともと男っぽいということもあったと思いますが、あの時代の女性たちが女らしく生きている中で、ランは外に出て仕事をしていました。そのために、女という部分をちょっと否定し、男になって自分のやりたいことをやって社会の中で認められることを望んでいたと思います」
——ランとジェイドとの関係については?
「ランは、精神的にいろいろなことを考えている複雑な人で、彼女のいちばんの希望は、自分の一生の中で何かひとつのことをやり遂げること。完璧な人生を送りたいと思っているのだと思います。それがいろいろな感情に繋がっています。ジェイドという女性も、ラン自身が選んだ人だと思います。彼女の人生にとってジェイドは必要でした」
——ランを演じるにあたって苦労された点は?
「心の成長過程が難しかったですね。彼女自身の人生を決めていく時点で、いったい誰が年老いていく自分と一緒にいてくれるのか、すごく一生懸命考えていると思いますし、国・社会という単位の中で責任感をもって何らかの実績を残したいという気持ちがあります。シンとの恋愛ですが、彼のことをとても愛しているにも関わらず、自分のすべてを捨てきることができませんでした。そういう部分が難しかったです」
——シンとの関係とのなかで自分を捨て切ることができなかったランですが、あなた自身がその立場にいたら、どうされるでしょうか?
「うーん、わからないわ。難しいですね、どうしたらいいでしょう。たぶん、私はジェイドもシンも、どちらも選ばないと思います」
——シン役のダニエル・ウーは、あなたのファンだったそうですね。
「彼は、すごく正直で性格のいい人だと思います。役者という仕事をやっているけれども、そのほかにも自分のやりたいことやいろいろな考えを持っている人です。自分の気持ちに準じて動いていける人だと思います」
——共演しやすいタイプですか?
「どの人でも皆、仕事はやりやすいですよ。どの人もプロフェッショナルで、いろいろな考えをもっているので、自分が役に入っていくことができれば一緒に仕事をすることは難しくありません」
——共演の宮沢さんとのコミュニケーションはどのようにとってらしたのですか?
「もちろん通訳が間に立っていましたけれども、彼女とは目で会話のようなものができたと思います。」
——いい作品に巡り会えましたね。
「ひとつの完成された作品を作るには、全員がこの作品に入り込んでやらなければいけないと思っています。そういう意味で、この作品は本当に完成された作品になったと思います」
——最初のほうの、ジョイさんと宮沢さんがおふたりで崑曲を歌うシーンがなんとも妖艶でひきつけられました。
「中国の伝統劇の中でも特に伝統をもっているのが崑劇です。この作品のなかで崑劇は、すごくいい使われ方をしています。(この映画の原題でもある)『遊園驚夢』自体が、崑劇のなかでも特に精彩を放つロマンチックな話です。私は、実際に舞台も見ているのですが、こういう話です。ひとりの女の子が、ある日、夢を見ます。夢の中で、彼女は美しい庭園でひとりの男性に出会います。現実の世界には面白くないことがいろいろあるのですが、その男性との夢の中での恋愛はとても楽しく、毎晩夢を見ることを心待ちにするようになります。でも、それは現実世界が許さないことで、皆からの圧力がかかり、彼女はもう夢の中から出たくないという心境になって、現実の中で死んでしまうという話なのです」
——さて、今後の活動のご予定が気になるのですが、いかがでしょうか?
「いま、私の身分は学生なんです。バンクーバーで勉強しているんです」
——何を勉強しているんですか?
「英語です。ですから、いま、私はスターでも何でもありません。学生です(笑)」
——とりあえず、勉強が終わってから先のことは考えるのですね? 何年先になってもかまいませんので、またいい作品に出演してください。
「(日本語で)ドウモアリガトウ。私自身もそのように考えています」
執筆者
みくに杏子