伝説のボクサー、モハメド・アリが、時代にそして運命に、不屈の闘志で挑んでいった姿を描く感動の人間ドラマ『アリ』が、『インサイダー』など実録ものでも定評のあるマイケル・マン監督によって映画化された。アリを演じるのは、この夏続編も公開予定の『メン・イン・ブラック』ほか、数々の話題作に主演しているウィル・スミス。徹底的な役作りと迫真の演技は、本年度のアカデミー主演男優賞にもノミネートされるなど、高く評価されている。
 5月からのロードショー公開を前に、ウィル・スミスさんが来日を果たし、4月17日に帝国ホテルにて記者会見が開催された。登壇したスミスさんは、通訳の女性に水をついであげたり、パンチの説明の時など、コミカルな身振りと表情で、会見場内を沸かせ続けるサービスぶりだ。また、左耳には「しばらく逢えないからその代わり」と、奥さんのピアスをし、子供の話をする時の温かい表情など、家族への優しい思いをのぞかせていた。
 なお、会見にはタレントの小池栄子さんがプレゼンターとして登場、「役作りが凄い。またすごい人生を送られたアリをウィルさんが信念を持って演じられていて感動しました!」と、感激しながら感想を語った。

$navy ☆『アリ』は、2002年5月25日(土)より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系系にてロードショー公開!$








Q.ご挨拶をお願いします。
——こんなにたくさん集まってくれてありがとう。僕も日本に来れて大変光栄に思っている。製作中は撮影のみに集中していたので、このように日本で多くの方が興味を示してくれているなんて、思いもしなかったんだ。観てくださった方々には、気に入っていただけたことを願っているし、これから映画をご覧になる方々にも、この映画を心から愛していただければと思います。

Q.世界中の多くの人々から知られているアリを演じるにあたり苦労した点と、役作りへのアプローチに関してお聞かせください。
——まず最初に肉体的な役作りの面から入ったんだ。彼と同じ走り方をし、スパーリングを真似、彼が食べたものを食べ、同じようにトレーニングをしたんだ。監督のマイケル・マンは、算数の数式のような役作りの方針を打ち出してきた。まず肉体から入れ、肉体がファイターとしてのものになったら、精神も自ずからファイターとしてのものが判って来ると。こうして彼の精神面がわかって来ると、次に彼の感情面がわかりだし、最後には精神的な面での理解に到達できるんだ。この4段階で、アリという人間になっていったわけさ。
トレーニングは撮影がスタートする1年位前からはじめ、撮影中も6ヶ月にわたって続けたので、都合1年半くらいだ。その間、併せてヴォーカル・トレーニングやイスラム教の勉強、そして脳神経についてなどについて学び、アリの敏捷な動きを学んでいったんだ。

Q.アリという人物は素晴らしいファイターであると同時に、政治的な意見を堂々と言う人だったことでも有名ですが、あなたは今回演じるにあたってそうした部分をどう思われましたか。個人的な価値観を踏まえてお話ください。
——僕がとても共鳴を受けた点は、アリはすごくシンプルなレベルで信仰心が篤い方だったということだ。我々が信仰を複雑に捉えがちななかで、彼はとてもシンプルだった。彼の神はベトナム戦争に反対していたので、彼も戦争に反対し徴兵に応じなかったんだ。それによって、財産、キャリア、人生が奪われ、家族が傷ついても、神への信仰心の方がずっと大切だったんだ。僕も、信仰心はシンプルたるべきだと思っているよ。









Q.アリは当時セックス・シンボル的な部分も強く持っていましたが、そうした部分はどう思われましたか?
——彼の男性的な部分をいかに描くかと言う点に置いて、僕はこの2年間ほどの間にしばし、アリ本人と口論を続けてきたんだ。初めてセットで彼と出会ったとき、僕の身体はしっかり出来上がり、メイクも済ませた状態で逢ったんだけど、彼はしばらくの間僕を眺めると、「君は僕ほどでは無いがかなりハンサムだと聞いたんだけど」って言ったんだ。それで僕は、「同じ人たちから、アリさんはハンサムだけど僕ほどじゃないって聞きましたよ」って返して、それからずっと口論でね(笑)。僕なりに女性に対する彼の魅力に関しても、ファイターとしての部分と同じくらいトレーニングを重ねたよ。

Q.役作りでアリに叶わない、演じられない思った点はありますか?
——僕は全身全霊をかけてこの役に挑んだので、そういった意味では真実に基づいたことで自分が演じたくないとか、演じ難いと思ったことは何一つなかったよ。彼を本当に忠実に描いたんだ。

Q.今回、奥様のジェイダ・ピンケット・スミスさんと共演されてますが、その感想などをお聞かせください。
——もう、素晴らしい経験だったね。実は僕がラヴ・シーンを演じたのは今回が初めてなんだけど、それが実の妻だったことはよかったことだと思うし、僕たちも撮影前に1・2回はメイク・ラヴしたことがあるから、役作りに役立ったよ(笑)。それと、普通は皆さんにお見せする機会の無い所でやっているものを、お見せできたことを嬉しく思うね(笑)。

Q.ファイト・シーンはどのくらいハードでしたか?
——ファイト・シーンは本当に大変だったよ。今回の作品では、相手役に関しては役者ではなくプロのボクサーが演じることが決まっていたんだ。映画史上最もリアルなボクシング・シーンを撮りたいという気持ちがあったからね。それで僕以外は全てプロのボクサーたちと一緒に、パンチを実際に中てて相手にそれほど打撃のかからないもののトレーニングを積んだんだ。ローリングと言うんだけど、パンチが中ってもそれをちょっとずらせば打撃の威力がかなり和らぐとかね。ただ、今思えば撮らなければよかったなぁと思える場面もあったね(笑)。実際にパンチをくらったことも、勿論あったよ。トレーニングをはじめて3ヶ月くらいたち、ヘッドギアも外しトレーニングがハードになりだしたとき、ソニー・リストン役を演じたボクサーのパンチをよけられず、もろにおでこで受けてしまったんだ。首がめり込んでしまったようで、その付け根から両肘まで電流が走った感じ。その時頭に浮かんだのは、「僕、車の鍵何処に置いたかな?」で(笑)。でも、その経験があったからこそ、僕は真のファイターになれたと思っているよ。










Q.今回のアカデミー賞で主演男優賞、女優賞をそれぞれ黒人の俳優が授賞されましたが、そこにはテロ事件後アメリカ国民の一体感を盛り上げるために、差別されてきた黒人が授賞されたようにも思われるのですが、そのことをそのように思われますか?
——正直のところ、僕にはアカデミーの各メンバーがどのように投票を選んだかは判らないが、個人的には人々は政治とエンターテイメントは分けて考えていると思う。個人的にあの晩の結果には同意しているし、よかったなとも思っているよ。そこにテロの影響等を考えるのは、深読みしすぎじゃないかな。

Q.眼光などまさにアリそのものだったファイト・シーンに比べると、日常のドラマの部分では特別にはアリに似せていないような印象を受けたのですが、そのあたり演じる上での意識など教えてください。
——そんなことないよ。さっきも話したが、この役作りのために僕は1年半をかけ、彼の喋り方から微妙なニュアンスまで研究し尽くしたつもりだ。彼を描いたドキュメンタリ映画があるんだけれど、その監督から作品では使用されなかった17時間にも及ぶフッテージを借りたのだが、そこには料理をしているところをはじめ、日常での素顔のアリが映っていたんだ。それをベースに、我々なりに解釈した実生活の姿。だから、リングの内・外を問わず、アリそのものを演じきったと自負しているし、自信があるよ。

Q.この役を演じたことで、貴方の内面にはどのような変化がありましたか?
——この映画から学んだ最大のことは、“偉大”であるということが、どういうことであるかということだね。この役を通じ偉大さを演じ、定義づけ無ければならなかったのだが、それは容易いことでは無いがとてもシンプルなことなんだ。偉大な人物は沢山いる。アリ、ガンジー…。彼らに共通していることは、シンプルな信念を持ってそれに突き進んだということなんだと思う。彼はベトナム戦争を信じなかったので行かなかった。それを実行するのは大変なことだが、実にシンプル信念だ。そういったことを、僕は自分の人生にも置き換えて応用していきたいと願っている。自分がどういう人間であり、またどういう人間になりたいかが判っていれば、人生の様々な局面で判断しやすくなると思う。今年のアカデミー賞の発表の3分前、僕は子供が熱を出したという電話を受けて席を立ったが、その決定を躊躇しなかった。自分が賞を取れるかどうかよりも、娘の健康のほうがはるかに大事だからね。偉大たるためのシンプルな信念というものは、誰の心の中にもあるものだと思う。ただ、それを把握し、自覚して実行できるかどうかということなんだよ。

執筆者

宮田晴夫

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