アジアの最東端の国・日本の俳優を、西アジアの国・イランの監督が演出する、今までにないタイプの合作映画『風の絨毯(じゅうたん)』。去る3月14日、飛騨高山での日本ロケ開始にあたり、俳優の工藤夕貴、榎木孝明、柳生美結、カマル・タブリーズィー監督、イラン側プロデューサーのアリレザ・ショジャヌーリ、日本側プロデューサーの益田祐美子による記者会見が開かれた。

$navy 『風の絨毯』は2003年春公開予定 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント$




物語は、母(工藤夕貴)を亡くして悲嘆に暮れる少女さくら(柳生美結)が、貿易業を営む父(榎木孝明)とイランを訪ね、イランの少年少女たちとのふれあいの中で立ち直っていく再生の話に、飛騨高山の祭屋台の見送り幕にペルシャ絨毯をかけたという実話を絡めて展開していく。
「ペルシャ絨毯はたくさんの結び目から出来ている。この映画も、心と心を結びつける映画」とショジャヌーリ・プロデューサー。

≪俳優陣への質疑応答≫

——榎木さんが体験されたイランでの驚くような撮影方法とは?

榎木 とりあえず叩き台になる台本はあるのですが、本当の完成台本はありません。監督が細かいト書きやしゃべる内容はペルシア語でいっぱい書いてくださるんですが、撮影の前の晩にリハーサルをしまして、私とレザ・キアニアンというイランの俳優さんとふたりでセリフを作っていきます。基本的な発想は「映画とは生き物である」というんですね。要するに、人間の心境が変わっていくその生理に合わせて変わっていくべきものである、セリフはギリギリまでその人の感情にともなって変わっていく、という発想を大事にしてくれているのです。演じる方としては、それをわきまえていないと、明日しゃべることがわからない本当にたいへんな世界なんですけど、これが実に面白かったですね。僕もイラン映画はいくつか見ていますけれど、なるほどな、こういう方法で撮ったらひじょうに自然に進行していくんだろうなということを実感する日が続きました。
 キアニアンという俳優さんも、僕よりちょっと年上なんですけど、とっても感性のいい方で、先月イランで主演男優賞をお取りになりました。イランでも第一流の俳優さんで、彼とのそういう話し合いもとても楽しかったです。
 美結ちゃんが演じるさくらは、実は台本は最初から最後までぜんぜん見ていません。これはどういうことかと言いますと、彼女は芝居をしない芝居を望まれていました。前もってセリフや感情がわかっていると、どうしても小芝居をしてしまう。そのことを監督はいちばん嫌われたのではないかと思います。その場で対応できる感性があれば、美結ちゃんには台本を見せないほうがいいんではないかという発想でした。現場に来て、今日はどういうシーンを撮るんだよ、ということで。彼女はじつに見事に対応してくれました。さくらが友達になるイランの男の子がいるんですけど、彼もまだそんな経験が豊富じゃないけれど、この子も感性の素晴らしくて、画面を見ただけで言葉を越えた納得するものがあると思います。
 そういうものが積み重なってひじょうに面白い映像になりつつあると、これは私が向こうで体験した実感としての感想です。

——飛騨高山でのロケについての意気込み、抱負をお聞かせください。
工藤 この物語の進行の軸になっていくのが、やっぱり家族の絆なんですよね。亡くなったお母さんをずっと引きずっている家族が、イランという国で人間と人間の結びつきによって癒されていくという、私の役は、その重要ないちばん最初のきっかけになる部分の役なんです。自分がアーチストになりたかったけれども、若くして結婚して、自分のキャリアを諦めて、子供を育てることによってそれが自分の夢になっていっています。本当にすごくステキな愛情の深い親子で、そんな親子を高山の素敵な町並みのなかで自然な形で演じられたらいいなと思っています。美結ちゃんと私とふたりで頑張ります。
榎木 (工藤さんが)全部ばらしちゃいましたけど、そこがこの映画では特に大事なところだと思っています。後は、私とさくらのふたり旅になりますが、その旅の意味も日本での撮影にかかってくると思います。ただ撮り方に関しましては、先ほどお話しましたとおり、日本でもイランとまったく同じ撮り方をしたいと監督がおっしゃっていましたので、私もむこうで体験を生かして、現場で協力することで同じような形にしたいですね。その時に感じるものを監督はいちばん大事にしてくださいますので。余計な芝居ではない、ただ心の真実と言いますか、感じたものをいちばん大事にする監督だと思います。




≪監督への質疑応答≫

——日本の印象はいかがですか? どういったところをポイントに撮影したいとお考えでしょうか?
監督 日本は初めてではありません。いちばん最初に日本に来たのは、福岡映画祭で自分の映画の上映のときで、東京にも自分の映画の宣伝で来ています。日本人の友達も出来まして、けっこう日本のことはわかっているつもりで、この映画に入りました。日本は、ひじょうにハイスピードで未来に向かって走っている国だと思います。テクノロジーもひじょうに発達しています。ですが、外から見る日本は、どこかで自分の過去を忘れてしまっているのではないかなと感じます。過去には、とても豊な文化があり、心の触れ合いがありましたが、それをスピードを出して走っているうちに置いてきてしまったように思います。ですから、日本人の皆さんには、この映画を見ることによって自分の過去を振り返って欲しいと制作に入りました。過去がなければ、ここに私たちはいません。過去はもっとも基本的なものであって、それがあれば未来に走っていくなかでも何も失うことはない。そのことが、日本人の皆さんに通じれば、私の目的は達成されるでしょう。

——監督から見て、今までのところでのそれぞれの俳優に対してどのように評価されていますか?
監督 先ほど榎木さんに対する自分の本当の気持ちを言ったら、ある日本人に怒られたんですけど、日本人のなかでは本当に榎木さんは稀な方だと思います。最初に持った彼についてのイメージと、一緒に仕事をしてみてからのイメージは一致しています。素晴らしいアーチストでありながら、とても偉大な魂を持った、とても深い人間で、心を開いて世界を見ている、言葉にできないくらい素晴らしい方です。イランではとても協力的でした。一緒に仕事をしていて、1回も「これは違う」と思わせたことはなかったし、キアニアンとふたりで素晴らしい演技を見せてくれました。まったく自分のイメージ通りの演技です。本当に心からお礼を言いたいと思います。
 さくら役がいちばん心配だったんですが、美結ちゃんはとても才能があって、頭がとてもいい子です。現場でも心を開いて話し合ってくれて、素晴らしい演技を見せてくれました。自分が現場で見た美結ちゃんは——イランにはこういう諺があるんですけど、“1日で1000年の道を歩ける”ような子供だと思います。きっと近い将来、有名な日本の女優になるでしょう。イランでも有名な女優になって欲しいと思います。
 工藤さんと三国(連太郎)さんなんですけど、これから一緒の撮影に入るところです。工藤さんと三国さんのサンプルビデオをいくつか見ました。明日からの撮影がとてもうまく進んでいくだろうことを信じています。
 イランでの撮影がスピーディに進んだように、日本でも日本の方々のご協力で撮影はスピーディに進むと思います。私たちが、この合作映画で文化的な仕事をしていくためには、たくさんの人の協力が必要です。日本・イラン双方のプロデューサーの力も借りながら、私は自分の考えや意見をカメラの前で映像にします。皆さんの協力でここに来ているのですから、いい作品にしたいと思っています。

執筆者

みくに杏子

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