爆弾テロにより妻子を失った消防士が、“目的のための犠牲”(原題)として事実を黙認する国家に見切りをつけ単身巨大なる敵に戦いを挑む。昨年秋、米日同時拡大公開を目前に起きた9.11テロ事件の影響で公開が延期されていたアーノルド・シュワルツェネッガー主演最新アクション巨編『コラテラレル・ダメージ』が、全米での2月公開に続きいよいよ日本でも4月より待望のロードショー公開となる。
 本作が記念すべき30本目の出演作品となり、生身の人間としての苦悩と怒りを見せる新たなヒーロー像に挑んだシュワルツェネッガーさんが来日を果たし、3月8日に渋谷セルリアン・タワーにて来日記者会見が開催された。
 当日の質疑では、9.11テロ事件と関連したものが多かったが、悲惨な事実を認識した上で、あくまでエンターテイメントとしての映画作りを語る口調には、ハリウッド娯楽産業を支える俳優としての力強さが感じられた。
 また、この日はシュワルツェネッガーさんが支援をするスペシャル・オリンピックの若きアスリートの面々も舞台に登場、彼らの活動を紹介するとともに、一人一人と強く親しみのこもった悪所を交わした。

$navy ☆『コラテラル・ダメージ』は、4月20日より丸の内ルーブル他、全国松竹・東急系にてロードショー公開!$







Q.ご挨拶をお願いします。
——前回来日した時に、“I’ll be back!”と言った記憶があるが、また日本に戻って来れて大変嬉しい。応援してくれるファンの皆さん、サポートしてくれるプレスの皆さんには本当に感謝している。

Q.世界の現状があるわけですが、映画に関わる人々はテロとの関係において、どのような責任があると思いますか。
——私はそれぞれの職業に就く者が、それぞれ一生懸命やるべきだという信念を持っている。軍はテロと闘いすばらしい仕事をしているし、CIA・FBI等もそれぞれの分野で、米国以外の国々も国際的な強力姿勢の中で闘っているし、勿論政治のプロである政治家もそうだ。だからそれらを、そのままハリウッドに押し付けられてしまっても困るわけで、我々の仕事は大衆に娯楽を提供することなんだ。現実的には、まだテロの完全な解決法は見つかっていないわけだが、そうした状況の中でハリウッドがすべきことは、大衆に日常の暗さを忘れて逃避する場所を与えることが使命であり、本作はまさにそういう作品なんだ。言うなれば、第二次大戦中のジョン・ウェインの西部劇のようなものが、ハリウッドに求められているんだ。

Q.9月11日のテロ以降、消防士が子供達のヒーローになっていますが、今回演じられ消防士のどの部分がヒーローと成り得ると思ったか、お話しください。
——私が思うにヒーローは、自分の仕事に命をかける人々ではないかと思う。人命を助ける人々だね。軍人、警官、レスキュー隊そして消防士すべてヒロイックな人たちだ。ただ、これまでは消防士の実情にふれる機会がなかったため、軍人がそうしたものの代表のように感じがちだったが、あの事件で崩落することがわかっている建物にも飛び込んでいき救助を続ける消防士の姿を目にして、彼らがヒーローであることを知ったんだ。実はこの作品の撮影に入る前に、スタジオ側は消防士ではキャラ的に弱いのではないかという話しもあったのだが、私はそれがこれまで使われていないユニークな職業でありヒロイックな人達なのだと主張したんだ。








Q.あなたの出演作品には、『ターミネーター2』のT1000の場面など怖い場面があるものがありますが、そうした映像に興味があるのでしょうか。
——怖い場面に関しては様々な意見があるようですし、レイティングの問題もある。『コラテラル・ダメージ』を例にしましても、トーン・ダウンした場面も何箇所かあったんだ。私はもうすぐ『ターミネーター3』の撮影に入るのですが、その中にも非常に怖い場面が作られるはずだ。でも、それが『ターミネーター』シリーズの特長であり、観客を怖がらせまたそれを楽しむ観客もいるわけだからそれに応えるんだ。だから『T3』はかなり怖い作品になるね。

Q.娯楽の要素としてバイオレンスは欠かせないとは思いますが、9.11テロ事件以後映画の中のバイオレンス表現は変わる、もしくは変わるべきだと思いますか。また、貴方のところに来る脚本で、既にそうした変化が現れていたら教えてください。
——現実世界の暴力と、映画が提供するものには関係は無いと思う。実際、あのテロの後アメリカのビデオレンタル店では、アクション、ヴァイオレンスといったジャンルが一番借りられていたんだ。それは、観客が現実のあの事件から逃れ自分の家の安全な居間で別世界にひたるということで借りてくるんだ。だから、現実問題としては脚本には何の影響も出てきていないし、テロリストの犯罪はハリウッドが触発したものではない。

Q.この作品は9.11テロ事件で様々な影響を受けました。また確かに映画は娯楽だとおっしゃられましたが、この作品を通して平和へのメッセージのようなものはありますか。
——映画の将来像は、この事件によってそれほど影響を受けることはないと思う。確かにテロ映画などでは若干の配慮があるかもしれないが、一般的には今後も同じようにサスペンス、SF、軍事ものなどは作られていくだろう。観客だってそれが現実ではないということを判っているのだから。しかし、同時に平和や人間の寛容さを訴える作品も作られていくべきだし、必要だと思っている。20世紀は戦争の世紀であり、不必要な命が多く奪われていった。これからの世紀は、もっと平和が世界に広がるべきだ。そうした時に、テロに対してただ闘うだけではなく何故起きているのかという根本を認識し、土台から抑えていこうという努力が必要じゃないかと。そういう点を訴える映画も必要なんだ。









Q.9.11テロ事件と題材が似ているということで、事件が発生したとき貴方はまず何を感じましたか?また、確かにエンターテイメント作品ですが、亡くなられた消防士の遺族の方などは、その記憶を呼び覚まされることもあるかと思われますが、そうした方々にはどのように観て欲しいですか
——事件をTVで見た時には、4000人もの無実の人々がテロの襲撃の犠牲になったという狂気を感じるばかりだった。その後、妻から『コラテラル・ダメージ』の公開を考えるべきではないかといわれ、初めて内容の類似にきづいたんだ。そしてワーナー・ブラザースに連絡をとり公開延期の話しをし、会社側も同じく考えていたのでその日のうちに公開延期が決まったんだ。
この作品は、事件で犠牲になった消防士やレスキュー隊の遺族を招きニューヨークで試写を行ったのだが、ちゃんと受け入れられ感謝をされたんだ。また私は、被害に対する援助を行うツイン・タワー財団に100万ドル寄付をし、またその資金集めの活動にも協力しているので、感謝してくれているようです。

Q.今のアクション映画は、CGやワイヤー・アクションの技術が発達しすぎて、実際にアクションはできない子供や動物が立ち回りを演じる映画が作られていますが、これまで身体をはったアクションをされてきたシュワルツェネッガーさんは、この状況をどう思われますか
——私はそうしたテクノロジーの発達は、映画界にとってプラスだと思っている。そうしたテクノロジーが発達すればするほど映画にリアリティは増すわけで、安全性・物理的な面・費用等で以前は実現不可能だった場面が、テクノロジーにより解決できるんだ。娯楽の限界を推し進めるという意味でも、歓迎すべき状況だね。私の子供も、動物がしゃべる『ドクター・ドリトル』のような映画は大好きだよ。

Q.劇中CIAがゲリラの村を襲撃する場面がありましたが、あれはドラマチックな意味で加えられたものなのでしょうか。
——あの場面は、最初のシナリオからあったものだけど、実は出来上がったものでは多少トーン・ダウンされた部分なんだ。最初に撮影したものでは、子供の死体がゴロゴロと転がっているなどかなり生々しい部分もあったのだが、そこまで描く必要はないだろうと判断したんだ。しかし、あの村の場面によって、この作品が決してアメリカ側から一方的にみたものではないことを現したかったんだ。他国のテロが米国で破壊活動をする姿を描くだけでは公平では無く、各国の現地でも犠牲になっている者がいることを描くべきだという意図で描かれたものなんだ。現在のテロの状況は、「こいつが悪い」と一方的に示せるものではなく、全員が何らかの形で関わって誰かが“コラテラル・ダメージ”を受ける。そんな現実を描きたかったんだ。必ず“コラテラル・ダメージ”があることを考えて行動すべきだ、それが本作のメッセージなんだ。

執筆者

宮田晴夫

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