『グラディエーター』『ハンニバル』のプロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーが組んだ話題作『ブラックホーク・ダウン』。その来日記者会見が、2月18日(月)に行われた。

今回は、リドリー・スコット監督と、制作のジェリー・ブラッカイマー、そしてマット・エヴァーズマンニ等軍曹 役のジョシュ・ハートネットら、出席者のコメントを紹介する。



■コメント
−−レンジャーの役を演じるにあたり、大変なことはなんでしたか?
ジョシュ・ハートネット(マット・エヴァーズマンニ等軍曹 役)
前の映画を撮影中に監督からこの映画の話を聞き、原作本を読み参考にしました。

出演が正式に決まってから軍事訓練を受けました。役作りに一番助かったのは、1993年に起きたソマリアの事件に実際に参戦した兵士の方とお会いしたことでした。「ソマリアの事件に携わった方たちがどういう人たちなのか」という人柄を知ることは、とても大切なことでした。

−−今回の映画で、フィクションの部分を排除することにこだわった理由は?
リドリー・スコット(監督)
今回の映画では、「他国の戦争に大国が介入すべきかどうか?」ということと、その結果が干渉になっていく過程を描いています。

もちろん、アメリカがソマリアに軍を派遣した最初の理由は、「飢えている人を助けたい」という人類愛で、映画でも描いている作戦の目的は、アイディード将軍を逮捕することでした。しかし、1時間足らずで完了すると思われていたこの作戦が、いろいろな手違いで18時間以上もかかる地獄絵になっていったわけです。

この事実を映画で表現するために、制作のジェリーと協議して「その部分を中心に置こう」と決めました。事実以外の抹消な部分は排除して、報道的にソマリアで起こった戦争…兵士たちが経験したこと、ソマリア人たちが経験したことを正確に再現し報道することを、映画の基本姿勢にしました。

今まで、歴史上起きたことを映画として扱ったことはありましたが、わずか9年前に起きた現代史の一部を映画で描くのは初めてだったので、とても興味深い経験でした。

ハリウッド映画の多くは、歴史ものを作る場合でも必ずフィクションの部分を入れたり、歴史をベースにしてその上にいろいろなものを作って、娯楽を捻出しがちですけど、この映画ではあくまで事実を正確に伝えることに重点を置いて作りました。

−−もしジョシュさんが、エヴァーズマン軍曹の立場に置かれたら、うまくやっていけたと思いますか?
ジョシュ
ノーです(笑)。軍人という職業を選ぶ人たちは、それなりの理由や素質があって選ぶわけで、本質的に僕は平和主義者で、それを選ばなかった。でも、実際に戦った彼らは、当時も今も威厳をもって生きています。

エヴァーズマン軍曹は、常に「何が正しい道か?」を模索していて戦場でも行動していたと思います。そういう点はとても尊敬しています。

−−この映画ではCGをどのように使っていますか?
リドリー
映画でCGを使う理由は、人命に危険が及ぶ場合と予算の都合でCGを選ぶ場合、あるいはファン田ジーの世界を表現するのにCGを使う場合があると思います。でもこの映画はいわゆる特撮映画ではなく、リアリティ重視のドキュメンタリータッチの映画ですから、映画撮影のよりどころにしたのはスチル写真です。スチル写真を参考にして、この映画の絵作りをしました。

もちろんCGも少しは使いましたが「これがCGだ」とはっきりわかる使い方ではなく、効果的に少量使いました。





−−映画の題材を選ぶにあたり、何がヒットするかどう判断されていますか? 
また、ヒット作を生み出し続けることにプレッシャーを感じることはありますか?

ジェリー・ブラッカイマー(制作)
プレッシャーは常に感じています。それは「常に成果を収めたい」という思いからくる、自分から自分へのプレッシャーです。

「どうすれば面白い作品が作れるか」はいつも考えていますけど、観客が何を求めているかは見当もつきません。でも一つだけわかることは「自分が何を見たいか」で、基本的に自分が見たいものを映画にするようにしています。

−−戦争映画に出て、戦争に対して感じたことは?
ジョシュ
軍隊に入ろうと思ったことはありませんし、政治的な戦争に対する考え方は変わっていません。でも、この映画に出たことで、本当にすばらしいことを学ぶことができました。

それまでは「軍人は怖い、悪い人」というイメージがありました。でも、この映画を通して実際の兵士たちと話をしてみて「自分とそう違いはない」ことに気がつきました。だからこそ、『パールハーバー』に続いてこの映画に出ようと思ったわけです。

−−リドリー監督とは30年来の友人ということですが、この映画で仕事を組みたいと思った理由は何ですか? また、監督と共同プロデュースされていますが、そのあたりはいかがでしたか?
ジェリー
おっしゃる通り、僕はリドリー監督とこれまでずっと一緒に仕事をしたいと思っていました。でもお互いにタイミングがなかなか合わなかったんです。今回、その願いがかなってうれしかったです。

リドリー監督との共同プロデュース作業は、とても楽でした。なぜなら彼はすばらしいコラブレイターだからです。彼も私もお互いの意見に耳を傾けますし、彼との話し合いではどちらかの「いい意見」を採用するようにしています。それは、二人とも映画が大好きだからで、口論になってもお互いに一番いいと思う意見が通って、結果的に作品が良くなっていると思います。

リドリー
ジェリーとは30年前に、車のタイヤのコマーシャルで一緒に仕事をしました。それ以来、お互いの分野で経験を積んできました。その経験の中で協力の大切さを学びました。

特に、スケールの大きい映画は一人の人間で作れるものではなく、大勢の人の共同作業が必要になるんです。最終的には誰か一人が決定を下すことになるのですが、大事なのは「この映画をどういう映画にするか」という目標・目的をしっかりと決めることで、今回は最初の2日間でそれが決まりました。出来上がった映画も、その目的があまり変わらずに描かれています。

映画撮影の現場でまれに混乱することがありますが、それは目的があやふやなときで、今回の映画ではそれはなかったですね。

ジェリー
混乱しても、コントロールされた混乱でした。

−−映画化にあたり、アメリカ軍の反応はどうでしたか?
ジェリー
ジェリーも私も原作の大ファンで、映画を作りました。本に描かれている事件は、18時間半の間に100人の兵士が投入されたものですが、映画は約2時間半で台詞のある兵士は37人なので、より圧縮して描かなければいけませんでした。

そして原作が書かれる前、軍は本の出版に反対でした。でも、本の内容が当時の兵士たちの勇気を称えた的確なものだったのでその後は協力的で、映画を作るにあたり軍からの干渉は何もありませんでした。

実際にこの事件が起きたとき、マスコミは大騒動で「失敗だった」と書きましたが、「実際に何が起きたか」については報道されませんでしたので、この映画を通じて正確に事件を伝えられると自負しています。

リドリー
戦争を描くことに関しては、いろいろな反響があります。そして戦争映画に対して「何かメッセージを伝えたいのか?」とか、つい想像しがちですが、この映画では「戦争が善か悪か」の判断は下していません。

映画の台詞の中で兵士たちが「ここ(ソマリア)に来るべきだったのか?」という問いに対し、それぞれいろいろな答えをしているように、判断を下すのではなく、事件を正確に描くことに重点を置きました。

また、当時はソマリア人側の意見はほとんど報道されていませんでした。映画では、彼らが何を考えていたのかを彼らの視点からも描いています。

執筆者

齋藤泰介

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