日本映画を代表する映画音楽家久石譲さんの初監督作品で、先ごろ開催されたモントリオール国際映画祭でも大好評を持って迎えられた本格的音楽映画『カルテット』のスペシャル・プレビューが、10月の全国公開に先立つ9月20日によみうりホールで開催された。
 この日のプレビューは作品の上映前に、桑田譲さんらのカルテットによる『カルテット』のメイン・テーマの生演奏からスタート。次第に秋らしくなった宵に、静かに流れる4重奏の調べはベスト・マッチだ。続いて舞台に登場した久石監督自身もピアノの生演奏で加わって、『菊次郎の夏』『キッズ・リターン』のテーマが披露され、音楽家である久石監督ならではの嬉しいプレゼントを、観客は堪能した。









 まさに一心不乱といった様子で、2曲続けて演奏した久石譲監督。息を切らしながら、「演奏としゃべるのは別、やるだけやっちゃってから、ようやく、終わったぞって話し出すんですよ。僕の曲は、メロディアスだと思われていますが、コンサートの後半はこんな風に体育会系です」と話す久石監督、勿論試写会で御本人が生演奏を行うのは今回が始めてのことだ。
 これまで多くの名監督の仕事を音楽で支えてきた久石監督だが、これまで音楽家として絵が在る所に音楽をつけてきた立場を逆転させ、音楽があるところに映像をつける作品があってもいいのではないか?という思いが、監督デビューのきっかけだとか。「それと、優れた映画監督の方々と仕事をしてきたんで、そういう方達のフィールドではなく、音楽映画であればいいかなぁ」と謙遜気味に笑った久石監督だが、この日のプレビューで司会をつとめた襟川クロさんも「昔からの知り合いである分だけ、細かくキチンと観たが、途中から久石監督の初監督作品であることなど忘れてしまうくらい、映画として楽しみました」とお墨付を付ける充実作だ。
 本編中でカルテットを演じた4名のキャスティングに関して、100%満足しているという久石監督。なんでも、クラッシックに馴染みの深い風土で行われたモントリオール映画祭の会場では、4名の演技に対し多くの観客は全員プロの演奏家だと思ったらしく、そうした質問を多く受けたという。実際は、1名を除く3名は演奏に関しては素人だったわけだが、「演奏をアップで撮るところは特に練習してもらい、後は特殊な撮り方をして(笑)」説得力のある演奏場面に仕上げたそうだ。
 ところで、全編に音楽が流れる『カルテット』だが、実はそのほとんどが実際に誰かしらが演奏を行っていたりする音楽場面で、そのキャラクターの心情を表現するような映画音楽らしい曲は1曲のみ3回使われるだけだとのこと。「映画はTVと違って、そこに描かれている何かを求める人が観に来るものだから、そうした人々のイマジネーションを限定してはいけない。過度な説明はしないんです」。映画と音楽の双方を愛し、またそのどちらにも安易な妥協はしない厳しい姿勢が垣間見られる言葉だ。
 今後に関しても、「音楽だけじゃできなくて、映像を使ってやりたい題材が出来たらまた映画を撮りたい」と語った久石監督、最後は御本人のピアノ・ソロで『フレンズ』を演奏し、上映前の舞台をしめた。

なお『カルテット』は、10月6日より渋谷東急3ほか、全国松竹・東急系劇場にてロードショー公開される。

執筆者

宮田晴夫

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