イラストレーター、エッセイストそして映画監督と、多彩な活躍を見せる和田誠さんの、『怖がる人々』以来5年ぶりの劇場用長編監督作品となる『真夜中まで』が8月4日より公開された。この作品は、ネオンきらめく夜の街を舞台に、偶然出会ってしまったジャズ・トランペッターとトラブルに巻き込まれた外国人クラブのホステスの逃避行を、全編ジャズの調べにのせて描いた大人のためのファンタジー・ムービーだ。
 公開初日の8月4日、上映劇場のテアトル新宿は、久々の和田誠ワールドを楽しみにした多くの観客が詰めかけて、立ち見が出るほどの盛況ぶり。そうした賑わいの中、初回上映終了後に、和田誠監督、真田広之さん、國村隼さんによる舞台挨拶も開催された。













 『真夜中まで』は和田誠監督の長編作品としては4作目にして、初のオリジナル脚本作品となった。4・5年前から構想を練り続けたこの作品、監督が最も拘った部分はジャズ。「ジャズ・ファンやジャズ・ミュージシャンが観てうそ臭さを感じさせず、ジャズに関心がない人にジャズを好きになってもらえる作品をめざしました」。さらに、この作品では物語上の時間経過と上映時間がシンクロする作りとなっている。「そのことを目的にしたわけではなく、ジャズ演奏の休憩時間から次の演奏までの時間が丁度映画1本分くらいの長さなので、ならばあわせようとということにしたんです」と話す和田監督、実際編集は大変だったが、映画の最初に出てくる時計が示す時刻と最後に出てくる時計が示す時刻はきっちりとシンクロしているので、これからご覧になられる方はこのあたりも注意してみよう。なおこの作品は全編夜間のオール・ロケ、しかも6月という夜が短くおまけに梅雨時の撮影だった。しかし「もうちょっと…ってところで夜が明けちゃうんだよね(笑)。確かに、雨で撮影を待つ間は辛かったけど、おかげで映像的にも濡れた夜の街に光が輝く綺麗な絵が撮れたよ」と、苦労した甲斐に満足げな和田監督だった。
 ジャズ・トランペッターの守山を演じた真田広之さんは、和田監督の長編4作全てに出演している。真田さんの魅力を「その熱心さ」と語った和田監督は、本作のオリジナル脚本を最初から真田さんを想定して書かれたそうだ。トランペットを吹き、久々のアクションもあるなど要求されるものも多かったという真田さんは、「和田監督の作品ではいろいろ宿題をいただきますが、今回のトランペットはかなり厳しかったですね。ジャズマンの話しなので、オープニングのライヴ演奏場面が嘘になってしまえば映画全体が成り立たなくなるので、かなりプレッシャーがありました」と撮影時を振返りかえる。しかしそのプレッシャーをバネに、劇中では堂々たる演奏場面を見せてくれる。また、演奏時以外も常にトランペットを持ったまま演技されているのもポイントだ。「監督のアイデアで、楽器を持ち歩いて逃亡することの不自由さが面白いアクションに繋がるのを目指そうと。そうした部分からも、キャラクターを脹らませていきました」。久々のアクションも楽しかったと語る真田さん、アンテナ・ケーブルの場面など真田さんご自身がアイデアを出した場面も多いそうだ。「アドレナリンのスイッチが入って噴出してくる感じなんですよ。やめられまへんな(笑)」。そんな真田さんから見た和田ワールドの魅力は、「いろいろなアイデアと拘りがあり、アクションにしろ、笑いにしろ大人のテイストで品がある」とのことで、今後も一緒に仕事をしていきたいとアピールした。
 國村隼さんは悪徳刑事の大場役で、和田組初参加。「とても楽しかったです。以前から、呼んで頂ければ是非ご一緒したいと思っていた和田監督なので本当に嬉しかったです。和田監督はイメージしたものを持っていて、それがきれいにキチンとはまっていくような現場でした」と喜びと感想語った。
 因みに、真田さんと國村さんが空き地で延々と走る場面や、真田さんの演奏場面など、当初カットを割ると打合せしていたものが、現場でワン・カットに変っていたことが多々あったそうだ。「騙したんですよ(笑)、本当は割るつもりだったんですが、皆さん本当にしっかり演ってくれたんで、カットと言えなかったんですよ」と答えた和田監督であったが、言葉通り結果オーライだったのか確信犯だったのかは、定かではない。でも、そんなところにも和田演出の秘密が隠されているのかも。
 さて舞台挨拶は、真田さんからのお礼の言葉で締めとなった。「大好きなジャズとアクションが満載で、素晴らしいスタッフと豪華なキャストに撮り終えられたことを本当に嬉しく思います。この場を借りて協力していただいたミュージシャンの方、スタッフの方にお礼を申し上げます。本当にこの素敵な和田ワールドを皆さんの手で広めてください」。

 なお、『真夜中まで』は、テアトル新宿、テアトル池袋にてロードショー公開中。

執筆者

宮田晴夫

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