「人がいない東京って映像にすると恐ろしく仮面的なんですよ。それをいかに具体化していくかが大変でしたね」(平山秀幸監督)。牧瀬里穂主演「ターン」の披露試写ならびに舞台挨拶が3日、ヤマハホールで行われた。同作品は先ごろのプチョン国際ファンタスティック映画祭の最優秀監督賞を受賞したばかり。原作者の北村薫をもってして“映像化しにくい”と言わしめた本作は、時の歪みに翻弄され、たった一人で同じ1日を繰り返す女性の物語。ヒロイン真希を演じた牧瀬里穂は「設定は1人なんですけど、撮影自体はスタッフがたくさんいるじゃないですか(笑)。そう思いこむように心がけましたけど」と言う。ひとりぼっちの孤独に負けず、淡々とした日々にひかりを見出そうとする真希の生き方は監督が目指した通り“気持ちがフワリと軽くなる”。生活に行き詰まりを感じている現代人必見の作品だ。

 ※10月13日、全国ワーナー・マイカル・シネマズにてロードショー






舞台挨拶には母親役の倍賞美津子、ヒロインと唯一電話でつながる青年を好演した中村勘太郎も登場。「平山監督とは20年くらい前に、彼が助監督をやっていた頃、一緒に仕事したことがあったの。実は、とある授賞式の時に話を聞いていて、そのことを思い出のだけれど(笑)」(倍賞美津子)。一方、本篇が映画初出演になる中村勘太郎。そもそも映像表現が余り好きではなかったとのこと。「でも、出演してみていろんなことを吸収できましたね。恥ずかしいので余り父親には見て欲しくないですけど(笑)」。牧瀬里穂の相手役という設定だが、電話での会話で成り立っているため一緒のシーンは実にラストぐらいだった。
「スタッフの方は車を止めたり、人が入って来ないように止めたりと、真希ひとりの世界を作るのに本当に大変だったと思います」(牧瀬)。当初は誰もいない原宿で撮影したというが「なんだか公園を歩いているようにしか見えなくて(笑)。結局その場面は全部捨てて、新宿で撮り直しました」(平山監督)。当日の会場には既に観たはずの北村薫の姿も。”魅力的な映画”とのコメントはお世辞ではなく、よっぽど気に入ったらしい。

執筆者

寺島まりこ