「MASK DE 41」プロレスから映画へ☆FMWの挑戦
独特な味わいの男達を演じ続ける田口トモロヲ。次なる彼の主演作は「MASK DE 41(マスク・ド・フォーワン)」(村本天志監督)。この映画のキーワードは「プロレス」。ある日突然のリストラ宣告を受けたサラリーマンが、夢だったプロレス団体を興すことを決意する。プロレス愛を武器に、人生に闘いを挑む主人公と、巻き込まれる家族たち。かっこ悪くて、可笑しくて、情けないけど、何故かじんわりときてしまう物語。
この映画には、プロレス団体FMW(フロンティア・マーシャルアーツ・レスリング)が、全面的に協力している。怪我による半年の欠場から復帰したばかりのエースのハヤブサ選手他、多くの選手がスクリーンに登場する。何故、プロレス団体が映画界に乗り出してきたのか。て荒井社長を始め、何人かの選手に話を聞く事が出来た。
ジャイアント馬場亡き後、プロレス界は大きく変動している。新日本と全日本の2つのメジャー団体以外に、インディーと呼ばれる50を数える団体が林立している。全日本から離脱した三沢光晴率いるプロレスリング・ノアは正統的なプロレスを、大日本プロレスは凶器を用いたデスマッチ、みちのくプロレス、大阪プロレスは地元密着型、週一回のドラマを中心に試合が進行するDDT等、各団体はそれぞれに特色を出そうと苦心している。
プロレスを取り巻く環境も、更に厳しい状況となっている。K—1、PRIDE等の格闘技が市民権を得、オーナーのマクマホン一家の愛憎劇にプロレスを絡めた展開のアメリカのWWFもCSでの放映の効果で日本でも人気を集めている。その中で「エンターテインメントプロレス」を掲げたFMWは、内部での覇権争いを軸に、数々の工夫を凝らした試合を提供している。個性的なレスラーが多く、覆面レスラー、性転換レスラー、元AV男優、なんと怨霊というホラーなレスラー等、豊富なキャラクターがプロレスを繰り広げる。だがリング外のストーリーだけではなく、彼等は命掛けのシビアな試合もしっかり見せてくれるのだ。
又、FMWはプロレスの興行だけではなく、様々な分野に進出し、健康補助食品の店舗も展開している。今回の映画への協力もその延長上にある。プロレスを中心としながらも「プロレスもエンターテインメント、会社もすべてマルチでエンターテインメントに色々な分野に」と荒井昌一社長は言う。
先日、FMWの興行の中で、映画の撮影が行われた。田口トモロヲと黒田勇樹演じる親子が、冬木弘道選手とレジー・ベネット選手の試合を観戦するという設定の場面。試合を観に来たお客様達も観客役のエキストラとして参加、撮影に一役買った。撮影後、協力したお礼にと選手のサインが配られ、皆大喜びの現場となった。今回の映画はシネマネーという映画ファンの映画へのLOVEで支えられているが、撮影現場でも、観客のプロレスへの、FMWへのLOVEが、映画を支えていた。
試合と撮影の合間に、プロレスについて、映画について荒井社長を始め、何人かの選手に話を聞く事が出来た。プロレスの中でエンターテインメントというと、ともすれば軽視されがちなイメージがあるが、皆がそれぞれに、団体の中でのポジションの違いはあれど、頑張っているのが伝わって来た。
☆荒井昌一社長に聞く
$gray– 「エンターテインメントプロレス」という事について教えて下さい。$
プロレスというものは、非常にファンだけのものというか、広がりのない部分がありました。こういう時代だからこそ、ショーに近いものとして、プロレスファン、格闘技ファンだけではなくて、より多くの人達に観てもらいたいという事で始めたのがきっかけだったんですね。
FMWという団体は、普通のプロレスでやらない事を一杯やっているんですね。プロレスの事がわからない、格闘技の事がわからない方が見に来ても、その面白さをわかっていただけるようになっているので、一度観ていただきたいと思います。
$gray– リングで、社長自らが選手に殴られたりする事がありますが。$
私はレスラーではありませんので、身体を鍛えているわけではありませんから、相当きついですよね。酷い時など、三週間位、首が回らなかったりしました。うちは一見華やかに見えますし、エンターテインメントという事で、軽く考えてこられる練習生もおられますが、あくまでも身体を鍛えて、それをぶつけるという事に関しては格闘技には変わりない。本来、基礎も出来ないうちはリングに上げられません。
$gray– 今回の映画に協力したのはどういう所からだったのでしょうか。$
プロレスというものを一般メディアに出していけるというのが、僕等の強い希望であった訳です。このお話があった時に、それがうまく合致して、やろうという事になって。
$gray– 健康商品の方もなさってますね。$
そうですね、色々な展開があります。プロレスと関連があるもので新しい事業を始めようと思って始めたんです。選手達は身体を大事にしますよね。色々なサプリメントとか飲むわけですが、そういう中で「こういうのが欲しい、こういうのがあったら」というのがあって、だったら作ってしまおうかと。私も使ってます、いいですよ(笑)。
☆元川恵美さんに聞く
$gray– プロレスラーになろうと思ったきっかけを教えて下さい。$
TVで神取忍さんを見てあこがれて、あの人みたいになろうと。中学・高校とバレーボールをやっていました。でも入門当初はきつかったですねえ。
$gray– 唯一の女子という事で、井上京子選手と他団体の選手と試合をする事が多いですね。$
たまたま今は一人なので、井上京子選手や色々な人が来て下さる。女子一人というのは大変なんですよ、試合をブッキングするのに。よっぽど私に魅力がないと「また元川とやるの?」という他団体の選手もいると思うし、自分を磨かないと。早く結果を試合で見せられるようにならないと。
$gray– 首の怪我をされているようでしたが。$
もう、怪我だらけですね。よくぞここまでという感じで。練習生の時に鎖骨を骨折して、デビュー4戦目で胸骨を骨折して、1年前に肘を脱臼して、首やって膝やって腰やって足首やって、全部一通りやりました(笑)昔、高田延彦さんが「プロレスラーは首を鍛えているので寝違えない」と言っていらしたのをどこかで読んで、その時、首を寝違えていたんですよ。「わあ、私、プロレスラーじゃないんだって」(笑)。
$gray– 元川選手の試合は、明るい雰囲気の印象が残りますが。$
神取さんにあこがれたので、ああいう試合がしたいのですが、自分では無理なので。今せっかくやりたい事やっているので、その中でやれる事をやろうと。
$gray– 映画へのご出演は初めてですか?$
初めてです。映画祭のゲストに呼んでいただいた事はあるんですが。マスクマンの役ですが、素顔のシーンがあるんです。ゲームの声優はやった事があるんですよ。それを「聞いたよ」とか、そういう事で人間関係も広がっていくし、FMWの中で、今回もこういう仕事が出来るというのは、うれしくてしょうがないんです。でも、私は今、怪我で試合が全然駄目なのに、撮影で1日潰れたりするんですよ。その時にファンの人に「映画、映画って浮かれるな」と言われないように、頑張らなくちゃいけないなと。
$gray– FMWはエンターテインメントプロレスという事を掲げておられるわけですが。$
それは話だしたら止まらなくなっちゃうんで・・どうなんだろう。エンターテインメントというと批判も多いんですが「FMW=エンターテインメント」という括りが出来ただけでも、今の路線は成功していると思っているんですよ。後は皆がどれくらい必死になるかだと思うんですよ。私はどうせ苦労するならFMWの中でしたい。FMWが好きですね。ファンの中には「元川は好きだけど、FMWは好きでない」という人もいるんです。昔が良かったという人もいる。でもFMWを面白くする事は、これから頑張れば出来る事だと思うんですよ。私は、まだまだ頑張りたいんです。
☆黒田”最高”哲広さんに聞く
$gray– 映画での役柄を教えて下さい。$
僕はダフ屋役なんです。今度東京ドームに取りに行きます。
$gray– 映画へのご出演の経験は?$
もちろん、初めてですよ。急に決まったんです。
$gray– プロレスを始めたきっかけを教えて下さい。$
TVでタイガーマスクを観た事かな。
$gray– 試合の後のマイクアピールはあらかじめ考えておくのですか?$
全部アドリブです、僕は適当です。すぐ下ネタに走りますからね(笑)。
$gray– 黒田選手のお客さんとのかけあいのうまさは定評がありますね。$
やっているうちにですね。僕はだって、最初の頃は何もしゃべらないで・・全然、客にアピールしないレスラーでしたから。今はしゃべりすぎますけど(笑)。ほとんど素の状態でやってますから。
$gray– 普段もチームの皆さんとは仲が良いのですか?$
仲はいいですよ。飲みに行ったりしますよ。プライベートではプロレスの事は考えないです。休みの時に仕事の事は考えたくないでしょう?
$gray– 「哲っちゃんカッター」等の得意技をお持ちですが。$
たまたまっすよ。ふと思いつくんですよ。「This is 哲っちゃんカッター 」はもう、今は決まったから、ああしていますけれど。たまたまですよ、あんまり考えないです。
☆大矢剛功さんに聞く
$gray– 「ステーシー」では、かなりセリフの多い役だったそうですね。$
台本をもらって吃驚しちゃいまして。だいぶ練習しました、家で。こんな多いのは初めてです。どちらかというと口下手なんで、それが心配で。マイクアピールの時は試合の興奮でしゃべるんでいいんですけれど、映画のセリフとなると、自分で作らなければならないから。でも映画の仕事は好きなんです。新日本の木村健吾さんと仲村トオルさん主演の映画に出た事もあります。今、明石に住んでいるんで、京都でも呼んでくれたら、喜んで行きますよ。
$gray– プロレスラーになりたいと思ったのは?$
アントニオ猪木さんを見てです。最初は野球選手になりたかったんですが、プロレスの方が良くなって。あの頃は面接で受かれば入れたんです。身体はボディビルやウエイトトレーニングをしてましたので、出来ていたんですよ。でも、きつかったですね。
$gray– プロレスをやっていて映画に役立つ事はありますか。$
一応、プロレスも見せる部分がいるんで。自分は時代劇が好きなので、そういうのを観て研究したりしますけど。映画の仕事は、あれば何でもやりたいです。プロレスはきついんで、役者やりたいです(笑)。あちこち痛いんで・・首を亀裂骨折していて今も痛いんですよ。
$gray– ベテランの大矢さんですが、印象に残っている選手や試合は?$
大仁田さんが引退した後の新生FMWで、ハヤブサと戦った時ですね。新日本では覆面をかぶった時、上の選手と当る機会が多くて「今までブラウン管の中で見ていた人と試合がやれるんだ」というのがうれしかったですね。猪木さんとも当ったりしましたからね。猪木さんは自分を見せるのがうまかったですね。
☆ミスター雁之助さんに聞く
$gray– ご本名で解説などされていましたね。$
はい、本田で。結局、まあ、腰を怪我して休んでいただけなんで(笑)。腰は椎間板ヘルニアで、過去の怪我でいうと、頭の先からつま先まで、全部骨折してますね。怪我は絶えないですね。
$gray– お会いする前は、大変怖い方かと思ったのですが。$
良く言われますね(笑)。回りの人を寄せ付けない雰囲気があるらしくて。だから天然でヒールなんです。
$gray– デビューして10年だそうですね。$
ハヤブサと同じ日に入門して、彼は91年の5月デビュー、僕は6月にデビューしました。良きライバルです。彼とは仲良くやるより、敵対してしのぎ合っている方が合っているかなと。大学をちょうど卒業するタイミングで新弟子の募集があって、たまたまそれを見て。就職が決まっていたんですけれど、テストに受かったので、それを蹴ってプロレスへ。親とか周りの人からは反対されました。
$gray– 厚みのある体をされていますが、元々、体格が良い方だったのですか?$
いえいえ、60kg位しかなくて。大学の時に鍛えて80kgまで増やして、入門テストを受けました。
$gray– 印象に残っている試合を教えて下さい。$
10年やってますけれど、無いですねえ。これは自分で満足した、完成されたという試合は無いですね。どんな試合であれ、いい試合はあっても、完璧な理想的な試合は無いですね。引退するまでに一回かその位ではないですかね、僕はまだ・・。
$gray– 映画へのご出演は、初めてですか。$
初めてです。大学の時に映画研究会の映画に出た事はありますけれど。お芝居とかやってみたいと思っていたので、いい機会かなと。台本をもらった時は「この位なら出来るかな」と思ったんですけれど、現場でやってみて「あれ、凄い難しいなあ、素人には出来ないな」と。でもお話が来たらやりたいですね。
$gray– 映画の体験がプロレスに役に立つと思う所はありましたか。$
うちはリングでも、マイクでアピールしたりありますんで。それはやっぱりお客さんに伝わらなければならないんで。映画もリングも似た所はありますので、勉強になりますよね。
$gray– エンターテインメントプロレスの魅力について教えて下さい。$
他にも団体は沢山ありますが、他の団体では味わえない、泣き、笑い、感動、すべて詰まっている。ぜひ一回観てもらえれば面白いと思ってもらえると思いますんで。そういうのを目指していますんで、娯楽として楽しんで下さい。
$gray– 最後に映画をご覧になる方にメッセージを。$
今回の映画もプロレスを題材にしていますが、プロレスを観た事がない人にも楽しめる映画になっていると思います。
執筆者
鈴木奈美子