氷のように燃えて、あなたを想う——。フランス公開直後、タブーを超えた性描写で賛否両論を生み出した「ロマンスX」。監督のカトリーヌ・ブレイヤは17歳で“18歳未満購読禁止”になった小説を発表、以降映画界にも進出し、誰も描けなかった女の性を剥き出しにしてきた。「わからないのは性を特殊なもののように扱うこと。男と女の出会いにセクシャルな面が絡むのは普通のことでしょ」。5月25日、青山・スパイラルホールで行われた披露試写の数時間前、ブレイヤはこのように語った。本篇に在るのは複数の男に抱かれながら、ただ一人の男を求め続ける女性の姿。心と体の矛盾に、相反するはずの猥褻さと純粋さが入り混じる。ラストシーンで主人公マリーが取った行動にあなたは何を思うのだろうか?
(撮影:中野昭次、ヘアメイク:オブヘアー)




——あなたの一貫した作品テーマは性を探ること。その希求心はどこに由来するものですか。
私自身に端を発したというよりも、社会が女性の性を抑圧したり、束縛してきたせいだと思う。小説が18歳未満購読禁止になった時、私はまだ17歳だった。本当にどこにでもいるごく普通のね。あの事件は自分自身まで禁じなければならないような衝撃をもたらしたわ。けれど、男と女の出会いにセクシャルな面が絡むのは普通のこと。おかしいなと思うのは、何故それを特殊なもののように扱わなければならないのかってことね。

——あなたの描く性には猥褻さと純粋さが同居しています。ヒロインのメチャクチャな行動にも何かを信じようとするひかりのようなものを感じるのですが。
例えばカメラが女優の顔を写し出す時。エクスタシーに至る表情は淫らに捉えられるかもしれないけれど、そのタブーを通過してしまうと天使のように見えてくる。ものすごく個人的な、内面の真実がそこにはあるの。これは猥褻だ、これは淫らだと決めつけず、勇気を持って通り越す。そこには限りなくピュアなものが隠されているのよ。

——女性監督が描く赤裸々な性表現が解禁され始めた気がします。「ベーゼ・モア」のデパント&トラン・ティ監督や「ポエトリー、セックス」のサマンサ・ラング監督などをどう思いますか。
私は常に自分がチーフでありたいので、そういう監督たちが私の後をついてくればいいなと思うわ(笑)。女性の性を描いたのは多分、私が一番最初。でも、映画のテーマというより表現の仕方、スタイルこそが自分の個性。どの表現も突き詰めていった結果、必然的に生じたのよ。





——やむなくカットしたシーンはありますか。
たくさんあったわ。自主規制という意味ではなく、全てつなげてみたら2時間40分にもなってしまったから(本篇は1時間35分)。どんなに美しいシーンであっても切り始めたのなら、中途半端にやめることは出来なくなる。美しいドレスを切り裂いて、丈をつめるのと一緒でね。惜しいなと思った場面もあったからそれはいつか別の作品で使いたいと思うの。

——それはどんなシーンでしたか。
マリーとポールが旅に出るシーンを撮ったわ。真っ白な部屋からは塔が見えて、照明も鮮やか、絵的にも優れていたと思う。ただ、その場面はリズムがゆったりしたものだったので観客は飽きてしまうんじゃないかと思ったの。マリーが朝食の後に泣き出し、苦しみを吐露する場面もあったけれどそれもカットしたわ。

——映画を見たある日本人男性は“ちょっと苦手かも”と言いました。男性の視点では受け入れにくいものがあるのでは。
多分、これは男の人の方が辛い気分になる映画だと思うのね。フランスの男性も反応は似たようなものだと思う。ただ、好きとか嫌いのレベルとはちょっと違う問題のような気がするけれど。苦手だと思うのは痛みを伴うから。触られたくない傷があるからだと思うの。 
映画の判断で最も重要なことは言い古された表現ばかりを見せられたのか、それとも全く新しいものを見せられたのか。後者ならば成功ね。観た人の感情を揺り動かす何かがあるかどうかが、私にとって大事なこと。

執筆者

寺島まりこ

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作品紹介
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