1976年に北イタリアの街セベソで起きた化学工場爆発事故によるダイオキシン禍を題材に、事件を調べる少年・少女探偵団を通し、今現在の我々が直面している地球環境問題と未来への提言を真摯に描いた長編アニメーション『いのちの地球/ダイオキシンの夏』がいよいよ完成、5月26日徳間ホールにて披露試写会が開催された。上映に先だって、9名の作品の関係者が舞台に立ち、8月の一般公開を前に、完成した作品への思いを語った。













桂荘三郎さん(プロデューサー)——難しいテーマの作品ですので、製作に当たっては二つの点を常に考えました。一つは、76年のイタリアの物語ではあるが、今日そしてこれから先の未来も見据えて描いていくと言うこと。そしてもう1点は、地球を再生していくのは子供たちだということです。この二点を常に考え、物語や脚本を練り上げ完成させたものです。

蓮見けいさん(原作者)——本とは異なり映像は、子供だけでなく大人にも直接語りかけるメディアだと思っているので、今回アニメ化されたことは嬉しく、またこの作品を通じて皆さんがこの問題について考えてもらえればいいと思います。

中下裕子さん(環境ホルモン対策国民会議事務局長)——ダイオキシンのみならず多くの科学物質が放出されている現在、科学物質と私たちの関わりを、自分たちの利便性だけではなく抜本的に考えるべき現在、この作品の中の子供たちの、知性と勇気と行動力を大人たちも学んでいくべきだと思います。

出崎哲さん(監督)——化学物質にしろ、環境問題にしろ、勉強すればするほどとんでもない状況になっているのは事実です。20世紀に生まれてしまったどうしようもないものたちと、つきあっていかねばならない人間はどうすればいいか、悲観主義になりすぎてもだめだし、楽観主義だけでもとんでもないことになる。この映画は、子供たちがこういう対応を取ったということを例にして、今後を考える上で役に立っていただけるのなら本望です。

佐久間信子さん(ジュリア役)——今回が二度目のアフレコですが、ベテランの皆さんに囲まれて演じたことはとても勉強になりました。最後の方で、セリフを叫びながら、シーンがポンポンと変わっていくところがすごく難しかったです。ダイオキシンに関しては、学校で習った時には遠い世界の出来事のように思えたのですが、ジュリア役を演じてみて本当の怖さがわかりました。

陣内絵里奈さん(主題歌)——主題歌の“リーインカーネーション”を歌っています。この映画をいろんな人に見てもらいたいし、歌も色々なところで歌っていきたいと思います。

四分一節子さん(絵コンテ・キャラクターデザイン・監督補)——作品のコンテを描く前に、イタリアのセベソに単独で行ってきました。作品の中にも出てくるA地区は、一度地面の土をはがして現在では緑豊かな公園になっていますが、警察により管理されていて、週末以外は一般に開放されていません。それが何か恐ろしい感じがし、そこが本当に開放されるのはいつになるのだろうかと感じました。

小出一巳さん(脚本)——ダイオキシンという言葉が日常的なものになりながら、その実態はあまり知られていないし、今回脚本を書くに当たり勉強しながら、自分も本当のことを知らなかったなぁと痛感しました。そうして知った知識を、映画の中に入れさせていただいたつもりです。脚本を書くに当たり、ただ単に過去の事件とダイオキシンの恐ろしさを描くのではなく、21世紀を迎えるに当たって私たちがどんなことを考えていけばよいのか、地球とは生命とは何かを、主人公の少年・少女探偵団と一緒に考えていってもらえればいいと思っています。

長谷川智樹さん(音楽)——先程佐久間さんがおっしゃったあたりですが、「自分たちのしたことが、自分に帰ってくるのではないか」という台詞が出てきますが、僕もそれと同じ思いを“リーインカーネーション”という曲にこめました。成長すると言うことが失敗を繰り返すことだとすれば、ダイオキシンという言葉は科学物質の名前ではなく、人間が犯してきた失敗のことをあらわしているのだと思います。

なお、この作品はは8月18日からシネ・リーブル池袋でのロードショー公開を皮切りに、共同映画系/全国映画センターによる配給により、全国各地での上映が予定されている。

執筆者

宮田 晴夫

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作品紹介
『いのちの地球/ダイオキシンの夏』製作発表記者会見