“次々と災難が降りかかる主人公”とは昨今流行りの設定であるが、単なるドタバタに終始する作品も少なくない。そうしたなか、オーストラリア映画「サイアム・サンセット」は色職人というロマンティックな符号を乗せ、色探しと自分探しを重ね合わせ、この種の物語と一線を画している。本作品が長編デビューのジョン・ポルソンは「M:I‐2」でトム・クルーズの相棒を演じるなど、出自は役者畑にある。演出の際、「監督としてでなく、いち俳優として接するように心がけた」というポルソン。タイの夕陽の色“サイアム・サンセット”、映画の原題そのまま、情熱とエネルギーに溢れる人柄が印象に残った。
※本作品はゆうばり国際映画祭2001ヤングコンペ部門で南俊子賞を受賞。




——主人公ペリーは塗料会社に勤める色職人です。映画に登場する職業としては、今までありそうでなかった設定ですね。
何よりもそれが狙いだったんだよ。聞いたことのない職種を選びたかった。色職人というのはサイエンティックでロマンティックな感じがしないかい?もちろん、ぴったりの色を作り上げるのは大変な作業だったけれど。

——“サイアム・サンセット”という色を作るまでにどのようなアプローチをされたのでしょうか。
舞台は途中から砂漠に入ってしまうから、色のイメージが平坦になりがちだろう。でも、僕らは観客をがっかりさせないような色を作らなくちゃならなかったから、たくさんの専門家と話をして主人公さながら“サイアム・サンセット”を探した。結果にはとても満足しているよ。撮影では、よりよく見せるために、ガラスのボールを作って色を反射させた。受け身な印象を与えたくなかったから、後光が差すようにトリックを使ったんだ。

——ペリーの奥さんは空から落ちてきた冷蔵庫に押し潰されてしまいます。考えたくもないシチュエーションですが、どうしてこれを選んだんですか。
冷蔵庫で何をイメージするかな?それは誰でも持っているものだし、愛する2人が生活をスタートするのに欠かせないものでもある。一種、ハッピーライフの象徴なのさ。
そんな象徴が落ちてきて、一瞬のうちに幸せが終わる。ブラックユーモアだよね。





——ペリーが出会う不思議な女性、グレースの配役は難航したとか。最終的にダニエル・コーマックを起用した理由は。
最良のキャスティングはその人が部屋に入ってくると同時にわかる。ペリーを演じたライナス・ローチもすぐピンと来たしね。映画を作るビジョンさえはっきりしていれば直感が働くものなんだ。けれどグレースの役だけはどんな女優を見てもわからなかった。もうオーストラリアでは探せないと思い、プロデューサーに頼んでニュージーランドに飛んだ。撮影の2週間前だったんだけどね(笑)。その甲斐あってコーマックを見つけた。コーマックが部屋に入るなり、すぐにわかったのさ(笑)。

——俳優のあなたが撮る側に回ったのはどうしてですか。
俳優の仕事は今後も続けていくつもりだけど、映画全体においてはやっぱり一部分に過ぎない。自分のパートが終了したら、後は他の人に任せるだけ、やれることといったらうまくいくように祈ることしかできない。僕は音楽からポスターから、映画の流れ全体に関わりたかったんだ。

——俳優視点で見たいい俳優、監督視点で見たいい俳優を教えてください。
俳優から見たいいアクターとはいいリスナーのことだよね。撮影がうまく行かない時も一方的に文句を言うんじゃなく、まず聞いて、それから話し合うスタンスが大切だと思う。監督としてのいい俳優とは誠実な人柄。今回のライナス・ローチみたいな人間さ。予算の関係で彼のトレーラーはすごく狭かったんだけど、他の俳優にもどんどん使わせていたんだ。自分の持ってるものを惜しみなく人に与えることができる、素晴らしい人間だったよ。

執筆者

寺島まりこ