フランス映画史上前代未聞の上映禁止処分を受け、ゴダールらが抗議運動を起こした「ベーゼ・モア」。“ファック・ミー”の意を持つ同作品は互いに人を殺し、運命的に出会ってしまったガールズ・バイオレンス・ムービーだ。この問題作はゴールデンウィーク、シネマライズにお目見えするが、さる2月9日には恵比寿みるくに、ヴィルジニ—・デパント&コラリー・トラン・ティ監督が登場。かたや10代で家出、万引き、不法侵入などを繰り返し、本編の原作「バカなヤツらは皆殺し」を執筆したデパント、かたや元ポルノ女優のトラン・ティ。映画のヒロイン同様、パンクな匂いを漂わせ、煙草の煙を漂わせ、会見はスタートしました。




ーー原作と違う点も幾つかありますね。喫茶店で子供を殺すシーンはカットされていますし・・・。
デパント 子供殺しのシーンを省いたのはキャスティングの問題ね。原作では3−4歳の役柄だけど、その年齢ではこの映画に出る意思決定が出来ないでしょ。死体の数が小説よりも少なくなっているのは単純に予算の問題。小説を書くのにお金は掛からないけど、映画を撮るにはお金が掛かるのよ。

ーー劇中でギャスパー・ノエ作品が使われていますが。
デパント ノエからは撮影に入る前、撮影中、編集中と幾つか助言をもらっているの。たとえば、自分の作品に同情は禁物だとかね。
トラン・ティ ノエとは97年に「SODMITES」(日本未公開)で仕事をして、それからの付き合いになるわ。バイオレンスのシーンは自然光で撮った方がいいとか、技術的なアドバイスももらったわ。

ーー監督、脚本業を2人で。喧嘩になったことはなかったんですか。
デパント、トラン・ティ (顔を見合せて笑い)シリアスな状況になることは殆どなかったわ。勿論、意見の食い違いはあったけれど大声で叫ぶ合う状況にはならなかった。




ーー上映禁止の抗議運動にゴダールも署名したと聞きました。彼のコメントをご存知ですか。
デパント ゴダールが嘆願書に署名したのは「ベーゼ・モア」を支援したのではなく、上映禁止の抗議運動を支持したのだと思う。多分、彼自身はこの映画を観ていないだろうし、観ていたとしても好きではないのでは・・・。でも、こうした運動に参加してくれたことで十分、嬉しいわ。

ーーフランスにはセックスシーンで本番を使うカトリーヌ・ブレイヤー監督もいますが。
デパント 彼女の場合は知的でアーティスティックな映画人として認識されてるわ。そういう人たちに対して検閲は敏感じゃないもの。

ーーあなたはそう認識されていないと。
デパント 自分でどう思うかはともかく、そう思っている人のほうが多いんじゃないのかしら。映画は簡単に撮れてしまうものではいけない、みたいな風潮があるから、デジタルカメラで撮影した「ベーゼ・モア」のような作品は余計に排除したくなるのね。

抗議運動が功を奏してか、「ベーゼ・モア」は2月初旬に本国でビデオ化決定。公開もまもなくではとはデパント監督の談。「もし、こんな大騒ぎになるとわかっていたら映画を撮らなかった」とも。終始クールな2人だったが、この夜、同じ場所で行われた「ベーゼ・モア」トークバトルでは観ている方が冷や汗の質問も。ともあれ、怪しげなみるくのライティングがよく似合う2人でした。

執筆者

寺島まりこ