20歳だろうと30歳だろうと40歳だろうと愛が欲しいのが人間。70歳とて同じである。今までタブー視されてきた老人の性愛を静かに謳いあげ、各国の映画祭で絶賛された「もういちど」。本国オーストラリアでも大ヒットを記録したが、当のポール・コックス監督は困惑気味。「ラスベガスの映画祭に招待され、監督賞を取ってしまった。悪趣味の街だと思っていただけにショックが大きい」と真顔で語る徹底したメジャー嫌いだ。ハリウッド映画人を“アホども”呼ばわりする潔さはむしろ好感が持てるか!?過激な発言の割に立ち居振舞い、声のトーンは紳士的なコックス監督。「愛に比べれば他のことなんてゴミ同然」と言われれば頷きたくもなる。25日にオーストラリア大使館で行われた会見を中継しよう。
(※「もういちど」はシネスィッチ銀座、関内アカデミーほかで陽春ロードショーの予定)





——「もういちど」製作のきっかけは。
ポール・コックス(以下P)パリに行ったとき、年配のカップルが手をつないで横断歩道を渡っていた。その光景がずっと残っていたんだ。まぁ、1年間くらいアイディアがあって、ある日突然ほとばしるように涌き出てきた。何かに対して関心や疑問を抱くと、答えを見つけ出そうと目に映る全てのものがゴールにアジャストされる。脚本は3週間で書き上げたが、この期間は自分でもコントロールできないほど言葉が溢れてくる。それを過ぎると、今度は予算集めやらの退屈な作業が待っているんだ(笑)。

——老女クレアを演じたジュリア・ブレイクが素晴らしいですね。
 脚本はジュリアを念頭において書いた。これまでの作品にもちょっとした役で登場してもらっていたんだ。自分の意見をきちんと持っている女性だから、(オーストラリアの)映画人のなかにはジュリアを避ける監督もいる。でも僕にとっては最高の役者だ。
日本の観客は「もういちど」で彼女を初めて知る人が殆どだろうが、その方が却っていい。は先入観なしで観た方がクレアの存在感をよりリアルに感じられるのでは。

——ポール・ニューマン夫妻も出たがっていたと聞きましたが。
P 彼らが脚本を読んだのか、どうかは実のところわからない。ある日、電話がかかってきてハリウッドで撮らないかと言われたんだよ。ポール・ニューマン夫妻も興味を持っているからって。悪いけど、彼らが携わってしまったら全く別の作品になっていたよ。スターだからという理由で作品を撮るのは映画を作っている人への冒涜だと考えるね。




——徹底したアンチ商業主義ですね。
P どこかのアホどもがスターという人種に1500万ドルだか2000万ドルだかのギャラを払うなんて考えられないことだよ。発展途上国の状況が改善されるに足るだけの金額だろう。映画一本のためにそれだけ使うなんて許しがたい気がするよ。

——ヒットしてショックだったのは商業映画にカテゴライズされた気がするためですか?
P 「もういちど」は商業映画の方程式には当てはまらない。奇想天外な理想論ではなくて、普通の人々の生活を撮っただけ。なのにラスベガスの映画祭で賞を取るとは皮肉なもんだよね。自分では何年も同じスタンスでやってきて、この作品でもまだ監督としてのギャラを払えてないような状態なのに、突然、映画産業の真っ只中に置かれた気がするんだよ。

——観客に伝えたいメッセージは?
P 僕としては高齢者の恋愛を描いたつもりはない。若い人たちにも十分応用できるラブストーリーだ。人生に一番大切なものは愛だと思うし、他のことがらは愛に比べればゴミも同然だよ。

執筆者

寺島まりこ