映画がそんなに好きなのか!?ジョン・ウォーターズ・マニアなら迷わずイエスと答えるでしょう。自身の化身にして憧れ、フィルムテロリストこと“セシル・B・ディメンテッド”の恐るべく武勇伝「セシル・B・ザ・シネマ・ウォーズ」が爽春、シネ・アミューズほかで公開されます。これに先駆け来日したウォーターズ監督、1月23日は京橋の映画美学校に出陣いたしました。いち早くの新作鑑賞&監督自らの映画指南とラッキーな講義を手にした生徒たちは興奮と緊張の葛藤のさ中。おずおずと投げかけられた質問にも優しく答え、ブラックな笑いとともに締めくくります。「情熱だけで映画はできますよ。それでなくともしょうもない映画が多いんだから。皆が情熱を持って撮るようなことになればすっごい事になるでしょうよ」。新作の舞台裏から「ピンク・フラミンゴ」のアノ話までとくとご覧頂きましょう。



「今日は皆さん、『セシル・B・ザ・シネマ・ウォーズ』をフィルムテロリストとして観てくれてありがとう。長年、私の悪趣味を気に入ってくれてありがとう」。映画美学校の特別講師(ホントにスペシャルだ!)として招かれたウォーターズは口髭にロングジャケット、グラビアでお馴染みのスタイル。ハリウッドの大物女優を誘拐してまで映画を撮るセシル・B(スティーヴン・ドーフ)は「どんな作品もそうですけど、私は非ヒーローがヒーローなんですね。普段だったら悪人扱いされてしまいそうな人物を観客に好きになってもらう、共感してもらう」。
セシル・Bを筆頭にしたフィルムテロリスト軍団<スプロケット・ホールズ>。彼らの腕にタトゥーあり。サミュエル・フラー、ライナー・ウェルナー・ファスビンダー、ペドロ・アルモドヴァル、デヴィッド・リンチ…それも愛すべき監督名の。セシルの刺青はオットー・プレミンジャーだった。「業界では有名な話なんですが、プレミンジャーは悪名高いイジワル監督。セシル・Bがまさにそうですね。誘拐された女優がそのタトゥーを見たらまさにショックのダメ押し」。誘拐されたワガママ女優をメラニー・グリフィスが怪演する。最後は映画のため頭に火をつけるまでになってしまう。「『ピンク・フラミンゴ』の時にあのアイディアはあったんですよ。ミンクストールの髪を燃やしたかったんだけど断られてしまった」。


「ピンク〜」の話が出たところで進行の今野雄二氏がクエスチョン。「ずっと気になってたんですが、ディヴァインはホントに犬のウンチを食べたんですか」。ウォーターズ監督にやりと笑って(ような気がした)、「30年間語り続けましたけどもう1回だけお話しましょう。……ダメもとで聞いたんですよ。“犬のウンチ食べてくれる?”って。そしたら、“いいわよ”って。浣腸までして、犬に脱糞させたのにモノが小さかった。ディヴァインは“小さいけどいいの?”って。“構わないから食べろ”って言ったら食べちゃった。カットした後、俺はホントに気違いだって思った(笑)。この先、あれ以上のものを撮ろうとは思わない。それをやったらキャリアの自殺行為でしょう(笑)」。
セシル・B・ディメンテッドいわく“スタイルの失敗こそテクニックだ”。「『ピンク〜』はまさにそういう状態でした。そもそもスタイルというものが何かわかっていなくて、半分ドキュメンタリーみたいな感じ。それがリアルだったんじゃないかな」。
ボルティモア出身のウォーターズは故郷を撮る。生徒から“バリー・レビンソンもそうですが、この土地には映画監督が育ちやすい土壌のようなものがあるのか”との質問もあった。「作品としては全く違うタイプだけど似たアィディアを使っているとは思いますね。あの町のアウトサイダーを撮ってるという意味で」。故郷に帰ると見知らぬ人から“やぁ、バリーさん!”と声を掛けられることがしばしばあるとか。「仕方ないから“ハーイ!”って返しますよ。ボルティモアの人にとっては監督みんなが同じに見えるらしいんだ(笑)」。

執筆者

寺島まりこ