ジェイムズ・キャメロン監督、ウォシャウスキー兄弟などハリウッドを代表するクリエイターたちにも、常にその作品が絶大な影響を与えている押井守監督の5年ぶりの最新作『アヴァロン』。セピア・カラーで描かれる東欧風でレトロな近未来世界での、ヴァーチャル・リアリティ・ゲームを題材とし、東京国際映画祭でも好評のうちに上映されたこの作品が、1月20日よりいよいよ全国ロードショー公開となりました。
 公開初日である20日、上映劇場中の渋谷東急では、初回上映に続き押井守監督と監督の盟友であり音楽担当の川井憲次氏が来場し舞台挨拶が行われました。この日は徹夜組も含む多くのファンが劇場に詰めかけ、劇場も当初予定されていた渋谷東急3からよりキャパシティの大きい渋谷東急1に変更される盛況ぶりでした。「モーニング娘か押井守か」という冗談も出るくらい、会場の客層は若い男性層の割合が高く、また押井監督の凝った絵作りとテーマ性に魅せられたコアなファン風の方々故の熱気が溢れていました。





 ポーランドでのオール・ロケが敢行され、多くのポーランド人スタッフ・キャストの参加によって完成された日本映画『アヴァロン』。高度なデジタル映像が用いられながら、重厚に描かれたその作品世界は、まさにポーランドの歴史そのものだとポーランド大使館による後援も決定したというニュースが披露されたのに続き、押井守監督と川井憲次氏が舞台に登場。まず、押井監督が「本来は、僕の隣にヒロインのアッシュがいてくれるはずだったのですが、あまり美しくないオヤジ二人ですいません(笑)」と笑いをとりつつ、「とりあえず初日が来て、ほっとしたところです。」と、構想から10年以上をかけた作品が公開と言う節目を迎えた充足感が感じられる挨拶を行いました。音楽担当の川井氏も、この作品に最初に招かれたのは一昨年のこととのこと。音楽自体は昨年の3月には最終ビングをすませていたので「熟成が進んでしまったのではないかと思っていますが(笑)、今日初日を迎えられたことはとても嬉しいです」と挨拶しました。続いて、作品に関しての質疑が行われました。

−−押井守監督(以下押井)にとって、デジタル・ポストプロダクションの大変さはどうでしたか。やってよかったですか?やらなければよかったですか?

押井「多分、やらなければよかったんでしょう(笑)。撮影している時よりも、精神的には疲れましたね。こういう作り方をやろうと言い出したのは自分自身なので、逃げるわけには行かなかった…というか逃げかけたんですがね。半分やめときゃよかったという気持と、今はやってよかった…という気持とで、映画って大体そういうものなんですが。苦労と言えば苦労なんですけど、一番の苦労はコンピューターの前にずっと坐ってなければならない、と言うことじゃないですかね。映画って撮っているときは色々なことを考えるのですが、公開と言う風呂敷を閉じる段階になったら怖くなってくるんです。」




−−美しい女性もいますが、9割は男性という感じですね

押井「因みにこの作品の試写を韓国で行った際には半分くらいが女の方で、女性のファンがいることが判り安心しました(笑)。次からは、彼女のいる方は是非彼女を連れて、何度も足を運んでくれたら嬉しいですね。」

−−川井憲次さん(以下川井)にとっては、押井監督とのコンビは相当長い期間になりますが、今回は何か特別な注文があったのでしょうか。おどろおどろしくも格調高く、重厚でクラッシックな感じですが、そうして欲しいというのは前々からあったのでしょうか?

川井「とりあえず、ヨーロッパ風サウンド的な音と言われ、作曲に入りました。未だ絵が何も出来上がっていない時で、何をつくったらいいのかとずっと煮詰まっていましたが…(笑)」

−−怖くて食欲が無くなるほど(笑)重厚な音楽になっていますが、そのあたりは押井監督からも要望されたのでしょうか?

押井「今となっては何を伝えたかよく覚えてないのですけど、川井君のこれまでの音楽とは作り方が全然違いますから、さぞかし大変だったろうと思います。聴かれた方は判るだろうと思いますが、オーケストラを使っているのですが、結局いつもの川井君の音楽だったあという、それが凄く大事だと思いました。オーケストラであるにも関わらず、テンポが微動もしない。勿論、後から色々な事をやっているのですが、やはり川井君は川井君なんだとあらためて思いました。僕も今回のテーマ曲が非常に気にいっています。あれがなかったら、映画を作ろうという気持が萎えたかもしれませんし、ワルシャワであの曲を聴いた時に、この映画がほぼ決まったような印象というか記憶があります。やはり、映画にとって音楽はとても大事だと思います。」

−−川井さんにとって、監督として組まれた押井監督の仕事は、やりやすいですか?

川井「やりやすいです。特に最初の頃は、何も言わずに自由に作らせてくれますから。最後の方では、あれやこれやと出てきますがね(笑)。」







−−次の仕事の予定はどうでしょう?(客席からも、「監督『G.R.M.』はどうなったんです?」と期待のこもった声があがります)

押井「『G.R.M.』に関しては、僕は全然諦めてないですよ。死ぬまでに必ずやりますから(笑)。ただドエライお金がかかるので、コンピュータのスペックが上がりコストが相対的に下がってくればチャレンジの可能性は増えると思います。あれ以上のお話しを僕は一生思いつかないと思いますし、僕にとってはそういう作品です。僕は執念深い男なんですよ。この『アヴァロン』も14・5年前に思いついた話ですし、7・8年とか10年経ってやったという話はゴロゴロありますから。『G.R.M.』というタイトルのままかは判らないけど、あの話は必ずやります。
ただ次は、僕もアニメの現場を離れて久しいので、そろそろ帰らないと追い出されそうなので、プロダクションIGという所に5年ぶりに戻って、次の作品の準備を始めたところです。アニメをやりますけど、『アヴァロン』同様まともなアニメーションにはならないかもしれない。『アヴァロン』は実写をベースにアニメを創ろうと思ったんですけど、次は反対を考えていまして、3年後くらいにはかけられると思います。」

実写映像のアニメ化に続き、次回作はアニメーションの実写化アプローチと、これまで異なるジャンルと考えられていた二つの手法を、映画という一つの枠内で融合させようという押井監督の試みが次作でまたどのような映像を見せてくれるのか、早くも3年後が待ち遠しいですね。なお、舞台挨拶ではふれられませんでしたが、舞台挨拶前に行われた囲み取材でのお話しによりますと、川井憲次氏の次回作は『パトレイバー3』で、現段階では未だ絵も上がっていないとのことですが、春頃から作業に入るそうです。こちらも、期待しましょう。
なお、『アヴァロン』は日本のみならず、世界各国での公開が既に決定しており、その第1弾として韓国での公開が2月3日よりスタートします。これを記念して、渋谷東急3ではこの日の最終回上映後押井監督、ビジュアルエフェクトスーパーバイザー古賀信明氏、デジタルアートディレクター林弘行氏を招いてのスペシャルトークショーが開催され、現地の情報やメイキング、撮影裏話などが披露されるそうですので、映画ファンの皆さんはこちらもお楽しみに!

執筆者

HARUO MIYATA

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