助平?年のわりにはというのが余計だよ(笑)(今村監督) 『赤い橋の下のぬるい水』初日舞台挨拶開催される
日本映画界を代表する巨匠、今村昌平監督の19本目の監督作品となる『赤い橋の下のぬるい水』が11月3日に初日を迎えた。これまでもカンヌ映画祭で、『楢山節考』『うなぎ』と二度のパルムドールを受賞している今村監督だが、本作もまた今年の第54回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門のトリを飾る作品として上映され、会場を埋め尽くした3000人の観客から15分にも及ぶスタンディング・オベイションが贈られ、その瑞々しい映画つくりは海外のマスコミからも絶賛されたことは記憶に新しい。
上映劇場中、丸の内シャンゼリゼでは初回上映開始前に、今村監督をはじめ出演者の役所公司さん、清水美砂さん、倍賞美津子さん、北村有起哉さんが来場し、立ち見も出る盛況の中初日舞台挨拶が行われた。
本作は辺見庸氏の同名小説及び短編『くずきり』をベースに、富山県氷見の漁港に流れ着いた男と、そこで出会った不思議な女との関係を描いた愛のファンタジー作品。リストラされ氷見に流れ着いた男・笹野陽介を演じているのは、『うなぎ』でも今村監督と組んでいる役所広司さんだ。初日に足を運んでくれた多くの観客に向け御礼をの言葉を述べたのに続き「今回の映画は、今村監督が水の豊かさを描かれていて、その水が生きるもの全てに力を与えていくというテーマも盛り込まれていますが、基本的には人間の可笑し味が描かれたコメディとして、肩の力を抜いて楽しんでください」と挨拶した。漁港が舞台ということで、網を引いたり走ったりと体力を使う撮影が多かったが、「俳優の運動は肉体労働ですから」と涼しげに答えた役所さん、むしろ撮影に関しては“水”が出るシーンは技術的な面で何度もテイクをやり直したとか。
「たくさんお水を出しましたサエコを演じました」と挨拶したのは清水美砂さん。役所さんと同様『うなぎ』に続いての今村作品出演だ。役所さんから「『うなぎ』の頃に比べて結婚されて、すっかり貫禄がつきましたね」と言われた清水さんは、この作品の撮影中は妊娠されていてそのお腹を隠すのが大変だったと、笑いながら撮影現場をふりかえると「この作品は、とても滑稽でヒューマン、人間の奥深さを物語っている映画だと思います。監督はじめスタッフ・キャストが一丸となって頑張った作品ですので、笑って色々な思いを感じていただけると嬉しいです」と語った。
橋のたもとの家にサエコと暮らすミツ役で、初めての本格的な老け役を演じているのが倍賞美津子さん。台詞の少ない難しい役どころだが、「それがよかったです」と軽やかに答える。今村監督との仕事は、この作品で6作目となりすっかり今村組の顔といった存在だ。「内容は皆さん見ていただければ、いろいろ判ると思いますので以上です(笑)」。
地元の漁師・新太郎を演じているのは北村有起哉さん。本作には、実父である北村和夫さんも出演されている。「丁度1年位前に富山の氷見の漁村のロケ地で、たっぷり充実した時間を過ごしました。今村監督の時間をかけた贅沢な映画作りを感じていただければと思っています」と挨拶しました。
人に進められるまで原作の小説を読んだことはなかったという今村監督だが、一読してその面白さと艶っぽさに惹かれたそうだ。自作に関して、エロを望むのは大間違いだが、そこはかとなく艶っぽさが漂う作品になったという。「ある新聞を読みましたら、年のワリには助平だと私のことを表してまして、年のワリに…ってところが気に入らないですね。昔と同じようにといってもらいたい。助平だというのは、ある種誇らしいものでありまして、嬉しいくらいです」と話した今村監督、そこにはまさに生の歓びとしてのエロスを描きつづける監督の健康的で若々しい感性がいつまでも満ち溢れている様が、強く感じられるもので、観客からも大きな拍手と歓声が寄せられた。
なお、『赤い橋の下のぬるい水』は、渋谷東急3、丸の内シャンゼリゼほか松竹・東急系にてロードショー公開中。
執筆者
宮田晴夫