デビュー作「この窓は君のもの」から7年。俊英・古厩智之監督が遂に第2作目を完成した。「まぶだち」と名付けられた本篇は、ロッテルダム国際映画祭でグランプリにあたるタイガーアワードと国際批評家連盟賞をW受賞。監督自身の記憶にあった“どうしたらいいのか、わからなかった中学時代”がベースになっている。「だからってノスタルジーはないです。戻りたいとは絶対に思えない(笑)」と言う。映画の軸となる中学生3人のうち、2人は舞台となった長野県に住む普通の中学生。夏休み中のある日、上京した高橋亮輔くん、中島裕太くんと、神奈川県在住の沖津和くん、古厩監督を独占インタビューした。
※「まぶだち」は11月中旬、ロードショー!!





「まぶだち」。“こんなタイトルで映画を撮れるのは俺だけ!”。言葉の持つダサさ、嘘っぽさが気に入り、迷いなく付けたという古厩監督。この言葉を最後に聞いたのはいつだったか。

——「まぶだち」ってどういう意味か、知ってる?
沖津 知ってます。
中島 うーん。
高橋 知りません。
古厩監督 俺、最初に説明したの、覚えてるだろ。
高橋 いや、あったのは覚えてます。でも、忘れちゃった。 
古厩監督 ……(笑)。「まぶだち」っていうのは、親友って意味。でも、「俺、親友いてさ」なんて、あんまり言わないじゃん。それと同じように、恥ずかしくてなんとなく口に出せないような言葉。
——これって、監督の実体験だそうですが。
古厩監督 先生に“お前らを3つに分けてる”って常々言われてたんですよ。“クズ”、“優等生”、“不良”とね、僕はクズって呼ばれてたんです。劇中に出てくるようなグラフはなかったんですけど、状況背景は自分の中学時代がもとになっていますね。
——実体験ながら、ノスタルジーはない、と。
古厩監督 戻りたいとは絶対に思えないんです。十全な中学時代を過ごしたとは全く思っていない。当時の僕が欲しかったもの、また、感じていたこと——本当の友人関係であったりとか、実感の持てない社会みたいなものであったりとか、大人達のなかでどうやって生きていけばいいのか、とか。そんなことを念頭に置いて撮影しました。

ロケは長野県の飯山市、昨年の夏休みに合宿して行われた。主人公のサダトモは既に芸歴のあった沖津和くん。同級生役は地元中学生の高橋亮輔くんに中島裕太くん。「まぶだち」製作部は地元新聞に出演募集の記事を出し、また、撮影に使われた木島平中学校でオーディションのビラを配っていた。

——中島君はビラ持って、監督のところに行ったって?映画に興味あったんだ。
中島 うん、ちょっと。オーディションの日が、いつだったかは…忘れたけど、決まってて。受けに行きました。
古厩監督 周二の役が決まってなくて。もう、現地で探さないと間に合わないっていう状況だったんですよ。中学校でビラ配ってると、女子生徒が集まってくるじゃないですか。で、聞いてみたんですよ。「この学校で一番かわいい男の子は誰かな」って。そうしたら、皆が「ユッタ、ユッタ」って言ってたんですよ(笑)。中島くんを見て、彼のことだとすぐわかった。




——主人公のサダトモを演じた沖津くん。自分と似てるところはあった?
沖津 自分と似てるようなところもあれば、違うところもあって。
——例えば?
沖津 そう言われると、あまり思い出せないんですけど…。
池に石を投げるシーンを演じるのが、難しかった。その時の気持ちはわかったんですけど、なんでこんなこと、やるんだろうって。
——監督に聞きましょう。現場でもそんな質問がよく出たんですか。“なんでこんなことするのか、わからない”って。
古厩監督 ありましたよ(笑)。最初はね、一生懸命説明したんです。でも、今、質問してても“わからない”って言うじゃないですか(笑)。わかんないんですよ、もう。俺らが思うよりも、まだ、こう……現在を生きているというのか、時間の流れが違うんですよ。説明して“わかりました”って言って、カメラ位置変えますよね。準備できて“さあ、やるぞ”って言うと忘れてるんですよ(笑)。本当に忘れてんですよ。
——で、撮影やり直し、ですか。
古厩監督 ただ、理屈はわかんないんですけど、ものすごくリアルにその時を生きることができるんですよね。こうやって終わって、話をしていると愕然としてしまうんですよ(笑)。
——理論で語れない、本質的な希求なんでしょうね。で、キャストから見た現場はどうだったんでしょうね。監督は怖くなかった?
沖津 いえ。
——合宿で家に帰りたくなったことは?
高橋 ないです。
古厩監督 そんなことないだろう、撮影の時、父ちゃんとか母ちゃんとか会いに来て…。
高橋 いや、父ちゃんじゃないです。
古厩監督 婆ちゃんか。
高橋 爺さんです。
古厩監督 帰りたいとか思ったんじゃないの。
高橋 いや、べつに(笑)。それは平気でした。





——親友の飛び降りを目撃したサダトモですが、先生に尋ねられ、「事故だった」と言います。先生に対する気遣いだったのか、目撃したものを信じたくなかったのか…。
古厩監督 それは観た人に考えていただければ…。あの時、他に何をいうことができるか、ああ言われたら。やっぱり、あれしかないんじゃないかなと。
 あのシーンが終わった後、沖津が“初めてイケたんですよ”って、“出来たと思いました”って言ったんですよ。覚えてる?
沖津 うん、ああ。
古厩監督 サダトモが、自分がこうしますってことを初めて表明するシーンだと思うんですよ。それまで、基本的にあいつのやり方は守りに入ることでしたから。

——「まぶだち」の中学生は怒られてばかりの青春。それぞれ、実際の怒られ自慢をして欲しいんですが。
沖津 中一のときに、先生に殴られたっていうか…胸ぐらをつかまれて、壁に押し付けられたことがありましたね。授業中にベランダに出て、走り回って遊んでたんです。
高橋 ゲームセンターに行って、先生に見つかったことがあったんです。説教された後、考えろって言われて、正座させられた。6時から8時30分まで黙って、ずっと正座してました。
——考えろ、ですか。で、何を考えてたの?
高橋 ……忘れました。
——中島くんは?
中島 あんまり、そういうのないんだけど。小さいことで自転車乗る時にヘルメットをかぶってなくて注意された。
——監督は?…たくさんありそうですね(笑)。
古厩監督 すごい怒られました(笑)。万引きしてつかまって、反省文を書かされたんです。先生はこう言いました。『うまく書いてきたな、文化祭で発表しろ』。
——「まぶだち」そのまんま、じゃないですか。
古厩監督 そう(笑)。で、サダトモと同じで発表するのが、嫌でね。ちょうど、文化祭の前日ですね、友達の家が新築中だったんですよ。そいつと家に忍び込んで、石油缶に火をつけて投げこんだ。要するに、つかまりたかったんですね。警察が来ました。
 で、結局、また反省文を書かされたんです。そうしたら、また誉められた(笑)。「お前は中々みどころがある」って。結局、皆の前で読んだんです。
 本当は読みたくなくて、それ以降も、どうすれば読まなくて済んだかなってずっーと考えてたんですよ。やっぱり、川に捨てるべきだったのかな(笑)。

執筆者

寺島まりこ

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