映画『OLD DAYS』メインビジュアル

第41回ぴあフィルムフェスティバル観客賞受賞の映画『OLD DAYS』
10月8日(土)、シネ・ヌーヴォを皮切りに関西公開がスタートした。10月14日(金)に京都みなみ会館、続く10月15日(土)に元町映画館で公開される。

東京のクラブハウスで働くカズヤ(末松暢茂)。漁師をしているソウジ(髙野春樹)。
埼玉の地元でキャバクラのボーイをするトモキ(小田哲也)。
かつて同じ暴走族「幸手櫻會」のメンバーであった三人は、それぞれの日常を送っている。
ある夜、仕事中客同士の些細な揉め事に巻き込まれたカズヤが、突然東京を飛び出し地元へと帰る。
その日は偶然事故で亡くなった友人・マコトの命日であった。

実在した暴走族「幸手櫻會」をモデルに特攻服を纏う大人達が、かつての夜に向かいバイクを走らせる壮年青春ロードムービー。

半年に及ぶ取材を重ね制作された『OLD DAYS』。脚本、主演も務めた末松暢茂監督は、シネ・ヌーヴォの舞台挨拶で「熱量だけで作り上げた映画」と語った。舞台挨拶を終えたばかりの末松監督とプロデューサーの袴田光さんにお話を伺った。

末松暢茂監督
1983年1月30日生まれ。
世界的な名匠であるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『BABEL』にて俳優としてスクリーンデビューを果たす。 その後、俳優の活動をしながら映画制作を開始。初監督作品『TORE』では、現在のように整備される前の大阪西成あいりん地区に住み込みで取材をしながら映画を制作。同作品は福岡インディペンデント映画祭にて90分部門のグランプリを授賞。それ以降の作品も、テーマとなる土地のコミュニティに徹底的に密着するスタンスで映画を制作し、飛騨高山のマタギを描いた短編『ハルとロウ』ではドイツのハンブルグ日本映画祭などに招待される。 近年では、俳優として海外ドラマ『GIRI/HAJI」やマイケル・マン監督の『TOKYO VICE』など国内外で活躍の場を広げている。
プロデューサー・袴田光さん
出演のLisky.Sさん

――舞台挨拶で、暴走族カルチャーが日本特有のものだと仰っていましたが、面白さを感じたのはどの辺でしょうか。

末松監督は、子供の頃から暴走族を象徴するバイクの改造や特攻服に「一体これは何なんだろう」と不思議に思っていたという。その後、海外には該当するものがないことを知り、社会的には容認されていないことも含めて興味が沸いた。

©AMBIVALENT FILM / Paul&Iverson

末松:実際に暴走族の幸手櫻會OBの方に取材させていただいた時に「暴走族って何なんですか」って聞いたんです。

「1人1人個性が違う。喧嘩が強い者もいれば弱いが根性がある者、家庭環境に問題ある者もいれば、裕福に育っても居場所がなかったり。皆が特攻服を着て同じ方向を向く時にそれが一枚の岩になるんです。それが自分達の暴走族です」と聞いたのが、暴走族というものを描こうと思えた一番のきっかけです。バイクや身なりだけでなく内面的なものも含めて暴走族が面白いって自分には思えました。

©AMBIVALENT FILM / Paul&Iverson

――最初の構想から実際に取材をして厚みができた部分や、思いがけず加わったような内容は何かありましたか。

末松:キャラクターは役者それぞれの個性を生かしている部分もあるんですけども、例えばトモキは事故で足を引きずっている。実際に事故をされて足に後遺症があるOBの方々を投影したり、関係性で言えば、漫画でよく「てめえ、この野郎みたいな」会話がありますが、意外とみんなナチュラルと言うか結構あっけらかんとしていて、一緒にいる時間もそんなに多く喋らない。取材をさせていただいたことでそういうリアリティ、空気感を出せたのではないかと思っています

©AMBIVALENT FILM / Paul&Iverson

――確かに3人一緒にいる時にそんなに喋るわけではないんですけども、なんとなく通じあっているものがあるように思いました。

袴田:僕は彼の作品は、取材も含めてなんですけど演技にも作品にもリアリティを追求するのが彼の色だと思うんです。『OLD DAYS』はそれをより肌で感じてもらえるとプロデューサーとして思っています。

――そうですね。キャラクターの核に何があるかを描こうとされているので、題材は暴走族なんですけども、様々な場にいる人にも当てはまるかなって。

©AMBIVALENT FILM / Paul&Iverson

末松:そこは自分がすごく大事にしたところで。暴走族の世界なんですけど表現したかったのはあくまで人間とか友人、人間的な部分で。暴走族に興味がない人にも見ていただけたらいいなと思ってます。

――見ていて熱くなるものがありました。パトカーが追いかけてくるところも時間が戻ったように楽しくなってくる感じで(笑)

末松:凄く嬉しいですね。

――車のライトとか工場の明かりでしょうか、パーッと明るくなっていたけど、あれは彼らにとってそう見えていたのか、実際あのように写るものなんでしょうか。

末松:カラコレとかでちょっと迫力を出したと言うか。

――あの辺りも凄くいいなと思いました。

袴田:この感じだと結構楽しんでいただいたような。

――はい、楽しみました。自分にも核になっている場があるので、なんとなくわかるというか。離れていても久しぶりに会ったらすぐその時間に戻れる、みたいな。

袴田:今日僕の友達が来てくれたんですけど、20年ぶりぐらいの再会で。そういうことができる作品だなと思うし、お客様からも観終わった後に昔の友達に電話したとか聞くので凄く有難いですね。みんな観終わってラーメンが食べて帰るって。

――わかります。あれは食べたくなりますね(笑)


――海外と日本の映画制作の違いは?

末松:撮影現場も全然違うし予算も違うし、全てが規格外と言うか(笑)

役者として活動していた末松監督が監督として作品を作り始めたのは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『BABEL』に出演したことがきっかけだったという。

末松:アレハンドロの撮影に対する情熱の注ぎ方を見たときに、こうやって撮るんだって。作品のために身を削っている姿を見てすごく影響されましたね。

――制作の規模とか状況は海外とは全然違うと思うんですけども、逆に日本にいるからできることや希望を感じているような部分はありますか。

末松監督は「もちろん海外の作品も大好きなんですけど」と前置きした上で、

末松:僕は日本ならではの作品を大事にしていまして、今回暴走族、前回はマタギ、その前は西成を舞台にしました。自分たちのmade in japanの作品を作って海外に持っていくのが、自分が大事にしてるポイントの一つです。
海外を撮ったりする事も面白いと思うんですけども、今は自分たちで発信していける時代だし、役者が映画を作ることも増えています。自分たちが仕掛けていく。自分たちが作品のために熱を持って団結してクリエイティブしていけばおのずと人が集まってくるって思います。

実際メジャーな作品とか漫画のリメイクが多くて、ファンの方も喜ぶしそういう映画も素晴らしいと思います。でもそれだけでは正直つまらないと思うんです。
オリジナルで、日本の中でもっともっと面白い映画っていうものが表現できるはずなんです。日本特有の人間関係、感情の表し方とか絆というものをちゃんと描けば面白い作品がまだまだ出来るんじゃないかなと思っています。

©AMBIVALENT FILM / Paul&Iverson

――取材ベースの制作体制で最初から作られていますが、そのきっかけは何だったでしょうか。

末松:例えばハリウッドの役者さんが殺人犯をやるときに実際に殺人犯に刑務所でインタビューするっていうのがあるんですけど、そういう試みって日本は少ないと思うんです。僕はそういったことが大事だと思って取材をします。
予算がない中、実際中まで入って関係性があれば一緒にモノづくりに踏み込んでいただけるということも実際にありました。エキストラの方々も実際の方がやるとやはりリアルに見えます。
取材をすることで、よりその土地や自分がイメージした脚本の奥の方にあるものに触れたり、発見があったりしますので。

身近で見守る袴田さんはそんな末松監督のリアリティへのこだわりを、元々好きな映画の傾向でもあり、役者の目があればこそと解説する。
ただの暴走族映画と思うなかれ。末松監督がこだわるリアリティは、日々不格好に格闘する大人にこそ響く。


映画『OLD DAYS』関西上映情報
シネ・ヌーヴォ ☆2週間上映
10/8 (土)18:25 上映後舞台挨拶(末松暢茂監督)
10/9 (日)18:25 上映後舞台挨拶(末松暢茂監督)
10/10 (月)~10/14 (金) 20:10
10/15 (土) ~21 (金) 18:40

京都みなみ会館  ☆2週間上映
10/14 (金) 18:45
10/15 (土) 15:30 上映後舞台挨拶(末松暢茂監督)
10/16 (日) 17:00 上映後舞台挨拶(末松暢茂監督)
10/17 (月)~20日 (木) 18:45
10/21 (金)~27日 (木) 17:45

元町映画館  ☆1週間上映
10/15 (土) 20:00 上映後舞台挨拶(末松暢茂監督)
10/16 (日) 20:30 上映後舞台挨拶(末松暢茂監督)
10/17 (月)~10/21(木) 20:00