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「君は絶対主人公にはなれない」
プロデューサーからそう言い捨てられる、売れないアクション俳優のヨニ。そんなヨニがスタント出演で訪れた廃墟のロケ地。時空を超えて飛び込んだのは、独裁者が支配する刀が正義の血にまみれた異世界。伝説の剣士・鬼剣と間違えられ、村人のために戦うことになるヨニ。手には切れない小道具の刀…!
ヨニは本物の「主人公」になれるのか???

2020年、東京国際映画祭でワールドプレミア上映されたチョ・バルン監督の『スレイト』。いよいよ6月25日(金)よりシネマート新宿シネマート心斎橋ほかにて公開となる。

コロナ禍で様々な価値観が揺らぐ事態が日々起こっている。だからこそ自分を貫き通すヨニがとても魅力的に思えた。そして自分の身体の一部のように刀を使いこなすアクションに興奮させられた。オフビートなタッチの中に前向きなメッセージが込められており、エンタメの力が紛れもなくそこに。

「自称」アクションスターであり、スーパーポジティブ人間であるヨニを演じたアン・ジへさん。質問状を送ってインタビューをさせて頂いた。


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幼いヨニが身に付けた孤独の中で強くなる術

――まずはヨニというキャラクターについてお伺いします。アン・ジヘさんから見て、ヨニはどんな人物だと思われましたか?

アン・ジヘ:ヨニは幼い頃、お父さんに捨てられ、孤児院で育てられます。 あまりにも幼い年で別れという感情を知り、寂しさの中でそれなりに強くなっていく方法を身につけなければならなかったのです。「主人公だけが役に立つ存在で、世の中で捨てられないためには強くならなければならない」 という父親の最後の一言を胸の片隅に抱き、漠然とした未来のために自分を洗脳させながら、幼いヨニは成長しました。 成長したヨニは明るく、物事に肯定的な人物です。 しかし光が明るいほど暗さは濃いものです。 そんな理をあまりにもよく知っているヨニなので暗さを隠すために光をもっと明るく照らそうとする子です。

――彼女に共感できるところはありましたか?

アン・ジヘ:ヨニは正義的で自分が愛する人々のために自分の犠牲を喜んで受け入れられることができる人です。パラレルワールドで弱者たちのために剣を持ったヨニ、その姿が真の主人公、ヨニだと思います。私も幼い頃は、ヨニのように他人が私を認めてくれてこそ主人公で、その位置にいてこそ真の主人公だ、 と思っていました。しかし今は主人公になろうとしなくても、自分自身が自分の人生の主人公で、どこに居ても自分が主人公として生きていると思います。ヨニもそのような点で、私とよく似ていると思いました。 自分自身を愛することが自分を主人公にするのです。

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感情の芽生えを見せるリアクションを大切に

――今回演技として挑戦されたことはありますか?

アン・ジヘ:すべてが挑戦でした。単独で初主演の作品でもあり、代役なしに演じなければならない剣術アクション、それも一対一のアクションではなく、数十人とのアクションをこなさなければならないなど、肉体的にも精神的にも自分を試す初の作品でした。最初シナリオをもらった時、プレッシャーも大きかったのですが、何があってもうまくやり遂げたい、うまくやり遂げればプレッシャーもなくなっていくだろうと信じ、集中して作品に臨みました。 共演者たちと一緒に立派で素敵な作品を作り上げるために練習を重ねました。 全ての俳優とスタッフが立派に各自の役割を果たすのに全力を尽くしてくれたからこのように素敵な作品を披露することができたと思います。

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――演技をする際に大切にされていることは何ですか?

アン・ジヘ:リアクションが大事だと思います。ですので、シナリオを読む時、私が演じる人物の性格と家族関係、職業などを把握してキャラクターの声や話し方、動きなどを決め、毎シーンごとに演じる役にどのような感情が芽生えるかを把握して伝えられるように努力しています。


アン・ジヘさんが考える真の主人公とは?

――パラレルワールドは、登場人物たちが心の奥で望む姿で生きる世界のように思えました。もしパラレルワールドがあったら、どんなアン・ジヘさんがそこにいると思いますか?

アン・ジヘ:本当にそんな世界があるとしたら、私は動物たちが住んでいる世界に一度行ってみたいです。 夕方、町内によく散歩に出かけますが、犬と一緒に散歩をする方々をよく見かけます。 愛犬同士が向き合って吠えている時に、何を言っているんだろう?と 気になることがあり、またペットたちと目が合うたびにしばらく私のことを眺めて、何かを言おうとしているような気もするし、何かを伝えたいような気がして、もどかしさを感じました。 本当に彼ら(動物)だけの世界で一度一緒に暮らしてみたいです。

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――アン・ジヘさんが考える「主人公」とは、どんな存在だと思いますか?

アン・ジヘ:主人公はまさに自分自身だと思います。 だからといって誰でも主人公になれる訳ではないでしょう。 自分を本当に大事にして愛して、また自分が持っているその愛を分かち合えた時、真の主人公になれると思います。


「チョ・バルン」ワールドを魅力的にする予測不可能なキャラクターたち

――チョ・バルン監督が演出の際に大切にされていたのはどういったことでしたか?

アン・ジヘ:ヨニの成長する姿を大事に思っていらっしゃいました。 現実世界では虚像を追いかけているヨニを、パラレルワールドでは真の主人公になるためのヨニの旅路を見せてあげたいとおっしゃいました。

――チョ・バルン監督の映画の魅力は何だと思われますか?

アン・ジヘ:新鮮な要素(ネタ)、独特なストーリーと予測不可能なキャラクターだと思います。 作品が解りやすく、気楽で多彩にアプローチして語ろうとするメッセージが明確で、映画自体が難しさがなく親しみがあって面白いです。そして監督の魅力の中で一番優れていると思うのはキャラクターを魅力的に作り上げるということです。 小さな役の設定さえ凄く考えられています。そのおかげで、作品が豊かに感じられ、多彩な雰囲気を醸し出しています。

村長の娘キム・ジナ役にイ・ミンジさん。
ドラマ「100日の朗君様」がケーブルテレビでは異例の大ヒットを記録した。
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体操の技術を剣術アクション生かすために

――好きなアクション映画や俳優さんはいますか?

アン・ジヘ:好きな映画は『ラストサムライ』、『ミッションインポッシブル』、『アベンジャーズ』、『ワンダーウーマン』、『Mr.&Mrs. スミス』、『ロッキー』などが好きです。好きな俳優はアンジェリーナ·ジョリーとトム·クルーズです。身体が柔軟で、流れるようなアクションを際立たせていました。

――これまでに映画等で刀を使ったアクションの経験はありましたか?

アン・ジヘ:「六龍が飛ぶ」という時代劇ドラマで短いシーンですが剣術アクションを披露したことがあります。

――剣術、アクロバットなど様々な経験がおありですが、今回のアクションにどのように活かされましたか?

アン・ジヘ:小学校4年生の時から大学1年生の時まで器械体操をしました。それなので、自分の体操技術を剣術アクションにどう活かせるか、アクション監督と何度も話し合いました。 最後にフィリップと戦う場面で、「エアリアル(側宙)」という体操技術を入れました。 そして筋力や体力に自信があったので、スピードやパワーを高めて実感の湧くアクションを見せるのに集中しました。 今後の作品では更に発展したアクションでお見せ出来ればと思います。

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感情を見せるアクションを求めて

――武術監督はどのようなコンセプトで指導されましたか?

アン・ジヘ:多くのアクションをするためには基礎体力が土台にならなければならないと仰っていました。 また、スピードと正確な打撃のために多くの練習をしました。 そして、それぞれの人物の性格に合わせてアクションデザインをして、シーンごとのアクションで感情がよく見えるように指導してくださいました。

――アクションの撮影で苦労したところは?

アン・ジヘ:相手との息を合わせるのにプレッシャーを感じました。 1対1の形は何度か経験がありますが、数十人との対決は初めてで、ロングテイクの撮影だったので、皆が息を合わせて最後まで撮影しなければならなかったです。自分がミスをしてしまったり、相手との連携が取れなければ、大きな怪我をすることになります。 興奮して速くなってしまったり、緊張して遅くならないように最大限集中して、練習の時のように呼吸を持っていこうと努力しました。

パク・テサンさんはドラマ『番外捜査』や映画『ノンストップ』などに出演。
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――宿敵フィリップ役のパク・テサンさんとの撮影はいかがでしたか?

アン・ジヘ:テサンはアクションが本当に上手な俳優です。 練習のときからテサンにナイフの動きや動線や動作についてとても助けられました。 アクションは、実際に攻撃する人より受ける相手がどれだけリアクションをしてくれるかが本当に重要だと思います。 テサンのおかげで素敵なアクションを見せることができました。 テサンには本当に感謝しています。

――撮影現場はどんな雰囲気でしたか?共演者との思い出深いエピソードがありましたら教えてください。

アン・ジヘ:現場の雰囲気は本当に良かったです。俳優達が現実世界とパラレルワールドでそれぞれ違うキャラクターを演じていて、いつも一緒に撮影をしていて、みんな仲良く過ごしました。スタッフの方々も大変で疲れていると思いますが、俳優のためにたくさん笑ってくださって、多くの配慮をしてくださいました。皆さんに改めて感謝の気持ちを伝えたいです。

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俳優たちと共に走り回ったスタッフに感謝!

――監督やスタッフの皆さんとの思い出は?

アン・ジヘ:監督は俳優たちの一言一言に欠かさず耳を傾けてくださり、情熱的なディレクティングで現場を力強く導いてくださいました。 本当に働く甲斐のある現場でした。そして記憶に残るエピソードと言えば汗を流しながら私たちと一緒に走り回った撮影監督の姿が記憶に残ります。 動作が大きくて速いロングテイクが特に多かった私たちのアクションシーンでは、毎回1テイクが終わると全ての俳優達が息を荒くして床に倒れていました。 偶然、汗を拭いて後ろを振り向いたら、私の後ろでも撮影監督が激しく息を吐きながら、汗を雨のように流していたんです。 大変だったと思いますが、笑いながらアクションシーンが素敵だったと褒めてくださいました。 私たちのアクションをかっこよく撮るために、 その重いカメラを肩に担いで動きまわって撮っていただきました。だから本作品がこんなに素敵に出来上がったのだと思います。

――そうやってあの凄いアクションシーンが出来上がっていったんですね。撮影時にコロナの影響はありましたか?

アン・ジヘ:コロナが流行して間もない時期だったので、映画の進行には幸い大きな影響はありませんでしたが、フィリップと対決する場所がコロナのせいで別の場所に変わることになりました。 映画を見れば分かると思いますが、その対決のシーンは映画上で本当に重要なシーンの一つです。 だからそれだけ場所が重要だったのですが、結果を見ると現在のフィリップとの対決場所が映画の雰囲気により合っていると思います。

――コロナ禍だからこそ感じたエンタメの力というものはありましたか?

アン・ジヘ:コロナはとても危険ですし、今もこの時期に、エンターテイメント業界がものすごい影響を受けています。もちろん、この映画の撮影が続けることが出来た時点で、最後までお互い力を合わせて一丸となり、より頑張りました。 だからこのように完成度の高い映画が出来たのだと思います。

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――来日頂けない状況が残念です。行き来が自由に行えるようになったら日本で行ってみたいところはありますか?

アン・ジヘ:日本に行くことになったら、京都に行ってみたいです。日本の伝統が一番残っている都市だと聞きました。伝統文化を鑑賞しながらゆっくり色々見て理解を深めたいと思います。


日本の観客の皆さんへ

――それでは最後に、観客の皆さんにこの映画の事を紹介してください。

アン・ジヘ:『スレイト』に関心を持ってくださって、 たくさん愛してくださって 本当にありがとうございます。 日本で6月に封切りするという便りを聞いて、本当に行きたかったんですが、現状ではなかなか移動することが出来ませんので、とても残念です。 『スレイト』は、ヨニが真の主人公になるための旅を描いた成長映画です。 『スレイト』を通じて、大変な時間をしばし忘れて楽しい時間を過ごしてほしいです。本当にありがとうございます。

――ありがとうございました! 最後にアン・ジヘさんと皆さんがこれからも健康で過ごされるようお祈りしています。


映画『スレイト』は6月25日(金)よりシネマート新宿シネマート心斎橋ほか、7月2日(金)より京都みなみ会館ほか、7月10日(土)より神戸アートビレッジセンターにて公開予定。

執筆者

デューイ松田

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