活弁映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』製作をひかえ、クラウドファンディング中の辻凪子さん(俳優・監督)と大森くみこさん(活動弁士)が、第1回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」で11/14(土)、元町映画館に登場する。

その昔、映画に音が付いていなかった時代。日本の映画館では活動弁士の語りと生演奏が観客に大人気となったが、映画に音が付いた「トーキー映画」の広がりとともに下火になっていった。それから100年あまり。映像技術が発展し続ける中、映画草創期の「サイレント映画×弁士の語り×生演奏」の魅力を今に伝える現代の活動弁士は十数人。その一人として親しみやすいキャラクターで愛されている実力派が大森くみこさんだ。

大森くみこ

そんな大森さんとタッグを組むのが辻凪子さん。映画、NHK連続テレビ小説『わろてんか』や数々の舞台と幅広く活躍中だが、その神髄は代表作の主演映画『温泉しかばね芸者』(鳴瀬聖人監督)、監督・主演を務めた『ぱん。』(阪元裕吾・辻凪子監督)にある。トリッキーな映画でより光る存在感を発揮してきた辻さん。現在25歳の辻さんに何故今活弁なのか、お話を伺った。

辻凪子さん

大森さんとの出会いは、5年前。当時CO2(シネアストオーガニゼーション大阪)の俳優特待生に選ばれた辻さん。CO2の企画で大森さんの活弁上映を観たという。

――その時の感想はいかがでしたか?

辻:ジョルジュ・メリエスのサイレント映画だったんですが、衝撃的すぎて。観たことのないものを観せてもらったという感覚で。テーマパークのショーを見ているような。生の演奏と語りで物語が進んでいく、そのライブ感で映画の世界に入りました。100年前の映画なのにあまりにも面白くて、とにかく衝撃でしたね。無声映画はチャップリンしか見たことがなかったんです。

その後辻さんは東京に進出。東京では活弁に触れる機会がなかったという。転機となったのは昨年。プロデューサーの岡本さんから、大森さんと辻さんで活弁映画を撮りたいというオファーを受け、活弁映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』の企画がスタートした。現在クラウドファンディングを行い、映画製作に向けて動き出している。

――お話を頂いていかがでしたか?

辻:すぐにこれは面白い!と思いました。しかも、私が知る限りでは誰もやってないし、私だけのオリジナルな表現が出来るって思いました。

――辻さんと言えば、いつも攻めているなーって思っていて。今年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でもさ配信されたハウス映画大会では、『すき焼きばあばのダンシングタイム』を監督・主演で一人7役をされていましたね。

辻:ありがとうございます(笑)。ストーリーは私が考えて、いま脚本を書いています。脚本を1回書いてから大森さんに見てもらって、どういうシチュエーションから物事が起きるのか、出来事が描けるかディスカッションしながらシーンを足していくって感じです。

――脚本を書く上で難しい点は?

辻:今書いている最中です。セリフは大森さんに当ててもらうんですが、サイレント映画の脚本は初挑戦です。絵だけで楽しめるものを作るのは難しいですね。とにかく無声映画を沢山観ています。今まで観てきたチャップリンやバスター・キートン、ハロルド・ロイドなど。100年前のものをまた蘇らせたいと。アナログチックにやろうと思っています。

――今だからできる表現というものを加えるといったことは考えていますか。

辻:そうですね。自粛中から脚本を書いていたこともあって、コロナの状況を直接的に描きたくはないんですけど、ある場面では舞台を宇宙に変えて、宇宙ではウイルスが蔓延していて丘の上にいる宇宙人の男の子が下に降りられなかったり。地球環境の問題とか、言論の自由の問題などをコメディで描けたらと思います。

――今の状況を取り入れながらの脚本になるんですね。今自粛中の話が出たんですけど、外出が制限されたり映画を観に行けなかったり、映画製作がなかなか進められない状況などもあったと思うんですけど、そういう時期に映画を作るということ対して改めて考えたような事はありましたでしょうか。

辻:私自身自粛期間中にすごく憂鬱になったんですね。ネットやテレビの報道を見ることでなかなかポジティブになれなくて。ナイーブになってしまって。助けられたのはやっぱり映画でした。大林宣彦監督、ティム・バートン監督などのファンタジー作品ばかり観ていました。

映画を見ているときだけが幸せで全部忘れられたので。だからこそ私もそういう映画を作りたい。笑ってもらえるような作品を作れる人になりたいです。

――今はどうですか?少し気分も変わってきましたか。

辻:今も完全にポジティブにはなれないところもあります。でも活弁を始めたことで自分の中でビジョンが見えたって言うか。コロナで仕事がなくなってしまって、芝居を続けようかと迷っていた時期もありました。でもこの企画があるから頑張れています。活弁映画は面白いっていう自信は持っているので、これが成功したら自分の夢もかなえられると思っています。

――ぜひ成功させてもらいたいなと思います!

辻:ありがとうございます!


今回元町映画館でのプログラムは、以下の通り。

辻凪子と大森くみこの第1回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」

D・W・グリフィス『迷惑帽子』(活弁:大森くみこ
ジョルジュ・メリエス『月世界旅行』(活弁:辻凪子)
辻凪子&阪元裕吾監督『ぱん。』(活弁:大森くみこ・辻凪子)
バスター・キートン『キートンの探偵学入門』(活弁:大森くみこ)

関西を拠点にサイレント映画伴奏で活躍する天宮遥さんがピアノの生演奏を行う。

辻さん、大森さん、高橋佳乃子さん(映画チア部)によるアフタートークでは、制作予定の活弁映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』の見所もいち早く届ける予定だ。

『月世界旅行』は世界初のSF映画とされる不朽の名作。月世界旅行を企てた6人の科学者が、巨大な砲弾に乗って月に着陸する。そこに待っていたのは想像もしなかったような奇天烈な世界だった…。映画を観ていなくても、月の顔に砲弾が刺さっているビジュアルを見たことがある人は多いだろう。

――『月世界旅行』で挑戦したいと思っていることがありましたら。

辻:前回の京都公演では、大森さんが軸になった脚本を元にアレンジしてやったんですけど、今回は脚本を自分で書いてやるので、自分の表現力を試されるものになります。

――前回ご覧になった方にも楽しんで頂けそうですね。

辻:自分のオリジナリティと『月世界旅行』が混じり合ったエンターテインメントを作るということで不安でもありますけど、楽しみです。

『ぱん。』は阪元裕吾さんと辻さんが監督を務めた短編。MOOSIC LAB 2017 短編グランプリ・最優秀女優賞、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 グランプリ、プチョン国際ファンタスティック映画祭 審査員特別賞などの賞に輝いたブラックコメディ。

パン屋でアルバイトする小麦(辻凪子)。パン屋で働いているのは、意地の悪い店長とその妻、アルバイトのインド人留学生とパートのおばちゃん。寝坊した小麦は、首になるが、パン屋の厨房で偶然ある扉を開いてしまう。その扉の向こうには…。小麦による復讐劇であり、パンで世界を救うお話。辻さんがパン屋をクビになった実話に基づいて作られた。

――『ぱん。』では大森さんとダブル活弁なんですね。大森さんとの掛け合いはいかがでしたか?

辻:「ぱん。」は私が主演をやった映画なのですが、主演以外の声を全て大森さんがやってくださって、その声のバリエーションが凄くて。私は楽しくて仕方なかったです。演奏の鳥飼りょうさん、天宮遥さんが1シーンごとに色々な音楽をつけて生演奏してくださって、それはただただ感動しました。

――それはワクワクしますね!京都でのお客さんの反応は?

辻:『ぱん。』が一番良かったと言ってもらえることが多くて。今回も前回よりブラッシュアップしてやります。音声のある『ぱん。』も面白いとは思うんですけど、活弁がプラスされることで何倍にも面白さが広がるところをお客さんに楽しんでもらえたらなと思います

――今『ぱん。』のいろんな場面を思い出していたら、あのトリッキーな世界観が活弁に合わない訳がないという気がしてきました。

辻:ぜひ期待してください!


辻凪子と大森くみこの第1回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」

開催:11/14(土) 15:50~(15:40開場/17:40終了予定)
料金:2,800円均一
(※各種割引なし、招待券・満了スタンプカードでの無料入場不可)
定員:65名(予約先着順)

予約は元町映画館のサイトにて受付中


11/15(日)は17時40分よりシネ・ヌーヴォにて開催予定。演奏者は鳥飼りょうさん、ゲストは俳優の土居志央梨さん。

ぜひ足をお運びください。

執筆者

デューイ松田