©yudai uenishi

現在公開中の映画『ひとくず』。劇団テンアンツ主催の上西雄大さんが監督・脚本・主演を務めた。窃盗犯のカネマサ(上西雄大)と虐待を受けている少女・鞠(小南希良梨)の出会いに始まる人間の絆を描いた作品だ。作品の中で注目したい二人の母親を演じた古川藍さん、徳竹未夏さん、物語が生まれるきっかけとなった児童精神科医の楠部知子先生にお話を伺った。

映画『ひとくず』ミニインタビュー(1)古川藍さん

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少女・鞠の母親・凜を演じた古川さん。育児放棄と愛人が行う鞠への虐待を黙認し、常に鞠を怒鳴りつけている役柄だ。

――凛はどのような女性だと解釈して演じられましたか。

古川:凜はすごく情緒不安定な女性で、凜自体も虐待を受けて育っています。男に媚びないと生きていけない。劇中にもありましたけど、鞠への愛情の注ぎ方がわからないという不安定な人物だったので、台本を最初に読んだときは衝撃もありました。こういう人って本当にいるのかなっていう思いもありながら、自分の思うままに気持ちをぶつけました。激しいシーンも多かったですし。そこからカネマサと鞠と三人で過ごしていく中で自分も変わっていく。その変化をつけることを一番に考えて演じました。

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――女性として凛に共感できる部分は何かありましたでしょうか。

古川:そうですね。最初は闇を持っていたんですけども、人間の温かさに気付けたことで、母親として自分も変わらなきゃって思いに至ったのが、すごく良かったと思っています。

――観客の方に、ぜひここを見て欲しいというポイントは?

古川:全部と言うとお終いなんですけども(笑)、舞台挨拶でもお話ししましたが、テーマが虐待となっていますが、それだけの映画ではなく、人間の温かさや家族の団欒というものをテーマにしています。観て頂いた方皆さんが笑って、最後は泣いて温かい気持ちで帰っていただける作品だと自信を持っています。普段映画観ないという方も、この作品だけは是非大きいスクリーンで見て頂きたいです。ぜひよろしくお願いします。


映画『ひとくず』ミニインタビュー(2)徳竹未夏さん

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徳竹さんが演じたのはカネマサの母親。子ども時代のカネマサに自分の愛人が暴力を振るうことを黙認してきた。

――上西監督にインタビューしたときに「昭和の女性」と仰っていましたが、脚本を読んでどのような女性と捉えられましたでしょうか。

徳竹:完全に酷いお母さんで息子は100%どうでもいいということではなくて、無意識の中で愛情があるんだろうなっていうことは感じました。愛人が息子に対して虐待しているのに目をつぶっている状況ではあるんですけども。無意識に罪悪感が表れているのが、タバコを吸っている無言のシーンでしょうか。全く償いきれていないんですけど、自分でもきっと処理できない気持ちが「アイス食べたら嫌なこと忘れるよ」っていう言葉に表れているんだろうなと思いました。

――女性として理解できる部分はありましたでしょうか。

徳竹:母親の役ということで、結婚もしてなければ子供も産んだことがないのでなかなか手探りではあったんですけど(笑)。息子が取り返しのつかないことをした瞬間に、母親の部分が息子を守ろうとしているところは感じましたね。共感って言っていいか分からないですけど。母親である自覚が出てきたのかなと思って。そこで少し親子の繋がりが芽生えたのかなと。

©yudai uenishi

――観客の方に、特にここを見て欲しいというポイントを教えてください。

徳竹:この映画は『ひとくず』というタイトルで、人のクズがたくさん出てきますけど、どのキャラクターも極悪人というわけではなくて、心の奥に家族というものに憧れみたいなもの持っているキャラクターたちです。乱暴な人たちですけど、劇中で自分の心の中をさらけ出すシーンがいくつかあって、個人的にも好きなシーンでぜひ見ていただきたいです。暖かい気持ちになって帰っていただけることは間違いないと思いますので、ぜひよろしくお願いします。


映画『ひとくず』ミニインタビュー(3)楠部知子先生

楠部知子先生 プロフィール
愛知医科大学を卒業後、児童精神科を学ぶために 来阪し、近畿大学医学部附属病院 精神神経科学教室に入局。(花田雅憲教授・郭麗月講師の元で学ぶ)嘱託医として 大阪市立児童院、大阪府下児童相談所(富田林、東大阪、岸和田、上野芝)、大阪府下保健所(岸和田、富田林)、大阪市児童相談所、堺市子ども家庭センター、堺市教育センター、堺市精神障害者更生相談所、岸和田市教育センター、大阪府立 修徳学院、堺あすなろ園、あゆみの丘、堺市里親審査会委員、名古屋市子ども適応センター、堺市子ども虐待ケース検討会SV、水間病院、三国丘病院を 歴任。病院外来、措置期間、児童福祉施設 其々の特性を知る立場として、講演や事例検討会のスーパーバイズも多く手掛ける。

上西雄大監督が映画『ひとくず』を作るきっかけとなったのが、児童精神科医の楠部知子先生から虐待について話をきいたことだったという。

――元々上西監督は他の映画の取材でお話を伺われたとのことですが、その時に虐待の話をされたのは何故でしょうか。

楠部:虐待も児童精神科の部分には関わるところで、私自身も何度か関わっているけどもなかなか減らない。特に関西では多いということがあって、何か手立てはないかと自分の中で自問自答していました。映画とかお芝居とか人が直接観られるものにすると共感してもらえたり、興味を持ってもらえたり、そこから身近に何かあったときにこうしてみようっていう思いに繋がればと思って話をさせていただきましたね。

――実際映画をご覧になって、ご感想はいかがでしたでしょうか。

楠部:私は知っていただくための話をしただけなんですけども、そこからよく想像して頂いて。大きなストーリーで虐待の悲惨さだけではなく、その中に生きている人たちの気持ちや変化、心が通って行く過程を丁寧に描いて頂けたのですごく良かったと思います。東京の上映時は、映画を観終わった後に、この映画を観てこんなこと思い出しましたとか、実は自分も虐待を受けていたんですって監督に話をされている方もいらっしゃいました。自分の近所にこんな子がいて、どうしてあげたらいいでしょうって声をかけてくださる方も。映画にしたことで広がりが出てくることは、とても意義があるなと思っています。

映画『ひとくず』撮影時スナップショット(楠部先生提供)

映画『ひとくず』は、関西ではテアトル梅田京都みなみ会館にて上映中。
11/13(金)よりイオンシネマ茨木、12/12(土)~12/18(金)元町映画館
にて上映予定。その他の地域の情報はこちらから。ぜひ足をお運びください。

執筆者

デューイ松田

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