『死刑台のエレベーター』のフロランス、『アデルの恋の物語』のアデル.H、『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』のベティ、『髪結いの亭主』のマチルド、そして『アデル、ブルーは熱い色』のアデル…フランス映画史に燦然と輝く、狂おしいまでの愛に魂を捧げた、美しくも勇気あるヒロイン像の系譜に、今、新たな一ページが加わった――それが本作『愛を綴る女』のガブリエルだ。
2006年に出版されたイタリア人作家、ミレーネ・アグスのベストセラー小説「祖母の手帖」(新潮社)の設定を、1950年代のフランス南部に移し替え、17年に及ぶひとりの女性の自由への希求と理想の愛のゆくえを、ストイックかつ官能的に見つめた注目の問題作である。昨年、第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、「闘いと狂おしいまでの愛への讃歌」(ELLE)、「情熱的な欲望の美しい旋律」(Le FIGARO)と称賛を浴び、フランスのアカデミー賞であるセザール賞では作品賞、監督賞をはじめ、主要8部門でノミネートされた究極のラヴストーリーが今秋、ついに日本公開となる。

Q:帰還兵アンドレとあなた自身の共通点はありますか。
ルイ・ガレル:僕は人を殺した経験はないから(笑)、このアンドレという役柄と自分を関連づけられないよ! 冗談だけどほんとさ。役柄が自分とあまりにかけ離れているとき、役柄を理解するのはとても難しい。アンドレは人を殺し、部下にも人を殺すように命令した。僕には未知の人間だ。果たして僕にこの役ができるのか、自問したよ。僕はケンカの仕方さえ知らないし、勇敢な人間でもないからね。マリオン(コティヤール)はガブリエルという役柄にぴったりだ。生命力にあふれ、欲望にあふれ、常にエネルギッシュだ。一方の僕は、アンドレと自分が重なるところがまったくない。気持ちがふさぎ込むことは僕にだってあるけれど・・・。

Q:実際に演じはじめたとき、ガブリエルにどう見られているかを意識しましたか。
ルイ・ガレル:最初は難しかったよ。アンドレという役は、彼を理想化しているガブリエルの目を通して描かれる。ガブリエルによって完全に理想化されている。だから僕は、余計な色が出ないように淡々と演じることを心がけた。アンドレは、ガブリエルがさまざまなことを投影する的なんだ。だから、そういった投影を受けられるように、無色でいることが必要だった。

Q:ルイ、ガルシア監督との仕事について聞かせてください。この役のために減量しましたか?
ルイ・ガレル:この映画の脚本をはじめて読んだとき、とても美しいと思った。ニコールは自分の考えややり方をしっかり持った監督だ。キャスティングにはあまり悩まなかったそうだけど、僕にはとても厳しかったんだ! ニコールは僕に「ルイ、ぽっちゃりしてるわね!(笑)」って言った。「えっ、ああ、そうかな」って返すと、「ぽっちゃり、ふっくら、でっぷりよ!」って言うんだ。だから「よし、減量する!」って言うと、「がんばってやせてきて!」って。で、それから2週間経っても、ニコールはまだ「もう少しやせてもらわないと」って言うんだ。それで、ここまで体をしぼった。とてもうまくいったと思うよ。減量は大変だったし、ベッドで横たわっているシーンが多かったけどね。僕が撮影に加わったとき、ニコールはとっても喜んでくれたよ(笑)。「おお、ルイ! ついに登場ね! 素晴らしい!」って。

Q:今回の役柄のアンドレはいつも気持ちが塞ぎこんでいると言っていましたが、実際にそのような精神状態と闘った経験は?
ルイ・ガレル:何度もあるよ。いまのフランスで暮らすのは、容易じゃない。去年の事件は衝撃だった。いまフランスはとても緊迫しているんだ。みんな懸命に笑おうとし、希望を持ちつづけようとしている。でも、いまのような状況がさらに重く強くなっていくと、神経がまいってしまう。去年は本当にきつかったよ。

Q:マリオン・コティヤールとの共演はいかがでしたか。
ルイ・ガレル:ニコールは演技の簡潔さに、とことんこだわるんだ。動きも身ぶりも、ごく小さなものを求める。最初はそれが難しかった。僕はいつも手で表現するからね。だからニコールから、常に気持ちを落ち着かせているようにってアドバイスを受けた。一方のマリオンは、〝極めている〟んだ。フランスではこういう言い方をするんだけどね。彼女は小さな鉛筆で書くことができるんだ。まさに驚嘆したよ。小さな空間でも、絶妙の動きができるんだ。非常に深みのある演技をする、素晴らしい女優だよ。

Q:本作は、カンヌ国際映画祭という大舞台でプレミア上映されました。
ルイ・ガレル:自分の演技を観客に観てもらうという点では、素晴らしい経験だね。なかなか経験できないことだよ。俳優が自分の出ている映画を観るときは、暗くなってから1人で劇場に行き、暗い館内でそっと映画を観る。でもカンヌでは、逆なんだ。自分が出ている映画を大勢で観て、そのあと拍手喝采を浴びる。観客も演劇を観るときのように楽しいと思う。映画を観るのは、とても個人的な経験だ。誰かといっしょに観ても、個人的な経験だよ。

【プロフィール】
1983年6月14日、パリ生まれ。祖父は名優モーリス・ガレル、父は名匠フィリップ・ガレル、母は女優のブリジット・シィという映画一家に生まれる。代表作にベルナルド・ベルトルッチ監督『ドリーマーズ』、クリストフ・オノレ監督の『ジョルジュ・バタイユ ママン』(2004)、ベルトラン・ボネロ監督『SAINT LAURENT/サンローラン』(14)など。

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