オシェイ・ジャクソン・Jr、撮影の現場で父は“恵み”。
電話やスカイプなどでも毎日マメにフォローしたアイス・キューブ。

N.W.A.は1986年にアメリカ、カリフォルニア州コンプトンで結成されたたヒップホップ・グループでメンバーはイージー・E、MCレン、DJイェラ、アイス・キューブ、ドクター・ドレー、アラビアン・プリンスで構成。アメリカで屈指の危険地帯とされるコンプトンで彼らは暴力に走らず、ラップという表現で権力者たちに立ち向かう。映画タイトルの元にもなったデビューアルバム「Straight Outta Compton」は暴力的なリリックを含みながらも理不尽な社会への反骨精神を等身大で表現したことが若者を中心に大ヒット。これが黒人差別をする警察暴力への反対運動を爆発的に加速させ、社会現象にまで発展。遂にはロサンゼルス暴動の渦中に置かれ、N.W.A.は警察、そしてFBIからも目をつけられる「世界で最も危険なグループ」へと成りあがったのだ。

$red Q:お父さんであるアイス・キューブがどんな人なのか、最初に知ったのはいつでしたか? $

オシェイ・ジャクソン・Jr(以下、OJ): 僕が生まれたのは1991年で、その時ちょうど父は映画の活動を始めたところだったので、気づいた時にはすでによくTVや映画に出演していた。でも、18歳になるまで、‘アイス・キューブ’が誰なのか知らなかったよ。僕はよく父のワールドツアーに同行して、日本やオーストラリアに行ったりしたけれど、そこで人々が、父のロサンゼルスでのラップがどれだけ彼らに影響をもたらしたのか話してくれた。その時に初めて僕は、父は世界中の人々に影響を与えて来て、それがものすごいことだということに、ようやく気づき始めたんだ。

$red Q: その頃から、あなたはお父さんの過去の作品を手に取り始めたのでしょうか。 $

OJ:僕が13か14歳の時に、兄のダレルがN.W.A.のことを教えてくれた。その頃から、父の昔の作品に手を伸ばし始めた。「Gangsta Gangsta」が僕のお気に入りの曲だった。すごく活気を感じたよ。


Q: 時間をさかのぼることで、あなたの中で何か考え方に変化が生じましたか?

OJ: それはなかった。ただ、こうしてカメラに囲まれて、大勢の人たちに見てもらって認識してもらえるんだ、そう感じていた。当時N.W.A.はまるで、コンプトンで起きていることを人々に知らしめる、ソーシャルメディアのような存在だった。「これは、自分たちの街でも起きていることだ」と人々が知るきっかけを与えてくれた。N.W.A.は不変的な存在となった。何故なら、権力を行使できる立場にいながらそれを乱用する人間は、いつの時代も存在するからだ。

Q: あなたの役についてですが、おそらくこれまでの映画の歴史の中でも、あなたほど長期間、役作りのリサーチができた人はいないのではないでしょうか。子供の頃の記憶を掘り出して、有効活用することはできましたか?

OJ: 自分の立場を有利にするために、そのことを活用すべきだと認識していたよ。この映画の役のために、2年以上もオーディションを受け続けた。その度に、僕が父についての記憶があって、彼の人生のエピソードを知っていて、周りの人間たちについても知っているということを、関係者たちに何度もアピールする必要があった。僕は、彼らがこの映画を出来るだけオリジナリティのあるものにしたいと思っていることを知っていた。F・ゲイリー・グレイ監督は、僕に演技コーチをつけてくれて、出来る限りオリジナリティある作品に仕上げられるよう、僕を俳優として特訓してくれた。そういうプロセスが不可欠だったんだよ。

Q: 俳優になる特訓とはどんなものだったのですか?

OJ:ウィル・スミスやジェラルド・バトラー、ドウェイン・ジョンソンたちの演技コーチであるアーロン・スパイサー、もう1人はニコール・キッドマンの演技コーチのスーザン・バトソン。それからもう1人は、ウィルの子供たちの演技指導をしているダスティン・フェルダーだ。彼らはみな、それぞれに異なることを教えてくれた。演技に対する考え方も様々で、それらをどう一つにブレンドしていくか教えてくれたんだ。最終的に、自分自身の殻を捨てて、随分父の癖を表現できるようになり、台詞にリアリティを持たせることができるようになったよ。

Q: 始めから、この役をやりきれるという自信はありましたか?

OJ: いや、最初からというわけじゃなかったよ。撮影現場に入ってから最初の2日間は、もっとちゃんとやれる有名な俳優を起用すればよかったのにと考えてた。でもきっと、誰か別の人間が父を演じて、父ならこういうことをやったり言ったりしないだろうということをやるのを、映画館で目にするのは耐えられないと思った。映画は永久に残る。永遠に父について回るだろうし、N.W.A.のことを知らない若い世代の人たちがこの映画を観れば、ここに描かれている通りに受け取る。自分がやるしかないという状況だった。僕の兄弟たちは、いつも僕をサポートしてくれて、「やるしかない」と言い続けてくれた。時間はかかったけれどついにやり遂げたよ。

Q: お父さんはそのプロセスの中でどうされて、関わってきましたか? 

OJ:父は毎日、僕がトレーニングから帰ってくると、どんなことを学んだか聞いてきたよ。オーディションの時には僕をプラス思考の状態にさせるために、こう言ったんだ。「オーディションになったら、お前がその役に最適だということをその場にいるみんなに知らしめるんだ。そのことを主張し続けるんだ」ってね。それから、役を得てからも、父とは毎日電話で話をした。父は考えていることを話してくれるんだけど、それは映画のテーマやシーンと関係ないこともあったんだ。映画冒頭シーンの撮影時には、父は僕らと一緒にいてくれた。そのあとフロリダへ行ってしまったけど、スカイプで話をしたり、スタッフにパソコンを持たせたので、撮影の状況を見ることができたんだ。だから、父はずっと僕のそばにいてくれた。撮影現場では父の存在は恵みだったね。

Q: 他のN.W.A.のメンバーたちも、この映画に協力してくれましたか?

OJ: 協力してくれたよ。ドレーやイエラ、レンが常に側で支えてくれていた。ドレーは毎日撮影セットに来ていて、コーリー・ホーキンズがドレーの役に体当たりで演じるのを見ていた。コーリーの出番がなくてもドレーがいる場合もあって、本当に身近な存在で居続けてくれた。撮影の時、近くで彼らが笑ったりうなずいたり、音楽に乗ったりしているのを見るのは最高だった。彼らは、一度もN.W.A.のライブに行ったことがない!なんていうジョークを飛ばしたりしていたよ。

Q: あなたの役は、単に演技力だけでなく、あなたのお父さんのラップのスタイルやパフォーマンスを再現する力を要求されたんですよね。

OJ: 父と僕が一緒に音楽活動するようになって6年経つので、パフォーマンスのシーンには自信を持って臨めたし、どうすればいいのかちゃんと分かっていた。僕にとっては、演技が新たな挑戦だった。ラップも、父と一緒にステージ経験を大分踏んでいる。ミュージシャンで家族ぐるみの友人である、ダブ・シー(WC)が、ステージの上でどうやって動いて、どんな動作をしたらいいかなど、テクニックを教えてくれた。僕の父がグループでは最年少だったから、一番エネルギッシュで、ステージの上を跳ね回り、熱気を帯びていた。そんな父のパフォーマンス部分を演じるのは、映画撮影の中で一番楽しいことだったよ。ダブ・シーとF・ゲイリー・グレイのおかげで、アルバムを丸ごとレコーディングすることもできたんだ。

Q: 何故アルバムを再レコーディングすることにしたのでしょうか?

OJ: とにかくリアルに見せたかったんだ。一度、撮影中に、F・ゲイリー・グレイが僕たちの喉への負担をかけないように、口パクでやるよう提案したことがあった。でも、イージー・Eを演じたジェイソン・ミッチェルと僕は、「それはダメだ。口パクだと、動かない首の筋肉があるから」と異議を唱えた。結果として、この映画全体で僕たちは本当にラップをやっていて、本物のN.W.A.の音と僕たちによるレコーディング、それからステージでの僕たちのパフォーマンスを、絶妙にブレンドさせることができた。とにかく素晴らしい音が仕上がった。

Q: とりわけ、スタジオでのシーンがオリジナリティに溢れています。グループについての映画で実現させるのは、難しかったのではないでしょうか。

OJ: 僕たちがレコーディングの撮影に使ったのは、実際にある古い時代のスタジオなんだ。コーリーはどうやって機材を動かすのか覚えないといけなかったし、熟知しているように見せなければならなかった。アルバムのレコーディングは、映画の撮影に先だって行われたんだけど、そのことでゲイリーは仲間たちの間にケミストリーをもたらしてくれたよ。アルバムにはすごく強い思い入れがある。僕たちは、モーフィングするかのように、実際のメンバーたちに成り代わっていったんだ。僕たちがつるんでいるモンタージュ映像には、本物のケミストリーが感じられるよ。

Q: コンプトンでの撮影はいかがでしたか?あなたにとってどれくらい馴染みがありますか?ご自身が育った環境とは大分かけ離れているとは思いますが。

OJ: コンプトンにはまだ家族が住んでいる。みんながみんなバレーに住んでるわけじゃない。僕はバレーで育った。818(サンフェルナンド・バレーを表すエリアコード)やターザーナ、エンシノの辺りにも移り住んだ。コンプトンの人たちは、できるだけ映画にオリジナリティを持たせたいと望んでいた。愛情を感じているんだ。そこには、ブランケットに包まって屋根で寝ている人たち、僕たちの食事をケアしてくれた人たちが住んでいて、みんな家族だ。笑えるエピソードなんだけど、助監督たちがある時、バックグラウンドにいるギャングたちのうち、何人が雇ったエキストラで、何人が本物のギャングたちなのか、分からなくなったことがあった。僕たちは、スタッフたちがバックグラウンドの人間たちとやり取りするのを見て、ひそかに笑ってたよ。でもそこにはいつも愛があった。

Q: 映画の世界を飛び出して、N.W.A.へのトリビュートパフォーマンスをする可能性はありますか?

OJ: 僕はいつでも大歓迎だ!他の人たちはどう考えているか分からないけど。彼らもきっと同じ気持ちだと思うけど、少なくとも僕はいつでも来い、だ。実現させるために誰と話をすればいいのか分からないけど、カーラーとスーツケースの準備はしておくよ。

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執筆者

Yasuhiro Togawa

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