取材主義と漫画的飛躍が産み出す映画のリアリティ!映画『孤高の遠吠』小林勇貴監督インタビュー
【わたしの映画の創り方(1)〜ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016編〜】
『孤高の遠吠』という映画の存在を知った時、不良少年たちが出演した作品と聞き、勢いで撮った作品かと勝手なイメージを持っていた。
ところが実際本編を観ると偏見は5分で粉砕された。
家族が寝静まった中、静かに家を抜け出そうとする少年の姿。鍵を取ろうとして立てた音に凍りつきつつ、心臓漠々の中、脱出に成功し仲間と無邪気に合流する。自ら開いたドアが地獄の道への扉を開いたとも知らずに…!
繊細な冒頭から一転、観る者を笑いと恐怖、独特の言語感覚が炸裂する富士宮の迷宮に引きずり込む『孤高の遠吠』に楽しくも毒され、“独自の作品創りを続けている映画制作者たちの闘い方に迫るシリーズ”の第1弾として小林勇貴監督に登場願った。
何故実際の不良少年でないといけなかったのか。明確な意図と徹底した取材主義、映画や書籍、漫画から受けた影響がリミックスされることで、飛躍した映画的リアリティを産み出しているのが興味深い。
『孤高の遠吠』は、2/28のゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016のクロージングにてグランプリに選ばれたが、インタビューを行ったのはたまたまその前日の2/27。多分グランプリは取れないと思うと言っていた小林監督の姿が微笑ましく思い出される。
●未経験から映画を撮れと言われ、速攻撮影開始!
——映画を撮るようになったきっかけを教えてください。
小林:最近の映画はきれいな話にまとめようとするところが嫌で。昔の映画の方が強くて汚い話が多かったりするんですけど、その方がきれいな気持ちになると思ってたんですね。きれいなものを見せられると汚い気持ちになってくるのが嫌で。そうやって会社で毒ばかり吐いていたら、隣の席の上司から
「そんなことばっかり言ってるんだったら自分で撮ってみろ」って言われて。次の週にもう撮り出したという感じで。
——その行動力は凄いですね!それは今まで撮ったこともなくて?カメラなどの機材はどうされたんでしょうか。
小林:そうです。初めてで。カメラはその時持っていた一眼レフの動画機能で撮りました。
——どういうものを撮ろうとしたんですか?
小林:やっぱバイオレンスですね。人殺しがずっと走る映画をやりたいと思って。
映画も好きだったんですけど、映画監督が書いた本を読んだり映画にまつわる本を読むのが好きで。映画はどうやってできるのかと。
——影響受けた本はありましたか?
小林:最近だとカナザワ映画祭でやった対談が本になった『映画の生体解剖〜恐怖と恍惚のシネマガイド〜』(著:稲生 平太郎 、高橋 洋)が、めちゃめちゃ衝撃でした。
普通よくあるのは、ひとつの作品を掘り下げて行くことで映画の何かに触れようとするんですけど、例えば「手術台」とか、ある描写の共通項から映画を掘り下げていく儀式めいた話で。
『孤高の遠吠』では刺青を本当に入れるシーンがあるんですけど、スポットライトを一灯当ててやってるんですね。普通ライトを全部当てて煌々とした中でやりますよね。
——影が出来ると彫れませんからね。(笑)
小林:実はあれは手術台に見立てていて。ヤンキーの手術ってなんだろう?って考えて手彫りだ!と。あそこから一気に映画のドライブを掛けようとしてまして、そういう所に影響がありましたね。
1本目は仕事の休みごとに富士宮市に戻り、20分の作品を土曜日3回の撮影で撮り上げた。当日のドタキャンを恐れた小林監督は、「遊ぼう」と3人の友人を誘った。台本、機材、レンタカーも用意した。機材を見れば怖気付いて言うことを聞いてくれるだろうという小林監督なりのハッタリが炸裂する。
1作目を見た知人から「あんまりバイオレンスが怖くなかった。もっと気持ち悪いものを作って驚かせると思った」と言われ、「ぶっ殺す!」と奮起。2本目は「気持ち悪い」をコンセプトに1本目を撮り終わった翌月に開始。手先の器用な友人が爪の中を針で刺すと爪が割れて血が飛び出す造形物を粘土で作ってくれた。ヒーロー妄想と殺人妄想にかられた男たちが事故物件でぶつかり合う話。1本目の作品を観た友達たちが手伝ってくれ、2ヶ月間毎週土曜に撮影を続けた。
出来上がった40分の作品はWEBにアップし、facebookで告知して地元の中で広げていったという。
——勧めてくれた上司の反応は?
小林:結構厳しめで「まったくもって辻褄が合ってない」「気持ち悪いと思うことを数珠繋ぎにしただけ」「話のつながりとしては崩壊している。まだ映画ではない」と。
特に映画好きという上司ではなかったとのことだが、この冷静な意見がその後の作品作りの更なる原動力になって行く。小林監督はこの時点では映画祭などと言うものが存在することを知らなかったという。
●『孤高の遠吠え』につながる事件との出会い
小林:3作目の脚本を書こうとした時にで『孤高の遠吠』につながる出来事がありまして。
友達が不良に拉致されてリンチされたということがありまして。山に連れて行かれて石で殴られて耳が半分取れかかったと言う事件で、新聞にも載って。自警団的な行為をそいつがしていて。それで不良に目をつけられたんです。
——自警団はどんなことしていたんですか?
小林:そんな立派なもんではないですね。活躍の場がほとんどないですから。ドンキホーテとか不良が集まる所に行って車の中から睨む(笑)
——それだけで目をつけられた?
小林:そうですね。不良の殴った方にも話を聞いて、両方の話を聞いたら、自分が正しいと言いたいからどっちも正しく聞こえるんですよね。どっちも気が狂ってると思って(笑)
——そこで両方に話を聞こうという行動が面白いですね。殴った方に聞きにいくのは怖くはなかったんですか?
小林:特には。新聞にも載って金も支払って罪を償って、そんな状態でさらに暴力もないだろうということで話を聞きました。
——それで映画になると手ごたえが。
小林:そうですね。不良にリンチされるシーンを本当の不良でやりたいと思って。不良でない友達に不良の演技をしてもらったら、偏見でやると思うんです。
——自分が思ってる不良像みたいな?
小林:それって差別ですよね。小学生が障害者の真似をするような下卑た行為と同じようなもので、想像しただけで許せない。本物を呼びたいと思って。呼んで貰ったのが友達のコネで富士宮市の隣の御殿場から来てもらって、御殿場の不良にリンチのシーンを撮らせてもらって。
——リンチのシーンは当ててはないんですか?
小林:当ててはないですね。でも引きで撮ってるんで。声とかも良かったですね。「ウオォラーーッッ!!!」みたいな(笑)
——普段出さない人からは出ないような(笑)
小林:出ないですね。ちょっとしゃがれたような。カーチェイスもちゃんと撮って3作目『Super Tandem』は評判良かったです。
●『NIGHT SAFARI』始動!まずは取材から
小林:すぐに4作目を撮ろうとした時に、弟が暴走族の(※)副総長だったんですけど、地元の不良グループから「なんで御殿場の不良を使うの?俺たちが近くにいるのに。お前兄貴に言って一緒に映画撮ろうって言えよ」って話があったらしくて。「撮りたいって言ってるんだけど」って。
※現在は引退している。
——弟さんとは仲が良いんですか?
小林:そうですね。元々仲良くて。
——お兄さんとしては暴走族をしてるってことに対してはどうだったんですか?
小林:俺はちょっとイヤでしたね。
——小林監督は意外に真面目な感じなんですか?(笑)
小林:勉強は出来ないですけど、普通に高校に行って、普通にやってました。弟はチャランポランで(笑)
——でもそうやって弟さんから声がかかって。
小林:それでじゃあとなったんですけど、不良のイメージで脚本書いたら、さっき自分が言った嫌悪してる差別と変わらないじゃないですか。
だから話をまず聞かなければと思って。3作目と同じですよね。
——聞いたところから話を作って行こうと。
小林:そうです。まず不良に対して全く共感が出来なくて。なんか理由をつけて断ろうぐらいに思ってたんですけど。3作目の不良を呼んだ時も大変で(笑)
——そうだったんですか。どんなところが大変で?
小林:三脚伸ばしてたら、三脚は三本だから一本脚伸ばして、二本目伸ばしてたら、「おい!いつまでやってんだよ」みたいな(笑)。三脚だから三本、見りゃわかるだろって話ですけどね(笑)。それで三脚なしでやるしかなくなって、脇を締めてカメラ構えて。本当に大変で(笑)
——やはり気が短いんですね(笑)。そういう大変さが身に染みていたから、どうしようかなって感じだったんですか?
小林:そうそう。でも話を聞いていたら、武勇伝みたいなのばかり聞かされるのかと思っていたら、先輩から受けた被害話が凄い多くて。定期的に悪者探しみたいなのが行われて、悪者に該当した人間に対して制裁行為を行うってことが頻繁に起きてて。
——それは力の強いグループがあって、といったことですか?
小林:先輩ですよね。「お前らのなかで○○っているんだって?ちょっと捕まえて来いよ」みたいな。
——映画の中であった感じですね。
小林:そうそう(笑)。みんなで捕まえてリンチするっていう。話を聞いて思ったのは、例えばベッキーとか、佐村河内とか、小保方さんだったり定期的に現れる悪者を敵としてみんな同じことをしてますよね。これは映画に出来ると思いました。普段自分が気に入らないと思ってることと不良の中で起きてることが大袈裟ですけど、社会の縮図みたいな。観た人にもそれを否定してるってことが分かってもらえるんじゃないかなと。それで撮りたくなって。御殿場市の不良と違って結構みんな優しかったですね(笑)
——お兄さんというのもあるかもしれないですけどね(笑)
小林:みんながアイディアを出してくれて、喋り方ひとつにしても大喜利みたくなるんですよ。こうした方が面白いって。一番ウケたアイディアを使うんですよ。それはやり甲斐がありましたよね。
——それは盛り上がる現場になりましたね。
小林:物凄い盛り上がりましたね。脚本書いて持ってくるんですけど、現場で笑いが起きなかったら使わないんですよ。
それが4作目の『NIGHT SAFRI』です。
●強制参加型反抗映画の強度を高める
小林:3作目、4作目と2015年に撮って、映画祭の情報は誰かに聞いたのかな。え?あるの?みたいな(笑)
3作目『Super Tandem』がぴあで入選、4作目がTAMA NEW WAVEに入選して、カナザワ映画祭でグランプリもらって。凄く嬉しくて。Facebookで報告をしたら不良たちが見るじゃないですか。シェアがすごくて。メッセージで急に刺青の入った少年の写真がポンときて。仰天するじゃないですか。何これ!?と思ったら「俺を映画にどうですか」売り込み?みたいな(笑)
みんな顔が良くてインパクトも強くて。4作目は抑圧者の姿を描かずに電話の向こうの存在として描いたんですね。
先輩って言う概念そのものが存在してそれに逆らえず動き回る人たち。抑えつけられて、それでも意思を貫く人の話にすれば、誰もが共感できる。同じことですよね。4作目作った時と。それでやろうと思ったのが『孤高の遠吠』です。
——『孤高の遠吠』で今までの経験から更に工夫したところは?
小林:3作目はカメラの影が入っていようと、カメラマンが写っていようと、カメラマンは存在しないというていで強引なことをやって。4作目はかっちりと言うか「映画」をやってみようと挑戦しました。
『孤高の遠吠』では、カメラマンが存在しないのに一緒に車から降りたり乗ったりといった画を演出として撮りつつ。
今までやったこと全てを合算して。その撮り方で出て来る暴力性とか恐ろしさがあるはずだと思ってやりましたね。
——あっちゃん先輩がでてくる主観のシーンも印象的ですね。
小林:そうですね!あと車に突っ込んで中に連れ込まれるのも真ん中にカメラを置いて一緒に。
——撮影は監督と他の方?
小林:そう。手の空いてる不良の子にやってもらったり。
——皆さん割合スムーズにこなしてくれる?
小林:そうですね。でも俺結構うるさいんで。アングルとかはこだわりがあるんで、「いや、違うんだよ」って。
——いろいろ印象的なアングルもあったし、バイクで走っているシーンもカッコよかったと思いました。
小林:画のかっこよさには物凄く興味があります。
本当に小さい頃からずっと写真撮っていて。インスタントカメラで景色ばかり撮ってましたね。
——あとはデザイナーをされているということで、ものの配置に拘ったりということもあると思うんですけど。
小林:ああ、そうですね!そもそも生理としてそういうところがありますね。
——最初聞こえてくる映画の表面上の評判とか、煽りで言っていることの印象から、勢いで撮った映画なのかなと思ってましたが、実際拝見すると印象は一転して、きっちり撮ろうとしているなぁと思いました。
脚本はどのように書かれましたか?
小林:同じように取材で集めたことで、やりたいことをやろうとして、邪魔が入りながらも貫き通す男の話があったので、それを一本軸にして。事件を集めるじゃないですか。それを全部プリントアウトして、小さい紙にして、頭の中で映画の時系列順にして、これとこれは別の人から聞いてた別の事件にも関わらず、重ねると面白いなという感じで。
——組み合わせを作って行って。
小林:そうです。それでシークエンスが出来ちゃうじやないです。でもそれだけだとガタガタしてるんで自分のイメージと発想で舗装して。貫く男の話に。でも貫く男だけがいても今は合わない。後輩四人いたと思うんですけど、見せるべきはあらゆる可能性があって。
——中でもリョウタが凄く見てて面白かったですね。
小林:嘘つきのリョウタ(笑)
——小狡い感じが(笑)
小林:人と会ったことで変化していくんですよね。
——事件によって関係性が変化していく。強くなったり弱くなったり。それが凄く面白かったですね。
小林:ありがとうございます。そういうこともやりたかったんで、貫くのが1人いて、服従したり武器になってしまったりということを考えて。そうすると、誰かは必ず4人の中の誰かじゃないですか。強制参加型反抗映画と謳っているんですけど、強制度が増すだろうという(笑)
脚本はすぐ出来ましたよ。
——軸がはっきりしてたから作り易かったんですね。
小林:はい。少しずつ取材していって、合計十数名になりました。全体のイメージの決め手になった取材があった翌週には脚本が完成したという感じです。
——取材は富士宮の人に?
小林:富士宮と隣町と大体若い人で。
——何才くらいの人ですか?
小林:十何才とか、二十一、二とかですね。
——「取材したい」って感じで話を聞くんですか?
小林:そうですね。ご飯でも行こうよって感じで。俺も面白い話してよって言われるのが一番嫌いなんですけど(笑)
やり方としては生い立ちから聞いちゃうんですよ。自分のエピソードとして話するんで。キャラクターの造形も楽になりますし(笑)
「そん時にこういうヤバい人が出てきたんですよ」(笑)。話をして聞いていくと、ヤバい人がまだ居るの?ってくらいどんどん出て来る(笑)
4人の話にヤバい人がどんどん出て来て押さえ込もうという肉付けが増えていって。
——面白いエピソードはたくさんあったと思うんですけど、採用したものと捨てたものはどういう基準でしたか?
小林:本当にバランスですね。捨てたものでユニークな先輩は一杯出てきたんですけど、取材でびっくりしたのが、話してる時に「見ろよ」って足元見せられたら、玄翁(げんのう)っていう大工が使うトンカチをガムテープで巻いてあるんですよ。「何でこんなことしてるんですか?」って聞いたら「グフフフッ」って教えてくれないんですよ。コワイ(笑)。別の子に取材した時に聞いたら、「○○先輩のことだ」って。「ちなみに俺その玄翁使っているところ見たことありますよ」(笑)。どう使ってたか聞いたら、リンチをしようとした時に走って逃げた奴に向かって投げて足に当てて捕まえたそうです。インパクトは強いんだけど、バランスが崩れると思うところがあって捨てました。
——また他の映画で使えるかもしれませんしね。
小林:そうですね。使えるかも。映画としてのバランスなら面白さを優先した方がいいと思うんですけど、軸からブレるものは捨てましたね。
●『孤高の遠吠え』には『シグルイ』の影響がある
——音楽の使い方が面白いなと思いました。いろんなジャンルのものを使ったり、思わぬところでクラシックが出てきたり。ああいう感覚は監督ご自身のセンス?
小林:そうですね。撮ってる時に頭の中で流れることがよくあって。でもクラシックの強さは半端じゃないから、後からクラシックを使おうと思ってもカットをその通りに撮ってないから成立しないんです。最初から完全に想定していないと使えないですね。
ラストのカーチェイスで太鼓を打ち鳴らされる、あそこは色々悩んだんですけど、例えば緊迫した中でクラブミュージックのEDMとかが流れれば面白いかなと考えたりもしたんですけど、イヤ、野蛮な太鼓を打ち鳴らせ!と。
色々あるんですけど、掛かった瞬間に自分のテンションが上がるような音楽を使うようにしていて、自分の感覚は信用していますね。
——各キャラクターや場所とともにタイトル?が出て来るじゃないですか。あれは漫画のような構成の仕方だなと思って。音楽の使い方も漫画における文字の擬音にあたる使い方のようだなって観てたんですよ。それが面白かったですね。
小林:嬉しいですね!俺、映画監督になろうと思ってなかったんですけど、実は漫画家になりたかったんです。
——好きな漫画家は?やはりバイオレンス系ですか。
小林:山口貴由の『覚悟のススメ』とか『蛮勇引力』、あと『シグルイ』ですね。
——『シグルイ』は最初絵にひいてたんですが、読んでみるとめちゃくちゃ面白くてはまりました!
小林:場を盛り上げるために誰か殺される(笑)。あの人が凄く好きですね。
——とにかく強いですよね。絵とストーリーが。
小林:あの人の漫画を物凄く参考にしていて、対照的な人物が最後に闘うと言うのがスタイル。運命のように対照的な思想を持った人物同士が運命のように引き合わされて、結局闘わないといけなくなると言うのが『シグルイ』なんですけど、『孤高の遠吠』もずっとバイクに乗りたかった男と、どうしてもそれを許せない男。あれだけ人がいる中で対照的な2人を最後に残したかった。俺はそれを考えただけで涙が出て。それは本当に『シグルイ』からですね。
——実際漫画を描いたりはしなかったんですか?
小林:いや描けないですね!目から描くんでその辺だと上手いねとか言われるんですけど、実際は服のシワとか難しいし、パースが全然ダメですね(笑)
たまに頑張って描いたりしてイメージの中にあるポーズと似たコマを探してトレースしてみたり。
——特に絵コンテ的なものは描かず、アクションを演出する時は出ている方におまかせといった感じでしょうか。
小林:おまかせではなくて、お互いに意見をだしあいますね。あ、でもバイオレンス漫画が好きなので、それ漫画ですよってよく注意されて。(笑)もっともっと泥仕合になる。でも最後のボス級の奴らが闘うところは大技の出し合いにしようって。
——ああっ、最後のバトルで蹴りが入るところはむっちゃカッコ良かったです!
小林:うわーよかったです!(笑)
——本当に入ってる?なんて思いながら観てました(笑)
小林:ドロップキックは当たってますね。来いよ!って行ってました。(笑)本当にぶっ飛んで行って。
台詞にしてもアクションにしても、アイディアを出し合ってみんなで大喜利みたいにここからどうする!?って。
——そのせいかもしれないんですけど、拝見してて、結構ゲラゲラ笑いながら観てたんですよ。やり取りのタイミングとか、言ってることがすっごい可笑しくて(笑)
やはり頭の中で一人で考えるのと違って。
小林:みんなで共有した方が。監督の役割はそこで崩壊させなければ。いかなる突拍子もないアイディアを上げていても、さっきの脚本の取捨選択じゃないですけど、それと同じことをすれば崩壊はしない。雪崩れのようなアイディアが出てきて、本当に楽しかったですね!(笑)
——出演者が居なくなったり大変だったというのを聞きましたが。
小林:そうですね。色々な理由で消えて行きましたが、暴走族の映画を撮っているのに暴走族対策課が出来上がって、毎週誰かが捕まるという事態に(笑)
ちなみに警察って次誰が捕まるって噂を流すらしいんですよ。「来月の頭辺りに俺もうパクられるみたいなんで、俺の撮影を前倒しした方が良いかもしれないですよ」(笑)
——責任感のある発言ですね(笑)
小林:みんなで作っているっていう感じでしたからね。
——時間と戦いながらの撮影になったわけなんですね。映画制作には何人ぐらい関わってくれたんですか?
小林:合計46名ですね。
撮影終わって数日してから20何名まとめてパクられたので。撮影中に半分近くパクられたから、ほとんど全員捕まって(笑)
あとトラブルで失踪したり。
脚本は完成してたんですけど、失踪したバージョンに書き直して、土日月の三連休で撮影で、土曜に失踪したことが分かって、日月で脚本を書き直して。
——作品を観ると、最後の撮影には間に合ったんですよね。
小林:間に合いました。取り返しに行くシーンは2人で。
——あのシーンの音楽の入り方とか鳴り方は最高潮に血が騒ぎました。
小林:歯向かう瞬間が大好き。逆らえなかった者が反旗を翻すのが、もう泣けて仕方ない。(笑)その瞬間にドコドコ野蛮な太鼓の音が流れて“ふざけんじゃねぇ”とか文字でも出しちゃって。
——ラストはカタルシスよりも、独りで続けることの辛さや孤独があの静かなシーンにあって。
逆にそれが良かったですね。
小林:ああ、良かったです!あれが遠吠なんで。
●悪者集めて闘う。まさに『ワイルドバンチ』ですよ(笑)!
——出来上がって手伝ってくれた皆さんの反応はいかがでしたか?
小林:物凄く喜んでくれて嬉しかったですね!地元の富士宮の人に先ず先行して観せて、その時はネットにアップしてて、それがどんどんシェアされて行ったんですね。中学生には一切DVD配ったりはしてなかったんですけど、富士宮の中学生の中での社会現象が起きて。俺はあれを超えるものを作るんだ!って言う奴がいて。超長い滑り台があるんですけど、そこを自転車で駆け下りるっていうのをやって腕の骨を折ったって聞いて(笑)。訳が分からねえ。でもよくぞ折ったぞ(笑)。大事にしなさいって感じで。
——暴走族に行くんじゃなくて、何か作らずにはいられなかったがいいですね!(笑)
小林:バイクじゃなくバイセコーで(笑)
地元の中で聞いた中で嬉しい反響はそれでしたね。
——この作品はどうやって広げていったんですか?
小林:24時間限定で公開用のURLを作って「新作観せます」ってTwitterにアップしたら、みんながリツイートしてくれて。その中でカナザワ映画祭の方がアップして数時間後に観てくれて「最高だったからウチをプレミアに」って。整音やポスターデザインも資金を出してバックアップするって言ってくださって。大好きな映画祭なので有難く受けて、カナザワ映画祭がプレミア上映になりました。
——そこまで言われたら最高ですね!プレミア上映の場はいかがでしたか?
小林:毎回自信作ではあるし、渾身の「見晒せボケ!」って気持ちだけど(笑)、反響はどうなのかなと。不安なところもあったんですけど、上映終わって「ありがとうございました」って挨拶したら、お客さんの中で興奮した何人かが「ウォォーッ!!!」。俺も嬉しくて「ウォォーーッ!!!」でもうゴリラのやりとり(笑)
——それだけ本能的なモノに響いたってことなんでしょうね。
小林:嬉しかったです。そこで観ていたアップリンクの人がうちでもやろうよと言ってくれて。どんどん繋がって行って京都のみなみ会館もそうですね。新潟のシネ・ウインドはカナザワ映画祭で観てくれた人たちが映画館に持ちかけて企画を通してくれて、映画館から話が来て上映になりました。
——それはお客さんの熱が凄いですね!ゆうばり映画祭は何故応募されたんですか?
小林:実は3作目と4作目が落とされてて、ファンタスティック映画祭で俺の映画落とすってダメだ!と(笑)
——落とされた方はみんなそう思うんですよ(笑)
小林:『孤高の遠吠』はキングオブファンタスティックだと思ったので、「今度こそ見晒せ!」と思って(笑)
カナザワ映画祭をプレミアにするためにそれ以降にある映画祭じゃないと応募できないのもあったんです。
——その結果、オフシアター・コンペティション部門に選ばれたわけですが。
小林:コンペに入って良かったです。
——どんな結果になるか楽しみですね。
小林:200万よこせよと思いますね(笑)
——もしグランプリになったら支援金はどうやって使いますか?
小林:ノーギャラで不良たちに出てもらってるんで、みんなで勝ち取った銭公なので分配します。俺がもちろん多く貰いますけど。パソコンも新しいものが欲しいので。ケンカのないように(笑)ケンカするでしょうけど(笑)それが夢ですね!
言い方悪いですけど、金絡みの賞って金を渡しやすい作品に行きますよね。いろんな協賛があっていろんな思惑の絡んだ金だから。一番優れた作品というより渡しやすい作品に行きがちだから、また貰えないんだろうなと思いながら(笑)
——そこは結果を見てみないと分からないですが(笑)
小林:賞金稼ぎみたい。悪者集めて。ワイルドバンチですよ!(笑)
——映画に出たことでみんな何か変わったことはありましたか?
小林:ないですね。世直しではやってないんで(笑)
ですけど、この中で演技が上手い人もいるんで、Vシネなりをきっかけに芸能の世界に行ってくれる人が出たら、それこそ監督の誉れになるので(笑)
入ったら入ったでシャブが心配だけど(笑)
そういうことがあれば良いなと。
——次の作品はどんな予定ですか?
小林:半分以上撮っている。今まで取材したことを映画にしていたが、俺が思い付いたことを不良たちに投げかけてみて、こんなやつらがいたらどうするの?と。引き出しから引き出してたものを、俺が引き出しに入れてみて、反応見るということをやっていて。ノンフィクションというより、今度はフィクションをやってみようと。
——やり方を毎回少しずつ変えて行ってるんですね。
小林:孤高の遠吠が評判良かったからといってまた同じことをするのは馬鹿なので。そこで止まりますよね。今回観て期待してくれた人が、次のを観て「あれ、違うぞ?」となるかも。その反応も非常に欲しいし価値がありますね。
執筆者
デューイ松田