本作はナチスドイツの手から逃れた8歳のユダヤ人の少年が、スルリックというユダヤ名を捨て、ポーランド人孤児ユレクとして、たった一人で森に潜み、食べ物を求めて農村を渡り歩きながら3年もの月日を生き抜いた実話を基にした感動作。

原作は1996年に国際アンデルセン賞*を受賞し、自身もユダヤ人強制収容所や隠れ家生活の体験者である児童文学作家、ウーリー・オルレブによる『走れ、走って逃げろ』(2003年 岩波書店)。イスラエル、ポーランド、ドイツ、フランスでの公開に続いて日本でも公開されることを知り、大変嬉しいとコメントしている。

*国際アンデルセン賞:児童文学への永続的な寄与に対して贈られる賞。「小さなノーベル賞とも言われる。

監督は1994年に『Schwarzfahrer』(黒人のドライバー)でアカデミー賞短編実写賞を受賞したペペ・ダンカート。原作との出会いを、「見る者の記憶に20年後も残り続ける映画となる素材を見つけた瞬間」と語っている。

過酷な運命を力強く、前向きに生き抜く主人公役をアンジェイとカミルの双子の兄弟が愛らしい笑顔で演じきった。

ペペ・ダンカート監督オフィシャルインタビューが到着した。





Q:原作との出会いを教えてください。

長い間、脚本を読んだだけで鼓動が早くなるような、パワフルな題材を探していました。単なるよくできたエンターテイメントではなく、史実に即した深い感動を呼ぶ素晴らしい物語であり、新しい視点から語られた物語。あらゆる努力とあらゆる賭けに値する映画となり、観る者の記憶に20年後も残り続ける映画となる題材。ウーリー・オルレブの実話にもとづいた小説「走れ、走って逃げろ」(母袋夏生訳 岩波書店)と出会った時、私はそんな題材を見つけたと確信しました。私はこれを子供向けの映画にしたくはありませんでした。子供から大人まで、誰にとっても素晴らしい映画体験にしたいと考えたのです。

Q:主人公役の少年は、どうやって見つけましたか。

1年以上かけて、700人以上の子供をオーディションしました。ヨーロッパ中を探しましたが、私は映画の登場人物はすべて自国語を話すべきだと考えていますので、必然的に英語圏は対象外になりました。アンジェイを見つけたのは、ワルシャワでのオーディションです。彼は自分が選ばれた後、双子だという秘密を教えてくれました。 

それを聞いて、リハーサルに双子のカミルを連れて来てもらったのですが、彼を見て驚きました。カミルもアンジェイに負けず劣らず才能豊かだったからです。さらに数日後には、二人の性格の違いを悟りました。なぜなら私自身も一卵性双生児で、彼らの年頃の心理が手に取るようにわかるからです。なんという偶然でしょう! 

カミルは内向的で、いつでも涙を流すことができ、アンジェイは外交的なファイターで、これまで泣いたことがないような子です。二人を使い分けることで、幅広い感情を表現することができました。カミルが繊細なシーンを、アンジェイがアクティブなシーンを演じたのです。

Q:主人公のモデルであるヨラム・フリードマンとは何を話しましたか。

最初にフリードマンと会ったのは、映画化の権利を買い取って間もない2011年です。彼への最初の質問は、「あなたにあれほどの危害を与えたドイツという国の監督が、あなたの人生を映画化することをどう思いますか」というものでした。彼は、「私は違う世代の者であり、父親の世代が持つ重荷を背負うことはないが、危害を加えた国の人々が、その相手の映画を撮ることになったことに満足感を覚える」と答えました。さらに彼は、「ドイツ人が作るという重荷が、作品を良いものにするだろう。アメリカ人は間違いなく、安っぽい物しか作らないからね」とも言っていましたね。

Q:観客へのメッセージをお願いします。

この映画を観た人は皆、ユレクに感情移入するでしょう。誰もが彼に対して畏怖の念を抱き、尊敬で心を動かされ、彼と共に嘆き悲しむでしょう。初めて原作を読んだ時、私もそうでした。
これは一人の少年の旅の物語です。彼は一夜にして独り立ちし、生き延びる術を身につけなければなりませんが、実際はまだほんの子供です。これはあらゆる戦争の悲惨さ、残虐さを表した物語であり、それに屈せぬ者たちの、そして自分の命を犠牲にしてでも死の淵にいる人を助ける者たちの話でもあります。私はそんな真に迫った心を打つ物語を、悲観的にならずに語りたいと思いました。
これはスルリック=ユレク=ヨラム・フリードマンの真の強さと、希望と勇気の物語なのです。

執筆者

Yasuhiro Togawa

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=53145