1997年『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞して以来、2003年の『沙羅双樹』(コンペティション部門選出)、そして2007年には『殯の森』でグランプリ(審査員特別賞)受賞と、作品を発表するごとに世界の晴れ舞台で注目を集めてきた映画監督・河瀬直美。

$red ●監督は奄美がルーツだそうですが、改めておうかがいしてもいいでしょうか? $

奄美は母方のおばあちゃんが生まれたところで、それを聞いたのが2003年だったので、そこからずっと行きたいと思っていました。その後、実際に奄美に行けたのが2008年でした。すごくいいところだったので、ここで映画を撮りたいと思い、2013年に撮影することができました。奄美は、人がよかったです。もちろん景色も海も自然も素晴らしいけれど、人。ユタ神様を信じて、8月踊りを継承している。すごいなあと思いましたね。

$red ●映画では、自然と人間と神様の共存がテーマでした。 $

はい。奄美のことを書いたある本に、最期は家で亡くなる、奄美には病院に霊安室がないと記してあって、人々が本来生きるべくして生きている土地なんだなって思いました。実際に行くと、自然を神様だと思って生きている人たちや、結(ゆい)の精神、つながることを大事にしている。そういうことに共感しました。

$red ●反対に知ってショックなことはありましたか? $

嫌だなって思うことはなかったです。わたしは海が怖かったんですけど、実際に潜ってみると、界人(かいと)みたいに知らなかっただけだと思いました。ここにいると土地のひと同様、自然をないがしろにすると、神様が怒るのだということを疑わない感覚になります。風葬の場所なども実際にあるので、興味本位で立ち入るのはやめたいですね。





●今回、映画を撮るにあたって、どういうコンセプトで臨みましたか?

奄美の自然と、そこで生きる人間のありようを、次の世代に託せるような映画を作りたいと思いました。映画を観た人をはじめ、自分自身もそうですけど、人間本意の生き方ではない生き方を再確認する必要があると思って。生きる上で本当に大切なことは、何なんだろうということを考えていました。

●監督が見出した村上虹郎さんと吉永淳さん、キャスティングのポイントは?

奄美の自然に負けない存在感があることでした。特に都会の中で生きていると彼らの言動は過剰にも見えますが、奄美の自然の中では、なにものにも負けない、めげない、向き合うという存在であることが大切でした。その強さが「生きる力」を表現するのに適していました。最終的には奄美まで来てもらって、泳いでもらったことで決まりました。きれいでかわいいだけじゃダメで、不器用でごつごつした「生命力」が重要でしたね。

●初恋を表現する要素も重要でしたか?

そうですね。初々しさも重要ではありました。特に虹郎君は演じることが初めてでした。村上淳さんとUAの子どもなので芸能活動は垣間みていても、自分が演じることで知った困難もあるはずです。それらが初恋を表現する不器用さにも表れていたと思います。

●ところで、新作がいつも国内外の注目を集めますが、それはプレッシャーですか?

特にプレッシャーを感じることはありません。こつこつと自分の道を歩いているだけです。その先にここ何年かの製作にはフランスの資本が入りはじめ、『2つ目の窓』にはスペインも参加してくれました。また、次の作品『あん』ではドイツも入ってきてくれています。日本には日本独特の価値感があるので、引き続きそれを探求しながら制作は続けてゆきます。『萌の朱雀』(97)がカンヌで評価されて、その後日本で再評価された現象を客観的に見ていました。だからといって、カンヌを目標にするわけではなく、自分の作品が国境を問わず世界の多くの方に観ていただけるように続けてゆければいいなあと思います。

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発売元・販売元:ポニーキャニオン

執筆者

Yasuhiro Togawa

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