2011年の第24回東京国際映画祭のコンペティション部門において最高賞を受賞し、日本でも小規模公開ながら大ヒットを記録した映画『最強のふたり』から3年。『最強のふたり』の監督と主演のオマール・シーが再タッグを組んだ期待の最新作が12月26日、ついに公開する。

<ストーリー>
 フランスに来て10年のサンバに、国外退去命令が出ていたことが発覚する。職場を追われ、表立ってはこの国にいられないサンバは、移民支援ボランティアのアリスと出会う。燃え尽き症候群となり、大企業を休職中のアリスは、人生最大のピンチにも関わらず屈託ない笑顔を向けてくるサンバに興味を抱き、彼を救おうとする。周囲の個性的な人々も巻き込んだ、ふたりの風変わりな関係は、ある日、サンバの身に起こった出来事で、思いもよらぬ方向へ進んでいくー。


『サンバ』オリヴィエ・ナカシュ監督インタビュー

—アイディアはどこから?

「元のアイディア自体は『最強のふたり』以前から具体的ではないけれど考えとしてあった。そして『最強のふたり』の公開後に、たまたまフランスで「フランスに捧げるサンバ」という小説が発売され、その内容もたまたま自分たちが描いていたものとスタートが同じだったんだ。それがきっかけで『サンバ』を映画化しようと思ったきっかけ。ただ、もちろん小説に沿っているだけじゃなくて、例えばアリスみたいにオリジナルのキャラクターや設定を作ったりして自分たちの作品をつくりあげた。」

—『最強のふたり』が大ヒットしたことを受けて、作品づくりに対する意識の変化はあった?

「『最強のふたり』が東京国際映画祭でグランプリに輝いた日は、実はフランスでの公開日と同じだったんだ。フランスでもまだ公開していないのに遠い日本からそのような朗報を受けた時は正直実感がわかなかったけど「これはきっと何かの兆候だ」と思った。実際にそれから様々な国でヒットしたし、日本は兆候が起こった最初の国だったから非常に重要な国だと思っている。ヒットした後、確かに二人で「このあとどうする?」という話になったが、二人ということで心強かったこともあり、これからも自分たちのやってきたことを信じて作品を作ろうと思えた。だから次の作品も社会問題を題材にして、且つこれまで5回に渡って一緒に仕事をしてきたオマール・シーと自分たちの作品をつくりあげたいという思いで『サンバ』が出来上がったんだ。」

—『最強のふたり』の監督と主演オマール・シーの再タッグということで、ファンの期待も大きいと思うが今作に対するプレッシャーはあった?

「『サンバ』は前作の期待に答えよう、という気持ちで作った作品ではないが、確かに前作がヒットしたのである程度のプレッシャーはあった。僕たちにとって『最強のふたり』がヒットしたことは「ブルターニュ(岬)の灯台」のようなものであり、いつまでも先を照らし続けてくれるものだ。『サンバ』も日本のみなさんがどのような反応をしてくれるのか非常に楽しみにしている。パリのような大都市でこんな現状があるんだということを分かってもらえたらいいと思う。移民の収容所やゴミ分別所などこれまで誰も撮影したことのないような場所でも今回は撮影しているので、こんな世界があったんだと思ってもらえたらすごく嬉しい。前作でも日本の観客のみなさんから様々な感想をもらったが、距離的にも文化的にも大きく異なっているのに、こんなにも共感してもらえてよかったし、これは政治よりもユーモアの方が効果的だということなのかもしれません。」

—アリス役を演じたシャルロット・ゲンズブールを起用した理由は?

「彼女といつか一緒に映画を撮りたいと思っていた。まず本格的に脚本を書き始める前にシャルロットと会って話をしてみたら、彼女は「私にそんな役ができるかしら」と不安そうだったが、「私達に任せてくれ」と頼んだら快く承諾してくれた。シャルロットはキャリアのある大女優で、オマールはどちらかと言えば大衆番組で人気のある人であり、お互いにまったく別のキャリアを歩んできたふたりが組んだらどうなるんだろうという期待を込めて起用したところ、非常に良い作品に仕上がった。撮影秘話だけど、オマールとシャルロットのキスシーンで、シャルロットはキスシーンにも慣れていたが、オマールにとっては初めてのラブシーンだったのでオマールがすごく緊張していたりということがあって、すごく楽しい現場だった。」

—キャラクター設定はどのように決めていった?

「キャラクターはただ自分たちで構想を練ったのではなく、実際に沢山の研究や調査をして設定していった。例えば燃え尽き症候群を患っている人が治療している施設に行ったり、移民や不法滞在者の支援団体を訪れたりした。僕たちは現実を見ないままで嘘を書くようなことはしたくなかったので、実際に訪問して、そこにいる人達からインスピレーションを受けることでそれぞれのキャラクターを描いたんだ。」

—テーマの一つにもなっている「サンバの笑顔」が劇中でもたらしている効果は?

「オマール自身、生まれながらにして光り輝くものを持っている太陽のような人なんだ。その笑顔を今回サンバというキャラクターによって深く掘り下げていった。彼は偉大な役者というものとは別に、天性の才能を持っていたので、そんな彼を想定して脚本を書いて、彼を主演にして撮影ができることは本当に幸せなことだと思う。彼は何度見ても飽きることがないし、本当に素晴らしい役者だと思っているよ。」

—監督が『最強のひたり』や『サンバ』のような作風を描くようになったきっかけは?

「3週間かけて行われるサマーキャンプに長らく携わってきたが、そこで最初は仲が悪かったのに気づいたら仲良くなっていたというように、人々が共同生活を送っていくことで起こる変化を目の当たりにしてきたので、人々の関係や心の変化という部分に興味を持ったのだと思う。フランスでは経済危機があったり、右翼が台頭したりと深刻な問題がありながら、明るい部分も存在している。社会問題は必ずアイデンティティの問題に行きついて、自分と違う他者を排斥しようとしたりする。なので、私は映画を通じてそのような世の中でも希望がもたらせる作品をつくりたいと思った。それまで他者だと思っていた人でも、接していくことで明るさがもたらせるというようなことを描きたかったので、僕たちは人間を通じて希望をもたせられたら良いと思っている。」

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監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
出演:オマール・シー、シャルロット・ゲンズブール、タハール・ラヒム
配給:ギャガ
(C)2014 Splendido-Quad Cinema/Ten Films/Gaumont/TF1 Films Production/Korokoro
12月26日(金)TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

執筆者

金子春乃

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映画『サンバ』公式サイト