爽やかな秋の行楽の季節、『変態まつり』に行こう!

 「最近、ぬるい映画ばっかりで面白くなくない?」
「映画って、人生踏み外しちゃうような勢いがなきゃ意味なくない?」
という高らかな宣言とともに、アップリンクにて11/1〜2の2日に渡って小口容子プロデュース『変態まつり 第4弾』が開催される。

 今回一際目を引くのは、実験映画作家クルト・クレンが、‘60年代の過激なアートムーヴメント“ウィーン・アクショニズム”の顔オットー・ミュールとギュンター・ブルスのショッキングなパフォーマンスを収めた短編集『Action Films』。

 その他、ゾンビ・ゲイ・ポルノムービーという珍品のブルース・ラ・ブルース『L.A.ZOMBIE』。

 中村智道『天使モドキ』、中村雅信『句読点』『奇病1』『奇病2』『記念写真』、玉野真一『こうそく坊主』『純情スケコマshe』、工藤義洋『家族ケチャップ』、猿山典宏『強制送還』『牢獄ノ祭典』、三ツ星レストランの残飯『びくてぃむ』、小林紘子『序破急』、小口容子『堀之内の路地の子』。

 小口さんが突出し過ぎた魅力ある作品にこだわり、厳選セレクトしたラインナップとなっている『変態まつり』だが、こういった企画を成立させる小口さんとはどういう人なのか?

 「パンダが可愛かったから写真を送ります」と、送ってきたのがこの写真という謎の多い小口さんご自身にスポットを当ててみた。


























●なぜ『変態まつり』なのか?
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 2007年、小口容子プロデュースとして企画された『変態まつり 第1弾』だったが、上映直前に問題勃発する。個性的な面々を集めたことが災いしたのか、作家との間にトラブルがあり、あわや作品が上映中止か!?という所まで追い込まれた。

 どうにか予定通りの上映を終えた後、出品作家の一人が、別の出品作家についての暴露記事をミニコミ誌に掲載すると言う事態に。反論のため読者に手紙を送って対抗するが、結局大阪上映ができる状態ではないという判断に至った。

 転んでもただで起きない小口さんは、トラブルの原因である某氏への絶縁状として『私の好きな草原』という作品に仕上げた。

 小口さん言う所の“仲間割れ・内ゲバ”状態をイメージリングスの故・しまだゆきやすさんに訴えたところ、しまださんの反応はあっさりとしたものだったという。

「しまださんに「小口さん考えてみてよ。その3人を集めた時点でおかしくなるよ」と私が悪いみたいにハッキリ言われましたね(笑)」

 疲弊しきった『変態まつり 第1弾』となったが、小口さんは「メンバー変えればいいかな?」と懲りることなく翌年2008年に第2弾を企画する。第1弾の教訓を活かした人選で穏やかな開催となる。

 2010年の第3弾の後、自作のレインダンス映画祭2012、ロッテルダム国際映画祭2013招待作品の『愛がとまらない』をメインとする『変態まつり 番外編』を2013年に開催。

 劇場の受付で「変態まつり1枚」と口にする困った感が、この時点で祭に一歩踏み込んだ気にさせるが、そもそも何故このタイトルなのか?

「最初、インパクトのある名前ということで、最終的に揉めることになったキチガイ3人も招聘したことだし『キチガイまつり』というのも考えたんですが、チラシにこの名前を載せるのはちょっとなぁと。宣伝するときにハードルが高すぎると思って(笑)。ニュアンスを変えて『変態まつり』と表現しました」

小口さんが考える“変態”に当てはまる作品とは?

「自分の中の過剰なものを出さざるを得ないので出来てしまったと感じさせる作品を選んでいますね。自主映画が好きだから突出したものがないと!と思います」

●“面倒くさい”小口容子というひと
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 今回上映される作品については小口さんが公式サイトで熱く解説しており、ぜひそちらをご参照いただきたい。
フラフラと、悪夢にうなされるのも悪くないかも…と魔が差すような魅力がある。

 実際の小口さんも文章と同じように、饒舌で表現しにくいことも理論立てて語る努力を惜しまない。

 そんな小口さんだが、サバサバした気性の反面、よく人と絶縁する。総じて“面倒くさい人”と評されるギャップが面白い。物事の好き嫌いがはっきりしてるが故に、普通の人が我慢したりスルーするところをそのまま口にしてしまうのが原因か。

「ある程度まで我慢するんですけど、たぶん我慢のコップの底が浅いんじゃないかな。普通の人はもっと深いのに(笑)。我慢してる時は外から全然そうは見えないらしいんです。鷹揚に構えて“ふうん”って平気な顔してるのに、急にキレるみたいな(笑)」

 酔っ払ってるのに顔色が変わらない人みたいなものだろうか。いずれにせよ厄介ではある。

 小口さんは普段、社会保険労務士として勤務している。総務が担当するような入社や退社の手続き、給与の計算を企業から請け負う会社だ。会社の小口さんの様子を尋ねてみると、

「あまり変わらないかな。今の職場はベンチャー的な会社なので、『変態まつり』のことも宣伝して何人か来てくれそうなのでやりやすいですよ」

 堅めの仕事をこなし、映像制作の仕事に従事するダンナさんと大学生の息子さんもいるというのが小口さんのもう一つの顔だ。息子さんとの関係は?

「子供は醒めた目で私のことを見ているので、親は反面教師みたいな(笑)。作品はちゃんと観たりはしてなくて、家で編集していたら、“何これ?”みたいな反応。突き放して見てるようですね」

●暗黙の了解に乗れなかった子供時代
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 子供の頃の小口さんはどんな様子だったのか?

「ぼーっとしてましたね。今でこそ社会でどう振る舞えば良いか分かってるけど、子供の頃はあんまり友達もいなかったんですよ。

 自主映画を撮る人って多いと思うけど、自分が思っているように回らないなというか。女子同士って暗黙の了解で回っていくところがあるけど、それが上手くできなくて。疎外感がありましたね。

 弟がいるけど、弟がまた困った人で。今も働いてないんですけどね。親は銀行員で普通の一般家庭なんですけど。私は私で自主映画やってるし、弟は弟で何がつまずいているし、何かうまくいかなかった家庭みたいですね(笑)」

 そんな小学生時代を経て中学生になると音楽を聴くようになり、そこに全然違う世界があると気付いた。色々な形のアングラ表現を知ることで居場所を見つけた。常識と思われている基準の中で生きていたのがやり難かったんだと自覚したり、色々な人がいて、色々事をしてるんだと気付くことで、立ち位置を獲得して行けたのではないかという。
 当時はまっていたものを尋ねると、

「最初は音楽、漫画、色々ありましたね。タコってバンドがあって。高校の頃に雑誌の『宝島』に山崎春美が記事を書いていて影響を受けたと思います。

 去年初めて山崎春美の著作本が出て読んだときに、10代の私が作品を作るようになった1つのきっかけだったなと。音楽はプロデューサー的にバンドの中心になって色々な人を集めてメチャクチャなことをするという。私も真似から入って、みたいなところはありました」

●8ミリカメラを手にした頃
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 大学に入学した小口さんは8ミリ映画研究会というサークルに入り19歳で初めて8ミリカメラを手にする。部員が少ないと好きに出来るという抜け目のなさも手伝って、やってみると面白いかなという程度の動機だった。意外にも映画も特別好きだった訳ではないという。

「マイナー映画も少しは観ていたけど、たまたまですね。サークルで楽しいことが出来そうっていう。商業映画しか知らなくて。サークル内でやっていることは学生映画なのでそこで刺激を受けることはなかったですね。ゴダールの真似して8ミリを撮ったりしてました。

 PFFにプレ入選して、入選の前のイベントで上映してもらえるので行って、そこで自主映画をいっぱい観て。凄い人がたくさんいるんだなって打ちのめされて。

 その年は今考えると凄くて、松岡錠司、園子温、平野勝之、藤田秀幸(現・藤田容介)、井川耕一郎、大川戸洋介、藤原章という人たちがいて。
 それぞれキャラが立っている特徴的な映像で、この体験があるから最近の自主映画を観ると物足りないと思ってしまって。そこから本気出しました」

 小口さんの話を聞いているとよく、“負けられないと思った”という動機が出て来る。この時のインパクトは小口さんを一気に過激な作品へと駆り立てた。

 1988年、『エンドレス・ラブ』でぴあフィルムフェスティバルに入選。「当時のPFF某ディレクターを激怒させた超問題作!」という逸話が有名だが、何がかの人を怒らせたのか?

「当時の一番偉い人が審査の時は観ていなくて、後で観てお怒りになられたと(笑)。結局詳しい話は聞けなかったんですが」

 小口さんの上映会の作品紹介では“破廉恥だと怒られた”と。

「それはアオリですね(笑)」

 と、あっさりかわされた。

「その方に嫌われていると思っていたんですけど、その後ユニジャパンに助成金をもらうために行ったら面接官をされていて、“新作みたよ!良かった”って(笑)」

 そんな小口さんが昨年『愛のイバラ』で、同じ祭でも女性監督の短編作品を集めた『桃まつり』に参加したのには意外に感じた。

「色んな人に言われました(笑)。キャラクターや年齢が違うなとは思ったけど、他の人とやる機会がなかなかないので。
 『変態まつり』は自分の好きなようにやればいいけど、『桃まつり』では協調性を学ばせて頂きました(笑)。大阪上映は来年あたりになりそうです」

●『変態まつり』の使命感
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 昨年の『変態まつり 番外編』では劇場がほぼ満員という盛況ぶりを実際に見たが、全体の動員はどのようなものか?

「第1弾は当時の担当者が好意的で、回数を多く取り過ぎて結果的にバラけてしまったんですね。その結果を受けて第2弾は2回ずつ上映にして1番入りましたね。
 3回目もそこそこで、番外編も満員だったので今回も頑張っているところです」

 
 YouTubeにアップされている1分49秒の予告は短いながら、どの作品も一度見たら澱のように心に沈んで残るようなインパクトに圧倒される。

 参加作家である猿山典宏さんに以前お会いしたことがあるが、静かに笑っているような大人しい方で、予告のグロテスクで力強い映像を観て驚いた。

「普段腰が低くてあまり喋らなくて。作品見ると、あの人が!?みたいな(笑)。上映会に来ても喋らず、すーっと帰っちゃう感じ」

 公式サイトのブログには、やはり文章でも寡黙だった猿山典宏さん、『変態まつり 第4弾』開催の大きなきっかけとなったという『天使モドキ』の中村智道さんのコメントが掲載されている。そちらもぜひチェックして頂きたい。

 過激な作品が揃った『変態まつり』のラインナップだが、プロデューサーである小口さん自身は常識的な部分と過激な部分が普通に同居している。そのことについては自覚的なのか?

「女だからというのもあるでしょうね。今はそうでもないけど、昔は男性は時期が来たら社会化すべしというルールがあって。社会化出来ない人は完全にドロップアウトして生きていくしかなかったんですが、女性の場合は両方できるんですよね。

 私自身はドロップアウトをしちゃう素質がない。常識的な型があってそこからはみ出るよとやっている感じ。メチャクチャな人はそもそも型がなくて、最初から自分のルールに従ってやってるんですね。ドロップアウト型の人に対するコンプレックスはあるけど、それ以上のものを自分の中に持っていないのは分かっているので自覚的。

 『変態まつり』をやっているのも、私がやらなかったら上映されない作品を見つけてやりたいというのがあって。
 それが自分の役割というか、使命感的なものがありますね」

若い人が映画を観なくなっていると言われるが、新しい層は呼び込めている?

「担当者がその都度違っているので、よく分からない部分もありますね。最初の担当者が話してくれたのは、嬉しいことにいつものアップリンクの客層とは違っていたそうです。知らない若い人が来てくれたり。

 8ミリ自体は無くなりそうなので、できる間は上映したいです。今回は8ミリ作品をフィルム上映します。いつも観てくれている人たちはもちろん、映写機がカタカタ回る感じを知らない若い人も伝えられたらいいな!」

執筆者

デューイ松田

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■『変態まつり 第4弾』公式サイト
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