京都を基盤とするシマフィルムは、2003年に森?東監督の『ニワトリはハダシだ』で製作配給をスタート。以来、若松孝二監督の『17歳の風景 少年は何を見たのか』(05)、小林聖太郎監督『かぞくのひけつ』(06)、柴田剛監督『おそいひと』(04)といった問題作・話題作を手掛けて来た。
2010年から“京都連続”と銘打ち柴田剛監督『堀川中立売』、山田雅史監督『天使突抜六丁目』(11)と誰も見たことがない異次元京都を舞台に劇場体験のダイナミズムを味わえる作品を世に送り出している。

そんなシマフィルム関連作品の監督インタビューを2回に渡り紹介したい。

第1回目は現在5/11(土)よりシネ・ヌーヴォにて公開中の京都連続第3弾作品『太秦ヤコペッティ』の宮本杜朗監督。

『太秦ヤコペッティ』の主演を務めるのは、ミュージシャンの和田晋侍(巨人ゆえにデカイ/DMBQ)、関西演劇界で活躍するキキ花香(劇団 子供鉅人)、元「グレートチキンパワーズ」の北原雅樹。
モンド映画と称される見世物的残酷ドキュメンタリーの元祖・ヤコペッティの名をタイトルに冠しているだけあって、残酷描写あふれる見世物映画のいかがわしさを前面に押し出しながら、磁石の家を建てるという常識を覆すアイディアに生きる仲むつまじくたくましい家族の姿を超然としたユーモアで描いている。







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磁石の家という発想
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——シマフィルムの京都連続の第三弾となる『太秦ヤコペッティ』ですけど、シマフィルムで撮ることになったきっかけを教えてください。

宮本:4年前に僕が監督した石井モタコくん主演の『尻舟』を公開することになったんですが、同じ頃に公開予定だった京都連続第一弾の『堀川中立売』(柴田剛監督)の主演もモタコくんだったことから、シマフィルムさんが配給の協力をしてくれることになったんです。
代表の志摩敏樹さんに「京都連続の次は決まっているんですか」って聞いて「決まってない」と言われた時に、何の根拠もないんですけど僕に撮らせるだろうって思ったんです(笑)。それで「志摩さん、僕に映画撮らせますよ」ってアピールし続けて実現しました。

——その時から具体的な物語は決まっていたんですか?

宮本:何も決まってなかったですね。ただ、太秦という場所で家族の映画にしたいというのはありました。

——通常は地面の上にしっかりと立っているはずの家が、この映画では磁石で浮いています。壁もないですし。『太秦ヤコペッティ』という映画についても既存のものを崩したいという発想があるのでしょうか。

宮本:真面目に映画やってると、枠からははみだしてしまうんじゃないですかね。磁石の家は10年前位のノートに磁石の家が描いてあったんですね。多分その時の思いつきだとは思うんですけど。家族の映画を撮るとなった時に、これがはまるんじゃないかと。提案してみたら志摩さんも共同脚本の松永後彦さんも賛成してくださって。

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公衆便所と正義感
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——主人公の省二は磁石の家を建てようとしたり牛の皮で壁を作ろうとする自分の法則で生きている人物ですが、主演の和田晋侍さんは実に自然に省二を演じていますね。

宮本:彼自身が遠くないですね。ああいうことをしそうと言うか。

——相対する存在として、北原雅樹さんが正義感が高じて街の“掃除”を始めるお巡りさん小早川を演じています。彼が非番の時間に公衆便所を掃除するシーンが非常に印象に残りますが、彼は掃除することで日頃の義憤を発散してきたということでしょうか。

宮本:正義感はあるけど勇気もなく臆病な人物で、公衆便所を掃除する。ばっちりやと思ったんですね。個室は他人から見られることも、基本的には脅かされることもないです。自分の正義感、これは自己満足もはらんでいると思いますが、他人の糞便を掃除してすっきりするのはばっちりはまるなと。

——汚い場所を丁寧に掃除する。長い時間かけて追っていますがあれでキャラクターが理解できました。

宮本:象徴的な行為ですね。

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過激なシーンに託した愛情表現
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——プロデューサーの志摩さんは内容に関して結構意見を言われますか。一番やり取りがあったのはどのシーンでしょうか。

宮本:意見はどんどん出してきますし、一番話したのは誰が死ぬかということですね。僕は屍姦のシーンをやりたかった。これは当初から提案していて松永さんも尊重したいと言ってくださって。志摩さんも賛成してくれてたんです。それをラストシーンとして考えていたんですが、屍姦で終わるのは道徳的に、お客さん的にあまりよろしくないということになって。どうしてもやりたかったので夢のシーンとして取り入れました。

——屍姦にはどういったこだわりがあったんですか?

宮本:これは危ないことを言ってるように聞こえるでしょうけど、もし嫁さんが死んだら屍姦したいし、肉も食べたいという気持ちになると思うんです。

——過激ですが愛情の表現なんですね。

宮本:そうですね。大事な人を自分の血肉にしたいという感覚。僕は結婚してないんですけどね。(笑)
夢のシーンに入れるだけでは自分の中でワクワクしないと思ったので、その後に凄く幸せなシーンをもって来たんです。

——あのシーンがあることで、あるキャラクターが救われた感じがしました。

宮本:何かすっとしたんでしょうね。

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見世物映画の巨匠の名前を見世物的に
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——“ヤコペッティ”はどの段階でついたんですか。

宮本:そろそろ撮影に入る段階で、志摩さんから出ました。これは完全に後付けですけどヤコペッティは『世界残酷物語』を撮ってるし、この映画は牛も殺すし残酷なシーンもあるし、意味としても捉えることが出来る人物名だなと。
丁度脚本書いてる最中にヤコペッティが死んだので、見世物映画の巨匠の名前を見世物的に使えばヤコペッティも浮かばれるかなと。(笑)

——最後に宮本監督は家族というものをどう捉えていますか。

宮本:僕は結婚もしていないし、ほぼ妄想ではあります。家族間の不仲を描きたいとは思わないですね。太秦を大人になって訪れた時に、初めて親父の気持ちになれました。嫁さんがいて五歳の子供がいる。可愛いと思っていたはずだし、家族のために頑張って仕事をしていたんだと。その思いが出発点。思いやりのある家族像を最後まで描いたと思っています。

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第2回目は、シマフィルムと映画人の育成を手掛ける映画24区が共同で現在製作中の
『父のこころ(仮)』谷口正晃監督の登場。
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執筆者

デューイ松田

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