シマフィルム関連作品の第2回は、映画『父のこころ(仮)』。
京都木屋町の元・立誠小学校を拠点にシマフィルムと新人俳優の育成・起用を手掛ける映画24区が、「京都を舞台にした大人の鑑賞に堪えうる映画」をコンセプトに共同製作に入った。

監督は、『時をかける少女』(’10)でヨコハマ映画祭・新人監督賞受賞した谷口正晃。何度も映像化された作品において、疾走する仲里依紗の弾けるような明るさ素直さを引き出し、現代の『時かけ』像を構築した。また『乱反射』(’11)では、短歌の才能を評価されながら、人を想う気持ちを実感できないまま表現を模索する女子高生役に桐谷美玲を起用。花開くような瑞々しい成長の姿を捉えている。

主演は関西を拠点に活動し、往年のフォークソング『プカプカ』のヒット曲で知られる大塚まさじ(ザ・ディランⅡ)。他のキャストは、昨年開催されたシマフィルムと映画24区による京都映画人発掘育成プロジェクトのワークショップ[映画24区KYOTO2012]の参加者からオーディションで選ばれた期待の新人たち。
谷口監督の新人を飛躍させる手腕に期待したい。

現在撮影がアップした谷口監督に、京都で過ごした少年時代の映画体験から、『父のこころ(仮)』の制作について話を伺った。











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ゴジラから始まった映画体験
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——谷口正晃監督は去年、[映画24区KYOTO2012]の俳優ワークショップで講師をされ、それが今年5月開講のシネマカレッジ京都や映画『父のこころ(仮)』の製作に発展していますが、関わってこられていかがですか。

谷口:光栄です。嬉しいし照れ臭くもありますね。

——プロジェクトの拠点となる木屋町の元・立誠小学校ですが、1階の廊下に歴代の卒業写真が展示してあります。谷口監督は立誠小学校出身とのことで、あの中の写真の1枚に写っておられるんですね。

谷口:そうです。昭和54年度の卒業生です。引っ込み思案のおとなしい子でした。ゴジラなど怪獣映画が大好きだったけど、映画を作るなんて夢にも思わなかったですね。

——初めて観た映画は何でしたか。

谷口:初めて観たのは京都の東宝の封切館の京都宝塚劇場で『ゴジラ対へドラ』だったかなぁ。小学校低学年だったから母親に連れられて行きました。同時上映でアニメが3、4本あって、似たような親子連れがたくさんいて立ち見をしたり、新聞紙を引いて座り込んだりして観た記憶があります。

——映画はよく観に行きましたか。

映画館が徒歩30秒くらいのところに軒を連ねていたので、しょっちゅう行ってましたね。今は松竹座や河原町通りにあった東宝がなくなって。シネコンもいいけど映画小屋と言えるような建物がどんどんなくなっているのが寂しいですよね。

——忘れられない映画はありますか。

谷口:当時は僕も周りも怪獣映画に夢中でした。小学校5・6年生くらいになるとブルース・リーもはまったし、『ジョーズ』などのパニック映画、『スターウォーズ』、『未知との遭遇』といったSF映画も大好きでした。中学時代は文芸映画の『ゴッドファーザー』や『エデンの東』といったアカデミー賞を取ったような作品を観るようになって。祇園にある祇園会館という名画座で、映画雑誌の『スクリーン』をガイド代わりに3本立てを1日がかりで観ましたね。高校時代は『明日に向って撃て!』などアメリカンニューシネマが凄く好きでした。

——監督を志すきっかけの映画というのはありましたか。

谷口:この一本で、というのはないんですけど、特に好きなのは『真夜中のカーボーイ』。最近の映画はハッピーエンドが多いけど、アメリカンニューシネマは主人公が死んだり何か失って終わる作品が多くて、“そういう映画があるんだ!”という驚きと自分に響いてくる感じがしましたね。

——いい映画体験をしてこられたんですね。地元はどういった土地柄だったんでしょう。いつまで住んでいましたか?

谷口:この辺は変わらないですね。賑やかで、いい意味でごった煮(笑)。高瀬川が流れていて情緒もあるし、一方で繁華街でもあるからいろんなものがミックスされていて。京都は高校卒業までいて、日本大学映画学科へ進学のため東京へ行きました。

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●重なりぶつかり合う家族の情を描く
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——さて『父のこころ(仮)』のお話に入る前に、谷口監督ご自身はお父様との思い出で印象深いものはありますか?

谷口:実家は洋服屋で、店が休みの時に親父に車で川釣りに連れて行かれたことを覚えていますね。商売をやっていると休みは平日で、幼稚園時分は病気でもないのに休まないといけないのが嫌でした(笑)。

——それは商売人のお家の子供ならではの思い出ですね(笑)。谷口監督は“父親”という存在をどう捉えておられますか?

谷口:人間って複雑だなあって思いますよ。世間でいう絶対的なイメージはないですね。

——一人の人間として捉えておられるんですね。『父のこころ(仮)』も、家族を捨て失踪した父親が骨壷を持って9年ぶりに帰ってくる、といういわゆる大黒柱的な存在とは正反対の父親の姿が描かれます。シナリオは公募されたんですか。

谷口:脚本を公募したんですけど、これという一本が見つからなかったんですね。選考には至らなかったけど濱本敏治くんの作品が面白かったので、僕と共同脚本という形になりました。

——ベースとなるストーリーはお二人で考えたんでしょうか。

谷口:僕が家族の話をやりたいという提案をしたことからスタートしました。せっかくシナリオをゼロから作るんだから、いままで撮ってきたような若い男女の話しよりも、商業ベースには乗せにくくても、以前から興味のあった家族ものをやってみたいと思いました。“大人の話”に挑戦してみたかったんですね。
ブレストするうちに、失踪した親父が骨壷を持って帰ってくるというアイディアが出て、いいねってことになり、更にディスカッションしながら濱本くんが形にしていきました。嘘のない、実感を大切にした物語にしたかったので、色々苦労しましたが、最終的にはリハーサルを踏まえての改訂をして、決定稿にしました。

——家族のどういったところを描きたいとお考えですか。

谷口:どの家もそうだと思いますが、蓋を開ければよそ様に見せられない混み入った事情や、人に聞かせられないことが絶対あるはずです。よそ行きに飾り立てずに家族の話を丁寧に描きたいと思っています。

——キャストはお父さん役にミュージシャンの大塚まさじさんですね。

谷口:基本はワークショップの受講生と作る作品なんですけど、父親の年代の人がいなかったので、既存の俳優ではなく音楽をやってらっしゃる大塚さんにオファーしました。NHKのドラマに少し出演されていますが、主演は初めてです。大塚さんと作品の中の父親、賢一はイコールじゃないけど、大塚さんが何十年重ねて来た時間があって、それがいい形で役に生きてますね。演技が達者な既存の俳優さんには出せない、味わいのあるお父さんの存在を感じさせてもらっています

——ワークショップの受講生の皆さんはいかがですか。

谷口:経験のないまっさらな人でも、じっくりやっていけばいいものが出てくる瞬間があります。関西の小劇場の人も参加されていて、押し出しの強い芝居をするんですけど、ワークショップでは自然体の演技を求めたので、新鮮だったようです。そんなに頑張り過ぎなくていいですよとか、なるべく張り切りすぎないようにアドバイスしました(笑)。

——大塚さんのお父さんとワークショップの受講生の取り合わせはいかがですか。

谷口:いい感じです。出来る人もいれば発展途上の人もいますけど、容赦ない指摘にあがいてもらいながら進めています。

——谷口監督は『時をかける少女』の仲里依紗さんや『乱反射』の桐谷美玲さんなど、新人の俳優さんと組まれることが多いんですが、やはり厳しく演出するやり方でしたか。

谷口:言いますね。殻を壊してあげないと新しい面が出てこないですから。

——撮影はどういったところでされましたか。

谷口:ロケ場所は、この小学校の付近と教室の中や京都ならではの町家、鴨川の土手などで撮影しています。よくあるご当地観光映画ではなく、さりげないけどいい景色がたくさん出てきますよ。

——地元出身監督ならではの強みですね。今製作はどの辺まで進んでいますか?

谷口:撮影は順調に終わりました。6月から編集に入るところですが、ワークショップの俳優さんも頑張ってくれたのでよかったですよ。

——最後に映画の見所を教えてください。

谷口:奥深く家族を見つめて、家族の情と情が重なったりぶつかったりする様子を観て頂きたいですね。若い人にも観て欲しいし、年配の方も味わって貰えるものにと考えています。VFXでデコレートされたきらびやかな映画もいいですが、派手さはなくても噛み締めるようにじっくり感じてもらえる映画も必要だと思います。今はTVでも映画館でもなかなかそういうものに出会えないんですよね。今公開されている映画では物足りないと思っている方にこそ、観てもらいたいです。

『父のこころ(仮)』は、元・立誠小学校 特設シアターを皮切りに2014年公開予定。
続報にご期待いただきたい。

執筆者

デューイ松田

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