8/31、渋谷のアップリンク・ルームにコラボ・モンスターズ襲来!

今回は『コラボ・モンスターズの逆襲』と題しての一日限りの公開となる。
トークゲストにデザイナーの高橋ヨシキ氏を迎え、『kasanegafuti』(西山洋市監督)、『旧支配者のキャロル』(高橋洋監督)、『love machine』(古澤健監督)にゲスト作品の『×(かける)4』(万田邦敏監督)を加えての上映予定となっている。

コラボ・モンスターズの中から古澤健監督に続いて、ホラーから人間ドラマへの転換を図った『旧支配者のキャロル』の高橋洋監督にお話を伺った。

<STORY>
映画学校の卒業制作の現場に、監督として立つことになったみゆき(松本若菜)。選ばれなかった者たちの反発、講師であり女優のナオミ(中原翔子)の影響力に、みゆきのプレッシャーは極限に達しようとしていた。規定のフィルムが底をつきかけた時、ナオミの過酷な要求が撮影現場をただならぬ局面へ導いていく。

◆コラボ・モンスターズ!!とは◆
トラッシュカルチャーマガジン『TRASH-UP!!』と、映画美学校で講師を務める西山洋市・高橋洋・古澤健という三人の監督のコラボレーションにより生まれた上映プロジェクト。機材の進化で誰もが映画をとれる環境になっており、商業映画と自主映画の境目が無くなったと言われているが、あるプロセスを経ることでプロの映画制作者になれるという道筋がなくなり、若い作り手たちの展望が見えなくなっているのも事実。そんな状況の中、プロの監督たちと若手の制作者がタッグを組んで、自主映画でもない商業映画でもない新しい『娯楽作品』を生み出し、映画の可能性を提示するのが『コラボ・モンスターズ!!』という挑戦である。
















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◆権力的にふるまうことで普段伝えられないことを学んでもらう
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——映画美学校生とのコラボレーションで制作された『旧支配者のキャロル』についてお伺いします。高橋洋さんと言えば誰もがホラーを期待しますが、この作品は何故人間ドラマになったんでしょうか。

高橋:僕は元々脚本デビュー作も人間ドラマだったんです。でもたまたま『リング』が当たったことでホラーの仕事をメインにするようになって今に至る訳です。2009年にメタレベルの『恐怖』を撮ったことで、ジャンルムービーから離れて、人間ドラマもやれるってことを示したいというのがあったんでしょうね。
まず僕から3つの条件を学生に提示しました。1つは「16mmフィルムを劇中で使う」。
知り合いから譲ってもらったたくさんの16mmフィルムがあってこれを生かそうと。2つめは低予算の企画だから「ロケ場所を極力一箇所に絞って撮影する」。3つめは「人間ドラマにする」こと。

——この3つの条件を満たす脚本を学生さんで競ったということですね。

高橋:何度も何度も書き直しをさせる中で「16mmフィルムを使う」ってしばりから、“劇中劇の撮影現場のバックステージもの”しかないってことになりました。「映画残酷物語にしたいから、君たちのリアルをガンガン盛り込んで」って学生に出してもらったアイディアを元に、数人の脚本を最終的に僕が1本にまとめました。

——映画に出てくるようなエピソードは制作の現場では多々あるんでしょうか?

高橋:局面局面で辛いことはたくさんありますよね、ラッシュの日にカメラマンが吐くとか、監督に選ばれた学生のことを普通は苗字やファーストネームで呼ぶんだけど、揶揄するときにはわざと「監督」って呼んだり。そういう細かいことを生ネタとして使っています。全体の話としてはこんなことある訳がない(笑)。リアルを知ってるからデフォルメも出来るんです。

——オープニングも印象的で、長嶌寛幸さんの音楽もインパクトがあるし、選考会議をしている講師の面々が東映風でヤクザに見えました(笑)

高橋:ストップモーションが入るから『仁義なき戦い』みたい(笑)。あの辺は僕が作りました。学生たちは選考会議のことは知らないからデフォルメもできないので。僕らの中には、ここで選抜することで運命を決めているって感覚があるんです。みゆきの最初の登場は、願書の中のモノクロコピーの写真。原本はカラーで事務局が管理していて、僕らが目にするのはモノクロのコピーだから、あれは僕たちにとってのリアリティです。あそこで紙一枚でみゆきが選ばれちゃった。ここから運命が動き出します。その入り方、いいぞ!って(笑)。

——高橋さんは「撮影の現場では意識して権力的に振舞う」仰ってましたが、どういう風に進められるんですか?

高橋:僕が「こういう風にやるよ」って教えてしまうのは簡単ですが、それをやると僕のコピーになるので、普段の授業ではひたすら我慢強く、彼ら自身の作品をどう引き出すかに徹しています。相手の出方を見て気遣いながら言葉を捜して、いちいち言いたいことはあるけど言わないんです。
ただそうすると一番伝えたい部分がなかなか伝わらない面もあって、どれだけ真剣に必死になるかこそ伝えたいんですよね。自分の映画で利害・損得が掛かっているときはそれが出る。権力者になると、気分がいいですよ(笑)。「これで許してください」って泣き付いても絶対妥協しない。そんな世界で彼らと向かい合ったときが一番いい教育の現場になると思うんですね。

——中原翔子さんが演じたナオミ先生の台詞で「フィルムに残るのは私なの」ってありましたね。

高橋:あれは中原さんが他の現場で俳優さんと話していたことをずっと心に留めていたんです。

◆2人のヒロイン・中原翔子さんと松本若菜さん

——2008年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で、『狂気の海』の上映とトークがあって、高橋さんが中原さんのことを「昔はもっとナチュラルな台詞を書いていたけど虚構性が強い悪を演じられる女優と出会って変わった」と話しておられたのが印象的でした。

高橋:最初は篠崎誠さんが主催した『刑事まつり』の中原さんを観ていいなと思って。まさかこういう人が自主映画に出てくれるとは思っていなかったんです。
最初『怪談新耳袋』に出演してもらった時、中原さんは普通の主婦役でしたが、“この人は虚構度の高い芝居に対応できるんだ”ってだんだん気づいていったんです。『ソドムの市』からは役を当て書きしてやってもらうようになって。後々特撮の大ファンとか、特撮で活躍していた曽我町子さんを尊敬しているとか知って。僕は特撮マニアではないんですけど子供の頃に見た異次元にジャンプするようなコテコテの世界が一番本当だと思っているんです。同じようなベースを持っていることが後々分かって来たんですね。それまでは今なりの映画に合わせてやって来たけど、そういった志向が中原さんとの出会いで加速しました。
これは最近聞いたんですけど、中原さんが一番好きな映画の一本が『Wの悲劇』。三田佳子さんが演じる羽鳥翔っていう大女優が薬師丸ひろ子をしごいて追い詰めるところが好きで、よく仲間内で羽鳥翔ごっこをやっていて。そのことは本人も忘れていたらしいんですけど。当て書きと称しながら中原さんがやっていたことをピンポイントで突いていたんだから不思議だなぁって思います(笑)。

——もう一人のヒロイン・松本若菜さんはいかがですか?

高橋:オーディションで話して彼女の持つ独特の暗さが気に入って、オーディションのつもりが、その場でリハになっちゃって。
彼女も本質としての暗さを指摘されたことで、信用できる監督だと思ってくれたみたい。きれいな人だけど美学校生の中にみゆきとしていても違和感がない地味さも持ち合わせているのがよかったですね。
本編で出てくる履歴書の写真はオーディションの資料用に撮った写真なんですけど、暗い思いつめた顔に彼女の本質的なものが出ているように思いました。

◆芝居は声。台詞を強く押し出すことへのこだわり

——現場のお二人はいかがでしたか?

高橋:中原さんのことはよく分かっているけど、若菜さんも相当な根性の持ち主でしたね。台詞が一回入ったら間違わないし、何回要求してもやれちゃう。

——劇中「同じことを何度でも繰り返せるのがプロ」って台詞もありましたね。

高橋:タイトなスケジュールだから、毎回繊細に迷う人では撮り切れなかったでしょうね。自分の書いた台詞はむき出しで言って欲しいんです。中原さんはどういう台詞のトーンを狙っているか分かります。若菜さんには、抑揚のような装飾を全部外して棒読みに近い状態で台詞を強く押し出すことをひたすらやってもらいました。すると中原さんの台詞もビンビンにチューニングしてきて(笑)。2人の声のバランスや響き、声がガラガラになっている所も含め一番いいものが引き出せたんじゃないかな。

——今までも演出の際は、特に声にこだわってこられたんでしょうか。

高橋:お芝居イコール声というくらい声は大事です。逆に声さえ出来てればお芝居もいいレベルになってる。台詞を書いたときに自分の中に聴こえているトーンがあって、1回はそれに近づけて、あとは役者さんの持っている声質で変わってきます。この台詞は強く押し出せるはずだっていうものしか書かないし、遊べる台詞は書かない。

——曖昧な台詞がないので緊張感が張り詰めてエスカレーションしていくようでした。

高橋:それが人を追い詰めていく感じになるかなぁと。今だから理屈っぽく言えるけど(笑)。台詞をいかに言うかって探求はずっとしてきましたね。

——劇中の演出シーンで「もっと棒読みで!」ってありましたね。

高橋:あれは現場で僕がやってることを再現してるんです。

——年長者で制作部兼俳優を演じた津田寛治さんはいかがでしたか?

高橋:自虐的な40歳の村井という役も当て書きです。村井は年長者だから学生たちも一応さん付けで呼ぶけど、居ないところでは何を言われているか分からないぞって嫌な感じを本人も分かってるんです。でもいい人として制作部って言う一番縁の下の力持ち的役割でみんなの役に立とうとしている。彼は一回役者を断念しているという設定で、役者を経験した人は自分がどう観られるかって欲があるんです。津田さんの存在からにじみ出てくるようなモノとして書きました。
もし、津田さんが美学校生で学生たちと一緒に飲みに行ったとする。映画の話になったところで、最初は大人しく聞いているんだけど、そのうち「『フレンチコネクション2』が最高だよね!」とか言って、誰も観てないみたいな(笑)

——世代間ギャップですね(笑)

高橋:「そういう感じでお願いします」って言ったら「ハイ、分かりました!」って。役はほぼ全員があっという間に掴んでくれましたね(笑)

◆リアルを重ねて虚構の世界へ飛躍する

——今回のホラーから人間ドラマへという転機に関して、ご自分ではどう解釈されますか?

高橋:今まで「ホラーファンです」って自称していたんですけど、最近ちょっと違うって気付いたんです。このジャンルが好きで作っていたのではなくて、むしろジャンルのお約束に依存しないで、本当の恐怖体験を仕掛けたかったって。ジャンルで撮っていなかったんですよ。“本当の”って傲慢ですけど(笑)。職人としてこのジャンルはこう撮るって約束事を踏まえながらやってゆくことが映画を支えてゆくと思うんだけど、一方で新しい血がジャンルを更新してゆくんで。その後、「ホラーの人」ってイメージの元、色々な注文が来て仕事をこなして行くんだけど、自分の中で信じている「恐怖」を探求していくうちに、次第にジャンルの約束事の中で観客の期待に応えることから離れて行って(笑)

——メタホラーになった『恐怖』のことですか。

高橋:そう。さすがに「よく分からない」と言われがちなので、もっと分かりやすい表現を模索していたところ、学生にお題を出すっていう状況の中で「人間ドラマ」が浮かんだ。それが意外にフィットしたんですね。虚構性の強いものでないと自分のやりたいことが出来ないと思っていたけど、こういうやり方もあるんだなと。それはこの世界で映画美学校に集まって来る学生の生態を知り尽くしているからこそなんですね。自分が一番知っている世界を材料にして嘘をつく。これからもっと練磨していくともっと世の中を騙せるんじゃないかって気がします(笑)

——高橋さんの映画で面白いのが、日常と異なる世界へ飛躍する力が強いことです。『旧支配者のキャロル』でも、映画学校に通っている人達の話ですけど、異世界へ飛躍しています。

高橋:若干どうかとは思うけど(笑)、現実にありそうなことを1つ1つを重ねていくうちにあり得ない世界へ。一回虚構のハードルを下げたことでテイクオフのベースが作れたんですね。お客さんも分かりやすかったみたいで、こちらが計算した反応が返って来て驚いています。評判が良かったので、これは戦略的にもありえるぞ、と。

——今回で可能性を見出しされて、今後撮りたい作品にも繋がって来たんですね。それでは最後の質問です。映画業界が疲弊していると言われていて、予算も下がってみなさん苦労しておられると思いますが、逆に高橋さんがそんな中でも希望を感じておられる点はありますか?

高橋:確かに疲弊しているし、経済的にはきつい要因だらけです。食うためだけではなく、それでもやりたい人の世界になっていく傾向は強まるだろうな。映画好きが映画を作ることで、閉じてしまう弊害は一方であるだろうけれど、でも制約って面から言うと、表現の可能性についてはむしろ楽観的。

——それはどういうところですか?

高橋:映画業界なんていつも崖っぷちだったんですよ。常に予算が減らされ、状況は悪化する一方です。でもその度、物理的な限界、制約を課せられたことで様々な試みに挑戦して新しい興行の形を見出していった。そのことは変わらないと思います。何処まで予算が切り詰められ、どれだけ小規模な作品で勝負せざるを得なくなるか分からない。でも僕たちは提示された条件に合わせてやるし、枷に技術で対抗することで新しい映画の形が見えてくると思います

——『旧支配者のキャロル』を制限の中で作ったのと同じことなんですね。

高橋:そう!枷が新しいアイディアを生み出すんですよ。

執筆者

デューイ松田

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